私が決めた要件通りにシステムを作ってもらいましたが、使えないので訴えます:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(88)(1/5 ページ)
えっ? システムが実用的でないって? でも、要件を決めたのはあなたでしょう?
この連載を始めて、7年になる。長くご愛読いただいている読者の皆さまに感謝の念が絶えない。このように長くIT紛争を見続けていると、同じような問題、同じような言葉に何度となくぶつかることがある。街中にある主要な交差点のように、気が付くとその場に立っていて「さて今日はどの方向へ曲がればいいか」と考える場所。そんな言葉である。
「契約の目的とシステムの要件」――IT紛争の勉強や著述などをしていると、いつもこの言葉にぶつかる。「定義されていない要件であっても、それなしには契約の目的を達成できないものであれば、事実上定義されていたと考えなければならない」「たとえ要件通りでも、契約の目的に資することのないシステムを作れば、債務不履行に問われる危険もある」。こんな趣旨の判決や論文に何度となく出会ってきたし、頭を悩ませてもきた。
システムの要件は契約の目的に対して必要かつ十分でなければならないし、契約の目的はそこからシステムの要件を導出できるほどに具体的でなければならない。考えてみればこれは、システムの開発において最も重要な1丁目1番地であり、だからこそ何度となくこの言葉に遭遇するのかもしれない。
今回紹介する紛争も、この「目的と要件」に関係しているものだ。ユーザー企業がベンダーのサポートを受けて定義した要件が、契約の目的に照らして必ずしも十分ではなかったとき、その責任を負うのはユーザーとベンダーのどちらなのだろうか。
教科書的に考えれば、要件定義の主体はユーザー企業であり、仮にベンダーのサポートがあったにしても、その責任はユーザー企業が負うべきと考えられる。しかし実際はそう単純なものでもないようだ。
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