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第254回 IntelがRISC-Vに急接近、でも組み込み向けは失敗の歴史?頭脳放談

Armの対抗として注目を集めている「RISC-V」。そのRISC-Vを採用したプロセッサの設計を行っている「SiFive」とIntelが最近急接近しているという。既にIntelが、ファウンドリサービス(半導体製造サービス)でSiFiveのプロセッサを採用している。さらに、SiFiveをIntelが買収するのでは、といううわさも。ただ、それには不安な要素も……。

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 プロセッサ、特に最近では「RISC-V」に注目している人であれば、「SiFive」という会社の名を聞いたことがあるだろう。RISC-VはオープンなRISC命令セットの規格であり、最近、特に人気が高まっている。

 その起源は、カリフォルニア州のカリフォルニア大学(UC:University of California)バークレー校にある。現在、規格そのものはRISC-V Internationalという非営利団体(本拠地はスイス、中立性を高めるためと思われる)が標準化を進めている。多くの企業や大学などの組織がRISC-V Internationalに加盟しているが、その中でSiFiveは中心的なIP(半導体設計)会社であると目されている。何といってもその創業は、UCバークレーの研究者によるものであり、RISC-V業界での元祖的な立ち位置で商用化をけん引してきたからだ(RISC-Vについては頭脳放談「第250回 数奇な運命をたどる『MIPS』は『RISC-V』で復活を図る?」も参照)。

IntelはファウンドリサービスでSiFiveのプロセッサを採用

 さて、SiFiveに関して気になるニュースが2つある。1つは、SiFiveの最新鋭、最高速のプロセッサIP「P550コア」がIntelの7nm製品に搭載されるというニュースである(SiFiveのプレスリリース「SiFive Performance P550 Core Sets New Standard as Highest Performance RISC-V Processor IP」)。既に2021年3月時点で、SiFiveはIFS(Intel Foundry Services)との連携についてリリースを出しているから、その延長上にある話と理解される(SiFiveのBlog「SiFive collaborates with new Intel Foundry Services to enable innovative new RISC-V computing platforms」)。

 既に組み込み用途では、SoCやマイコンでのRISC-Vコアの搭載が増えているように思える(Armにロイアルティを払いたくない場合に多い気がするが)。Intelが自社製品へのRISC-Vの組み込みをしたとしても、大きな驚きはない。

 RISC-Vの規格そのものは命令セットでしかないから、誰かが実際に動く回路=IPを設計しないとならない。よくできた命令セットなので、初歩的なプロセッサであれば大学の研究プロジェクトでも十分できるだろう。

 しかし、実際に商用化できるレベルとなると、IPベンダーや半導体ベンダーが乗り出さないとならないだろう。IPは一度設計すれば済むというものではなく、メンテナンスとサポートの世界だからだ。オープンな規格なので、RISC-VのプロセッサIPを販売しているIPベンダーも複数ある。多くのベンダーは、ArmでいったらCortex-Mクラスの製品が主力だと思う。そんな現状、Cortex-AクラスのArmと戦えるRISC-VとなるとSiFiveのIPということになるのだ。

IntelがSiFiveの買収を検討?

 もう1つのニュースは、IntelがSiFiveの買収を検討しているというニュースだ。どこまで本当か分からないが、さもありなんという感じのニュースだ。今のところ確報はない。

 この買収話の個人的な感想としては、「買収したら本当にうまくやれるのかな、Intel?」という疑念を含むものだ。買収はそれなりの金額のようだが、Intelにしたら目をむくような金額ではないらしい(うわさレベルだが)。やじ馬的には、「そのくらいIntelなら平気でしょ」という感じ。

 一方、SiFiveにしたら大きいはず。シリコンバレーの投資家などからも注目を集めるベンチャー企業として、SiFiveはかなりな投資金額をかき集めてきたはずだ。その一方で、ローエンドからハイエンドまでのプロセッサIP、関連IPなどを開発するのに、結構な開発費を使ってきているとも思われる。

 特にP550に代表されるハイエンドのコアはいくら設計しやすいRISC-Vといっても金食い虫に違いない。Intelが買収してくれれば、初期投資家の面々はもうけを出してExit(投資回収)できるだろうし、SiFiveにしたら、かさむ開発費とベンチャーにはハードルの高い最先端プロセスの使用をバックアップしてくれる親の登場ということになる。

 買う側(まだ決まったわけではないが)のIntelにしたら、目の上のタンコブ的なNVIDIAによるArmの買収(世界各国の規制当局の認可次第だが)に対抗し、RISC-V陣営の最有力のIPベンダーを取り込めるという図式だ。NVIDIAのArm買収に反発する向きは多く、それが現在のRISC-Vへの追い風になっているというのはありそうな話であり、Intelにしたら、対Armというよりも、対NVIDIAのためにも固めておきたい陣営であると想像する。

Intelの組み込み市場向けには不安な要素も

 Win-Winじゃないか! でも、そこに疑念を抱いてしまうのはなぜか。それはIntelの歴史を記憶しているからだ(昔のことで記憶違いもあるかもしれないが)。

 例えばIntelは、一時「ARM(当時は全部大文字だった)」世界の発展にも「コミット」できる立場になったことがある。PDP-11やVAXというミニコンでコンピュータ大手となったDEC(Digital Equipment Corporation)の崩壊のおり、IntelはDECの半導体部門の買収とともに、「StrongARM」プロセッサを手に入れた。

 当時、ARM本体はARM7が携帯電話で大ヒットしたとはいえ、まだまだローエンド向けの製品であり、高性能IPは手薄な時代だった。そのときにDECは「立場がかなり強い」と想像される契約のもとで、自社独自で先端を走る高性能のStrongARMプロセッサを開発していた。蛇足だが、ARM7とARM9の間、ARM8は欠番的な扱いだが、StrongARMがここに相当する。これを手に入れたIntelにしたら、StrongARMを継続してARMにコミットする、という選択もあったのだ。

 しかし、結局x86への集中みたいな話で、StrongARMは打ち切りに(Marvell Technology Groupに売却)してしまったと記憶している。継続していたらArm世界もIntelもまた変わっていた気もするのだが……。

 自社のx86コアなら優遇されたかというとそうでもない。本連載で何度か書いた通り、Intelの経営陣は、組み込み系の応用に理解がないようだ。最近でいったら、Quarkマイクロコントローラーの打ち切りだろう。Galileoボードを買った人はがっかりしたのではないだろうか。

 結構、力を入れてプロモーションし、また組み込みは需要が長く続くからということですぐにディスコンにはしないと約束して始めた事業だった。約束は守られて(?)、最終出荷日は2022年7月までとまだ1年以上あるみたいだが、とっくの昔にディスコンになった製品だ。既にエンドユーザーは別な製品に移行してしまっているだろう。

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