テレワーク時代、「仮想FAX」の有用性に注目しよう:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(43)
インターネットのビジネス利用が進んでいる中、FAXの利用者はほとんどいないと考えている読者もいるだろう。しかし、金融機関や個人事務所など、顧客がFAXによる送受信を望む場合が残っている。企業はFAX管理システムやクラウドを利用した仮想FAXを導入することで、このような顧客にも対応できる。
先日、10年ぶりに自宅のファクシミリ(FAX)でメモを送信した。それをきっかけに企業におけるFAXの利用がどうなっているか調べたところ、予想以上にFAXが使われていることを知った。今回はいまだに通信手段として存在感のあるFAXと、テレワーク時代に威力を発揮する「仮想FAX」について述べたい。
2021年8月初め、クアラルンプールに住む次男から「LINE」でメッセージが来た。メールでメモを送るのでプリントしてFAXで転送してほしいという。FAXしか受け取れないところがいまだにあるのだと思いながら、10年ぶりくらいに自宅のFAXを使った。
昔、IP電話に注力していた頃は「IPネットワークでFAXをどう扱うか」は重要なテーマだった。しかし、企業ネットワークの仕事をしていてFAXが設計の対象になることなど、なくなって久しい。
第一、メールが一般化した1990年代後半から、筆者が仕事でFAXを使うことなど全くなくなった。世の中ではどの程度FAXが使われているのだろう。CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)が全国4000人の男女有職者を対象として2021年1月に調査し、同7月に発表した「ファクシミリの利用調査」によれば、図1の通り約半数の人がFAXを仕事で使っているのだ。予想以上に多くて驚いた。送信する内容は報告書、連絡書、受発注書が多く、50〜70%を占めるという。
顧客インタフェースとして捨て難いFAX
実際の企業の例を確かめようと金融機関の社員にFAX利用についてヒアリングした。FAXをやめてメールにしたいのだが、顧客がFAXの利用を希望するので止められないという。
金融機関ではFAXの誤送信は許されない。そのため図2のように複合機から送信したFAXはPDFとしてFAX管理システムに送られ、上司が宛先や内容を確認して承認すると、FAX管理システムから顧客のFAXに送信される。
顧客から金融機関に送信されるFAXはFAX管理システムを経由せず、直接該当の複合機で受信する。このようにFAXは今でも金融機関にとって重要な顧客サービスのインタフェースとして使われているのだ。
仮想FAXに注目しよう
行政書士事務所を開業している情報化研究会会員のYさんの名刺には電話番号とFAX番号が書いてある。しかし、Yさんの事務所にFAXマシンはない。「仮想FAX」を使っているのだ。(図3)。FAXマシンがないのにあたかもあるかのようにFAXの送受信ができるクラウドFAXサービスだ。
Yさんが使っているサービスはFAX用の電話番号(0AB-J番号と呼ばれる03や06で始まる固定電話用の番号)とサービスがセットになっている。
顧客から送信されたFAXはクラウドにPDFとして保存され、オフィスや自宅のPCから参照できる。受信したPDFを編集してFAXに転送することも簡単だ。外出先でもスマートフォンで参照、編集、転送できる。あるときYさんが外出中にクライアントから書類をFAXで至急送ってほしいと電話があり、スマートフォンで書類の写真を撮って仮想FAXから送信したところ大変喜ばれたという。「どこからFAXしたの? コンビニ?」と聞かれたそうだ。
仮想FAXは個人事務所だけでなく、テレワークを拡大している大企業でも活用できる。リアルなFAXだと受信した文書を受け取るために出社しなければならないが、仮想FAXなら在宅勤務中でもPCから参照できる。受信したFAXをクラウドで整理、保管できるのも企業にとっては便利だ。
別の見方をすると、FAXを使いたい顧客側は紙とアナログ通信(FAXは画像をアナログ音声信号に変換して扱う)が残るのだが、仮想FAXを使う企業側はデジタル化、ペーパーレス化が可能でFAXマシンも不要になる。企業の事務分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で仮想FAXは有用なツールになりそうだ。
皆さんの会社でも仮想FAXの活用を検討してはいかがだろう。
筆者紹介
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート等)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。
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