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仕組みは作った、人はまだか政府の失敗に学ぶ、ベンダーマネジメントの勘所(後)(2/2 ページ)

民間人材の登用、標準ガイドラインや工程レビュー。政府は健全なベンダーマネジメントを行うためにさまざまな施策を行ってきた。だがしかし、1番大きな問題がまだ残っている。

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デジタルガバメント推進標準ガイドライン

 政府共通のITガバナンス、プロジェクト管理として、「デジタルガバメント推進標準ガイドライン」があります。

 私もデジタル庁のタスクフォースに参画して携わっている、政府のIT調達に関するプロセスや体制を定義し、その注意点、失敗や成功事例なども網羅したガイドで、各府省のIT開発、導入、運用は基本的にこれに沿って行われます。ここには、これまで述べてきたベンダーマネジメントに関する事項がプロセスとして定義されていたり、注意点やチェック項目として書き連ねられたりしています。

 行政職員がガイドラインの記述の意味を本当に理解して行動すれば、政府のITもそうは失敗しないだろうという出来ではあるのですが、実際にはなかなかうまくいない部分もあります。欲をいえば、もう少しお役人さんたちにITのことを学んでほしいと思うところではあります。

古くて新しい今後の課題 足りない民間人材と行政職員の任期

 このように政府もベンダーマネジメントをうまくやって、システム開発やIT導入がうまくいくように幾つもの施策を打っており、部分的には成功しているところもあります。しかし実際には、まだまだ課題が山積みです。それらを全て書き出すと、それだけで1冊の本が書けてしまいそうですが、ここでは端的に、今すぐにでも取り掛かってほしい「人材」の問題を考えます。

 まず、政府CIOとCIO補佐官が政府のITプロジェクトにさまざまなアドバイスをしたり、監視をしたり、場合によっては自身が企画したりしてきたことは、この役割がデジタル庁の民間IT人材に移って以来、人手不足のために十分に機能していないという問題があります。

 この辺りは霞が関用語でいうデマケ(役割分担)の問題があります。

 デジタル庁はもともと、マイナンバーカードの普及や政府のIT戦略全体を見ること、あるいは地方自治体を含めた行政機関全体のインフラをどうするかということなどに多くの民間人材を登用しており、各府省が実施する個別のITプロジェクトに携わる人数は随分と減ってしまった感があります。

 デジタル庁では「プロジェクトマネジャー」という役割の民間人材が、各府省のプロジェクトを支援していますが、「1つのプロジェクトに割ける時間が週に0.5日」などという場合もあり、これではベンダーのコントロールなどできないだろうという危惧があります。デジタル庁は、今も民間人材を募集してこの辺りの改善を目指していますが、なかなか道は険しいようです。

 本来政府DX(デジタルトランスフォーメーション)の主役であり、ベンダーマネジメントの主体でもあるべき行政職員については、もっと深刻な問題があります。

 民間人材に頼らなくとも、彼ら自身がITスキルを獲得してベンダーの見積もり精査、プロジェクトの健全性の監視などを行えればいいし、政府もそれこそがあるべき姿という意識はあるのですが、いかんせん行政職員たちは、おおむね2年程度で別の部署に異動してしまいます。この期間では、ITやITプロジェクトに関する知識やスキルを獲得する時間はありませんし、ベンダーをコントロールできるようには、なかなかなりません。

 民間人材が手薄になり、行政職員は十分に育たないという状況では、以前のようにベンダーの言いなり、ベンダーからすると何もしてくれない発注者に戻ってしまいかねません。特に行政職員の育成に関しては困難が予想されます。一見本業とは関係のないITやDX、ましてやベンダーマネジメントにモチベーションを持ってもらうことは簡単ではないでしょう。

 それでも、これからの時代はどういう仕事をしていてもITは必要になってきていますし、ベンダーと良いパートナーシップを築くことは重要なスキルになります。こうしたことを行政職員にも理解してもらい、積極的に取り組む気持ちを醸成すること、それも政府、特にデジタル庁に求められる大切な仕事ではないでしょうか。

細川義洋

細川義洋

ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった

個人サイト:ITプロセス改善と紛争解決


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