「物理的攻撃を使った解読」から耐量子計算機暗号を守る技術を東北大学とNTTが共同開発:「物理的な攻撃を受けても情報漏えいしない」
東北大学電気通信研究所の環境調和型セキュア情報システム研究室とNTTの社会情報研究所は共同で、ソフトウェアやハードウェアとして「耐量子計算機暗号」を安全に実装する技術を開発した。
東北大学の電気通信研究所は2022年2月2日、量子コンピュータでも解読できない「耐量子計算機暗号」(PQC:Post Quantum Cryptography)をソフトウェアやハードウェアとして安全に実装する技術を開発したと発表した。東北大学電気通信研究所の環境調和型セキュア情報システム研究室(以下、東北大学研究室)とNTTの社会情報研究所の研究グループ(以下、NTT研究グループ)が共同で開発した。
数学的な安全性だけでなく「物理的な安全性」も確保
東北大学研究室によるとPQCは「将来大規模な量子コンピュータが実用化されたときでも、安全に利用できる次世代型暗号方式」だという。
NIST(米国標準技術研究所)が主導して国際標準化を進めているが、PQCは物理的な攻撃手法(PQCを実行するシステムの消費電力や計算時間変化を分析する、PQCを実装したハードウェアに物理的な攻撃を仕掛けて故意に“出力誤り”を起こさせるなど)によって暗号解読される恐れがあり、数学的な安全性に加えて「物理的な安全性をどう確保するか」が課題になっていた。
東北大学研究室とNTT研究グループは、この課題を解決するため、物理的な攻撃を受けても暗号解読されない技術を開発した。
2022年2月2日現在、NISTはPQCの国際標準として9つの方式挙げている。実証実験の結果、そのうち8種類の方式に対して今回開発した技術が有効だったという。東北大学研究室とNTT研究グループは次のように述べている。
「国際標準方式の選定が進められているPQCについて、国際標準候補をソフトウェアやハードウェアとして実装した際に生じる物理的な攻撃への懸念を今回開発した技術は払拭(ふっしょく)する。将来、PQCを利用するさまざまな情報通信機器とそれらを用いたシステム全体の安全性向上に貢献することを目指している」
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