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少年が夜中に両親のPCを借りてやっていたこと、それは……Go AbekawaのGo Global!〜Mr.Ben編(前)(3/3 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はセキュリティエンジニアのBen(ベン)氏にお話を伺う。ニュージーランドの小さな町で生まれた少年がセキュリティに興味を持ったきっかけとは何だったのか。

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ヘルプデスクで学んだ「人対人」の対応

阿部川 なるほど。大学卒業後はコールセンターを運営する会社に入社されます。

ベン氏 はい。ヘルプデスクを担当していました。主な業務は海外で使われている携帯電話に関するサポートです。当時、海外で携帯電話を使うときには、キャリアを自動判別するプログラムを事前にインストールしておく必要がありました。プログラムの配布はヘルプデスクが行います。確か8カ月くらいの間、1日8時間ずっと海外に行く顧客の対応をしていました。

 そのうち2G通信が始まり、USBにつないで通信できるデータスティックなども登場しました。それに伴って私の仕事も国際ローミングに変わりました。このサービスは当時にしては高い料金設定だったので苦情を持ち込む顧客も多かった。大変でしたが、テクノロジーに関することだけではなく、「人対人」の対応についてたくさんの学びがありました。

阿部川 私も昔、カスタマーサポートで研修したことがあります。ある顧客が、コンピュータのHDDからずっと変な音がしていると言って、電話をかけてきました。いろいろ話すうちに、それは隣の部屋を掃除していた、奥さまの電気掃除機の音でした(笑)。うそみたいですが、本当にあった話です。

ベン氏 分かります。一人一人の顧客は、それぞれ違う問題を抱えている上に、伝え方やニュアンスが異なります。海外にいる顧客であればさらに難易度が上がります。電話が通じないだけでもフラストレーションはたまりますが、海外では言葉の問題や時差もありイライラが募ります。怒っている人、病気の人、「せっかくホリデーで海外に来たのに」といつもよりイライラしている人、など、さまざまな顧客がいました。もし大学を卒業してすぐに製造する現場に配置されたら、決して気付かないことだと思います。顧客と面と向かって話すことで、初めて分かることですね。

阿部川 ヘルプデスクの後はどんなお仕事をされていたのですか。

ベン氏 ヘルプデスクの業務の合間でちょっとした業務改善ソフトウェアをたくさん作っていたんです。顧客から電話がかかってきたら、電話番号を基に履歴を調べて手が空いているオペレーターや以前の担当につなぐ、といったようなものです。それが功を奏して、コールセンター業務から、ネットワークのオペレーション業務へと異動になりました。

 顧客と直接やりとりすることはなくなりましたが、24時間365日の対応が必要な業務です。国を超えてネットワークのスイッチングをしたり通話交換したりしていました。


編集中村
編集 中村

私もヘルプデスク業務を経験したことがあるのですが、やはり経験するのとしないのとではその後の動き方が結構違ってくると感じています。もちろん「エンジニアは必ずヘルプデスクを一度はするべきだ」とは言いませんが、目線を相手に合わせる、事実と感情を分ける、その人が言ってきた背景を考えるといったアプローチを身に付けるのにヘルプデスク業務は役に立つと思います。


「分かるまで止めない気持ち」がセキュリティにつながった

阿部川 ちなみにセキュリティ分野の話はまだ出てきませんが、セキュリティに興味を持ったタイミングは覚えてらっしゃいますか。

ベン氏 そうですね……いつだったか、父が私を呼んだんです。「マウスカーソルが勝手に動いているんだけど」と。恐らくそのとき初めてハッキングに出会いました。後は大学のときに学内のデータベースアクセスで脆弱(ぜいじゃく)性を見つけたことがありました。

 私は小さなころから、何か問題を発見すると答えを見つけるまでしつこく調べることが好きでした。だから、それらの出来事を経験してから「コンピュータの脆弱(ぜいじゃく)性とは何か」「セキュリティとは何か」といったことを調べたり考えたりするようになったのです。そこが出発点で、そこからずっと勉強し続けています。

阿部川 なるほど。2008年ごろSOX(サーベイオックスリー法)関連の仕事に転職されるわけですが、ここで初めて仕事としてセキュリティに携わるわけですね。

ベン氏 はい。当時、セキュリティはITのテーマとしてはそれほど大きくなく、SOX対応もアップルやIBMなどの大手で始まったばかりの時期だったと思います。ただテレコム関連の企業では既に問題になっていました。ただ、私としてはその時点でもセキュリティにこだわりはありませんでした。

 確かに当時私はネットワークや脆弱性ついて一通りの知識を持っていて、ソフトウェアに関する賞などもいただいていましたが、それは興味があることにのめり込んでいただけです。一方でセキュリティ分野は盛り上がっていました。「PCI DSS」(Payment Card Industry Data Security Standard)やSOXといったキーワードが注目され、ハッカソンも生まれました。そうした流れもあり、セキュリティに深く関わることになりました。「セキュリティのバックグラウンド」はありませんでしたが、それよりも強い「ITのバックグラウンド」があったことが功を奏したのだと考えています。

阿部川 分かる気がします。セキュリティは何か狭い専門分野というよりも、全ての分野にまたがった「傘」のような役割の分野ですものね。当時はそのような概念が希薄でしたが。

ベン氏 そう思います。私がやってきたさまざまな分野の総称が、結果的にセキュリティということなのだと思います。そしてこれが、ある意味セキュリティを学ぶ、一番良い方法なのではないかとも思います。


 よく遊び、よく学んだ少年はセキュリティにこだわらず、人とITに関する知識を集め続けた。その結果、地に足の着いたセキュリティエンジニアとして覚醒する。後編はプレッシャーの多い(と思われる)セキュリティの仕事を続けている理由について聞く。

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