従来のIT部門の存在意義を打破し、アプリ開発を業務部門に開放した新卒エンジニアの挑戦:何でも屋からの脱却
「IT部門が何でもやってくれる」――信頼されているという点ではいいが、期待される役割が変化しているのに、全てを情報システム部門が対応し続けるのは非現実的だ。解決のヒントは「デジタルの民主化」にある。
「DX」(デジタルトランスフォーメーション)の機運が高まっている。企業のビジネスにおいてITが果たす役割は大きくなっており、企業のITを支える情報システム部門に期待される役割も変化している。経営層は新しいビジネスの創出やガバナンスの強化など、より上位の仕事を期待している。一方で、これまでと同じような“ITの何でも屋”という役割を求めている事業部門もある。
こうした多様な要望に情報システム部門だけで応えることは困難だ。ではどうすればいいのか。
この課題の解決方法として注目されているのが「デジタルの民主化」という考え方だ。情報システム部門などITの専門家に任せきりにするのではなく、業務に最も詳しい事業部門が主体となって進めることで、スピード感を持ちつつ、業務に即したデジタル化が可能になる。
本稿は、2022年7月21日にドリーム・アーツが開催したオンラインイベント「デジタルの民主化DAY」のセミナー「SmartDB導入10年目、市民開発NEXTSTAGEへの布石」を基に、デジタルの民主化に向けてどのように取り組むべきかを探る。
「デジタルの民主化」に向けた、最初の一歩
ガス供給事業を中核に、電気、不動産、物流、飲食など幅広い事業を展開するサーラグループ。同グループのITに関する業務全般を担っているのがサーラビジネスソリューションズ(以下、SBS)だ。現場の課題を解決し、業務を効率化することが主な役割で、アプリ開発、問い合わせ対応、機器の調達などを担っている。
SBSが業務のデジタル化に取り組むことになったきっかけは、長年使っていた「IBM Notes」からノーコード/ローコード開発プラットフォーム「SmartDB」(スマートデービー)に移行したことだ。SBSの天野泰伸氏(ソリューショングループ 情報ソリューションチーム)は「紙で運用していた稟議(りんぎ)書をSmartDBのアプリに移行したことを皮切りに業務アプリが大幅に増加した」と語る。
ペーパーレス化のメリットは改めて言うまでもない。あるグループ会社で導入した話がグループ内で情報共有され、「自社でもやりたい」と多くの引き合いがあったという。特に貢献度が高かった業務アプリとして天野氏は「申し送り案件管理簿」を挙げる。
「サーラグループには幾つもの“複合ショールーム”がある。そこに来店した顧客の要望を紙の連絡票で管理し、共有していた。(紙媒体なので)連携はうまくいかず、連絡・登録漏れが頻発し、クレームにつながってしまうこともあった。そこで申し送りを管理するアプリをSmartDBで開発した」
この業務アプリを導入したことでクレームが格段に減り、成約率は大きく向上した。成約しなかった場合でも、その理由を共有することで、次の営業活動に生かせるようになった。同社の小出輝雄氏(管理グループ 企画チーム)によると、「グループ内に口コミで評価が広がり、今では全てのショールームで採用されている」という。
「これを機にSmartDBを使った業務アプリ開発が一気に進み、2022年現在では総データ数は70万データまで増加した」(天野氏)
利用が拡大する一方、課題も
着々と現場での業務アプリの活用が進んだように見えるが、その背景にはSBSの「業務アプリ利用拡大に向けた努力」があった。「業務アプリ開発と並行して、グループへの周知を強化した」と小出氏は語る。
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