「あなた」というモジュールを最適化する、というエンジニア生存戦略:エンジニアはどう生きるべきか? 実践編(1/4 ページ)
元任天堂開発者がエンジニアの真に役に立つことを伝授するシリーズ。「エンジニアの生き方」最終回は、エンジニアという道をどういう指針で進むかです。
「エンジニアはどう生きるべきか」を説く本連載、前回は「モジュール」「工学性」「持続可能性」という3つのキーワードを元に、「持続可能性を最大化するエンジニアこそ至高」「全ての人はエンジニアであれ」とする「エンジニア主義」を提唱しました。これはあくまで、遠い未来を見据えた理想の物語でした。
今回は、はるかな理想は置いておき、実際にあなたの身の回りでの「エンジニアはどう生きるべきか?」という話です。実践できることとして、エンジニアという道をどういう指針で進むかを検討していきましょう。
前述の3つのキーワードは便利な定義なので、引き続き用いていきます。
「工学性」だけは独自用語なので復習します。工学性は、エンジニアリングの良しあしの度合いです。「より思い通りに=制御可能性」「もっと速く=時間拡大性」「誰でも=再現可能性」など6つの性能に分類しました。さらには、それぞれの性能に自動の度合いである自律性があります。自律性を3ステップに分け、6×3のマトリクスでエンジニアリングの度合いが測れる、という定義でした。いわば、エンジニアリングのモノサシです。詳細は前々回の準備編をご参照ください。
さて、連載の始めで「あなたというモジュールをエンジニアリングすること」が本連載の結論と述べました。では、どうエンジニアリングするか?
一般には、エンジニアはどうあるべきかと問われたら、「最新技術に付いていかなければならない」「好きなことを仕事にした方がいい」「アウトプットを最大化することを考えるべき」といった答えが返ってきそうです。本当にそうでしょうか。このような思い込みは、方針の曖昧さが原因のように思えます。前回提示した、エンジニア主義という指針は理想の物語なので別に置いておくとします。
では、方針をどう決めていけばいいのでしょうか。業務におけるプロジェクトならばマネジャーが方針を明示してくれますが、あなたというモジュールを生かすことが目的のプロジェクトでは、誰もそれをしてくれません。
というわけで、そのエンジニアとしての進路を決めるための指針を、「あなたの持続可能性」「心のモジュール」「あなたモジュールの組み込み」という3つの視点で提案していきます。
あなたの持続可能性
前回の持続可能性の説明で、「あなたが残せるものは、遺伝子か、文化という情報だけ」と述べました。改めてあなたの持続可能性を図にします。
遺伝子は塩基でエンコードされた情報です。遺伝子の持続可能性は、子孫を残す場合に長くなります。子ども1人につき半分の遺伝子を持続できます。現状、手段は繁殖のみです。精子や卵子は冷凍保存期間が長くなりつつあるので、仕組み次第では繁殖以外でもできるようになるかもしれませんが。
個人が死後に残せる文化は、個人なら何かしらの作品や家族への遺産、組織として世に出した製品やインフラなどです。作品や製品などは人の振る舞いに影響を与えれば文化的な情報である、と前回説明しました。遺産は通貨や土地などの所有という情報なので、文化的な情報に含まれます。これらが他の人に影響のある期間はあなたの情報が持続します。もちろん何も影響のあるものを残さなければ持続可能性はゼロです。
この図で何が言いたかったのかというと、「あなたが残す情報の持続可能性をいかに上げるかが重要である」ということです。
もちろん、あなたの持続可能性が最優先です。もし、あなたが働けど働けど赤字で経済的に困窮している場合、また働き過ぎや持病で体調に支障が出ている場合、エンジニアとしての持続可能性よりもあなたに持続可能性がありません。まずは、あなたの持続可能性の問題を解決する必要があります。あなたの情報の持続可能性はその後の話です。
つまり、遺(のこ)す情報を含め「あなたの持続可能性を最大化する」という目的を、あなたというモジュールへ入力し、目的を達成する選択を出力すべき、ということです。エンジニアというモジュールは、目的を入力とし、目的を達成する成果を出力すると以前述べました。エンジニアとして、あなたの目的を達成するための行動を出力することが求められるのです。
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