検索
連載

「誰」が「どうやれば」DXを実現できる? やる気やスキルがあってもうまくいかない理由と対処法IT人材ゼロから始める中小企業のDXマニュアル(3)

DXをどのように進めたらよいか分からず、焦りを覚えている中小企業のDX担当者や経営者のモヤモヤを吹き飛ばし、DX推進の一歩目を踏み出すことを後押しする本連載。第3回は、数百人規模の組織のDXに取り組んだ事例を紹介し、どんな要因がDXを成功に導くのかを分析する。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 前回の記事では、従業員数の少ない中小企業こそ「アジリティ(=俊敏さ)」が高く、DX推進において強みを発揮できるということを紹介しました。

 では、より規模の大きい組織の場合、どのようにDXを推進することができるでしょうか。

 今回は約850人の職員を擁するイムス富士見総合病院の取り組みを通し、医療現場でのDXの実態と、その成功への道筋を探ります。

リーダーの「越境」

 イムス富士見総合病院は、埼玉県富士見市に位置する地域包括ケアを担う総合病院です。約850人の医師含む職員が勤務し、一般病床数は341床です。年間の入院患者数は約6000人。0歳の乳児から高齢者まで、さまざまな患者に対して医療を提供しています。現場で働く人全員が、慢性的な人手不足を感じていました。

 鈴木義隆院長は、その状況を打破する道筋が、IT活用にあるのではないかと考えました。そこで、試しに「Microsoft Excel」とそれを操作するプログラム言語VBA(Visual Basic for Applications)を学び始めました。成果として、これまで半日ほどかかっていた日報の収集業務を自動化することができました。

 そのIT活用による自動化の波を院内に広げるべく、より体系的なスキルを身に付けるために、2019年5月学習コミュニティー「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(ノンプロ研)」の門をたたきました。当時は「一人でもやる」と決意していました。

医療の業務量増大の背景

 医療業務の改善が必要になってきた背景には、超高齢化、そしてそれによる医療の複雑化が背景にあります。

 30年前の医療の中心は60代の患者でした。入院をした患者に対して、治療し、退院してもらう「治す」ための医療が基本でした。

 しかし、超高齢化が加速した2023年現在の患者は80代中心。超高齢化した患者は、治療箇所以外の臓器も老化によって機能が低下しています。それにより、より複雑かつさまざまな症状を患っているため、専門的な診療だけでなく、総合的な診療が求められるのです。また、退院後に普段の生活に戻るためのリハビリや指導も考えなくてはいけません。このように、今の医療は、「治す」ことに加えて「自立した生活ができるようにする」ことが目標になっているのです。

 そのため、医師、看護師だけでなく、管理栄養士、リハビリスタッフ、ケアマネジャーや行政、生活相談員などさまざまな職種の専門スタッフがチームとして連携を図りながら、一人の患者に関わることになり、それが医療の複雑化の要因となっています。

 そこで重要なポイントとなるのが、情報共有です。しかし、対面、電話のコミュニケーションと紙によるデータ保存という従来の枠組みのままでは、業務量の増大は避けられません。

 さらに、超高齢社会では、患者数は増える一方で、労働力の主力となる生産年齢人口は明確に減少していきます。

 業務量の増大、人手不足という両面からの圧力に抵抗するためには、業務の複雑性に対処することが必要不可欠なのです。

デジタル化による業務改善の取り組みを拡大

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る