Active DirectoryドメインコントローラーをWindows Server 2022にインプレースアップグレードしてみたら……:山市良のうぃんどうず日記(250)
筆者のHyper-V上にあるテスト/評価環境には、Windows Server 2016ベースの仮想マシンが幾つか残っています。Active Directoryドメインを前提とした“あるソフトウェア製品”の利用環境ですが、そろそろこのテスト/評価用ドメインを最新OSに移行しようと考えました。
残していた理由は、Active Directoryに新機能が追加されていないから
「Windows Server 2016」ベースで構築したテスト/評価用のActive Directoryドメインは、Windows Server 2016上のソフトウェア製品の維持だけでなく、ドメイン要件のあるソフトウェアやサービスを利用する際にも利用してきました。もともと、物理サーバで動いていたものをP2V(物理から仮想)方式でHyper-V仮想マシンに移行したものです(画面1)。
主な役割として「Active Directoryドメインサービス(AD DS)」、名前解決用の「DNSサーバー」、エンタープライズPKI用の「Active Directory証明書サービス(AD CS)」、証明書失効リスト公開用の「インターネットインフォメーションサービス(IIS)」がインストールされています。
Active Directoryのフォレスト/ドメイン機能レベルは、Windows Server 2016で新たに最新の「Windows Server 2016」が追加され、「Windows Server 2019」や「Windows Server 2022」では新しい機能レベルは追加されていません。つまり、機能レベルに関係する新機能は追加されていないということです。そのため、既存のWindows Server 2016で構築したActive Directoryドメイン(ドメインコントローラー1台のみの構成)をそのままにしておき、必要時に利用してきたというわけです。
めったに使用しない環境ですが、Windows Updateによる毎月の更新プログラムのインストールは欠かしたことがありません。しかし、Windows Server 2016を運用したことがある方なら分かると思いますが、更新プログラムのサイズは巨大でダウンロードとインストールに時間がかかり、更新が完了するまでに数時間かかるのはいつものことです。Windows Server 2019やWindows Server 2022は、現在の「Windows 10」や「Windows 11」と同じように、更新プログラムのサイズが軽量化されていますし、比較的短時間で終わります。前々から、Windows Server 2016のメンテナンスにかかる毎月の時間を無駄に感じていました。
Windows Server 2016は2022年1月にメインストリームサポートが終了し、現在の延長サポートが「2027年1月」に終了します。延長サポート期間に入ったということで、最新OSにアップグレードしてみようと思い立ちました。
- Windows Server 2016 - Microsoft ライフサイクル(Microsoft Learn)
実は、最初はアップグレード先をWindows Server 2019にするか、最新のWindows Server 2022にするか迷っていました。Windows Serverはこれまで、2つ前のバージョンからの「インプレースアップグレード」をサポートしてきましたが、Windows Server 2022のサポートされるアップグレードパスがこれまで明示されていなかったからです。現在は、Windows Server 2016からWindows Server 2022へのインプレースアップグレードがサポートされていることは、以下のドキュメントから分かりますが、このページのオリジナルの英語ページは2022年7月ごろに初めて公開されました。
- Windows Serverのアップグレードの概要(Microsoft Learn)
以下のドキュメントに説明されているように、運用環境においては、新しいバージョンのWindows Serverを実行するメンバーサーバをドメインコントローラーに昇格して、古いドメインコントローラーを降格していく「ドメインレベルでのインプレースアップグレード」が推奨されています。
- ドメインコントローラーを新しいバージョンのWindows Serverにアップグレードする(Microsoft Learn)
Windows Server 2022へのインプレースアップグレード手順
今回はテスト/評価環境のための単一ドメインコントローラー構成であるため、OSの直接的なインプレースアップグレードを実施します。なお、「サーバーの役割」によっては、OSのインプレースアップグレードによる移行をサポートしていない場合があることに注意してください。
直接的なインプレースアップグレードのためには、最初にWindows Server 2022のインストールメディアの「support\adprep」にある「adprep.exe」をオプションを変えて、フォレストごと、ドメインごとに1回ずつ実行する必要があります。単一のフォレスト/ドメイン構成なので、アップグレード対象のドメインコントローラーで2つのコマンドラインを実行しました(画面2)。
adprep /forestprep adprep /domainprep
その後、インストールメディアの「setup.exe」を実行して、アップグレード元と同じエディション(筆者の環境では「Standard」)、同じインストールオプション(筆者の環境では「デスクトップエクスペリエンス」)を選択して、アップグレードインストール(「ファイル、設定、アプリを保持する」オプション)を実行します(画面3)。
Windows Server 2022へのアップグレードは、2時間程で完了しました。アップグレード中にOSの更新プログラムが同時にインストールされるため、アップグレード直後の状態で最新状態になります。初回のWindows Updateで検出されたのは、その月の.NET Frameworkの累積更新プログラムだけでした。この仮想マシンは、Windows Server 2016のときには毎月の更新プログラムのインストールに3時間以上かかることもあったので、OSのアップグレードの方が早く完了したということです。来月から毎月の更新プログラムのインストールは、これまでに比べて大幅に時間を短縮できそうです。
AD DS、AD CS、DNS、IISの環境は、何の問題もなく引き継がれ、動作しているようでした(画面4)。まだ残っているWindows Server 2016を実行する仮想マシンからのドメイン認証や、証明書発行にも不具合は生じていません(画面5)。このまましばらく様子を見て、不要と判断できるようになったら、仮想マシンのチェックポイントを削除したいと思います。
仮想マシン環境の良いところは、簡単にロールバックできることです。この仮想マシンはアップグレード直前のチェックポイント作成に加え、外部ディスクに仮想マシンをエクスポートしてバックアップしておきました。アップグレードのための必要最小限の手順(adorepコマンドの実行)さえ押さえておけば、細かいことは考えずに強行できます。もし、失敗したら、その時に考えればよいことです。
“あるソフトウェア製品”の引き継ぎは大丈夫か?
このドメインを維持していた理由の一つである“あるソフトウェア製品”とは、「Microsoft Configuration Manager Current Branch」(現在はバージョン「2211」)です。Microsoft Configuration Managerは最新バージョンを新規インストールすることはできず、ベースラインバージョン(直近ではバージョン2203)を新規インストールして、更新プログラムとして新バージョン(バージョン2203、2207、2211のように、1年に3バージョンリースされます)にアップデートするという手順が必要です。そのため、必要時に評価環境を構築するのではなく、常に最新のバージョンを維持しておきたいのです。
こちらも、OSをWindows Server 2022にアップグレードしてみましたが、「Windows Server Update Services(WSUS)」のアップグレード後に再構成が要求されただけで、Microsoft Configuration Managerの環境はそのまま引き継がれました。今のところ特に問題は発生しません(画面6)。というわけで、筆者の環境からはWindows Server 2016を排除することができそうです。アーカイブとして素のWindows Server 2016の最新ビルドの仮想マシンを1台だけ残しておくことにします。
画面6 Microsoft Configuration Manager バージョン2211を実行するWindows Server 2016サーバも、OSをWindows Server 2022にアップグレードした
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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