検索
連載

第273回 GoogleがAndroidをRISC-Vに対応、一方でIntelはPathfinder for RISC-Vプログラムを突然終了、どうなるRISC-V頭脳放談

GoogleがAndroidのサポートをRISC-Vにも広げるようだ。一方で、Intelは同社のファウンドリサービスとして対応してきたRISC-Vのサポートを突然終了した。この相反するRISC-Vへの対応の背景を推測してみた。

Share
Tweet
LINE
Hatena
「Intel Pathfinder for RISC-V」のWebページ
「Intel Pathfinder for RISC-V」のWebページ
以前は、「Intel Pathfinder for RISC-V」と呼ばれたRISC-Vをサポートするプログラムの概要が説明されていたが、終了を告げるアナウンスページに書き換わっている。このプログラムの利用を検討していたベンダーは、突然はしごを外されてしまった。

 2023年1月、「RISC-V」に関して相反する2つの方向からの動きがあったのでまとめておきたい。

GoogleがAndroidをRISC-Vに対応

 第一の動きは、前向きな方向の話だ。

 Googleが本格的にRISC-V用のAndroidをサポートするという話である。サポートするといっても、今すぐにではなく、まだまだ先の話ではあるようだが。

 だいたい現時点では、卵が先か鶏が先かという状態であるのだ。組み込み用途向けのRISC-V搭載マイコンは多数現れていて、数も出始めている。そして、組み込み向けのRTOSやミドルウェア、開発ツールなどもRISC-V向けのものが簡単に手に入るようになった。

 しかし、本格的なスマートフォン向けRISC-V搭載SoC、例えばAppleシリコンやQualcommのSnapdragonに匹敵するようなチップが量産されるという話は聞かない。スマートフォンに使えるレベル(コストや性能、アベイラビリティの全部で)のチップの存在が前提にならないと、いくらOSを作っても大きな市場は立ち上がらない。

 また、ソフトウェアが供給される前提なしに高性能なSoCを開発しても、開発費は回収できない。そういう状況で「GoogleがRISC-V用のAndroidをやる」とコミット(いつどこまで、そして誰に対してコミットしているのかは知らないが)したらしいことは、ともかく大きく前進したといえる。

 RISC-Vベースのスマートフォンをいつ頃、誰が出荷するのか、そしてそのSoCを誰が供給するのか気になるところだ。勝手な推測を述べれば、この件、中国の動向を抜きには考えられない。中国勢が勢いに乗って、RISC-V搭載スマホを立ち上げ、多分コストパフォーマンスを武器に市場を席捲(せっけん)しようとするのか? それとも欧米勢でもRISC-V搭載スマートフォンに乗り出す会社が出てくるのか? まぁ、日本はないだろうが……。

IntelがPathfinderプログラムを突然終了

 第二の動きは、後ろ向きだ。

 2023年1月末にIntelが「Intel Pathfinder for RISC-V」と呼んでいたプログラムを突然廃止した(IntelのPathfinderのWebページ「Intel Pathfinder for RISC-V」参照)。それもWebサイト上に突然、「effective immediately(本日より実施する)」という発表の仕方である。寝耳に水的な話だ。

 2022年、IntelはRISC-V InternationalのPremier Membersという一番上のメンバーになり、8月にPathfinderプログラムというものを発表した。インテル・ファウンドリ・サービスで、RISC-V搭載SoCを製造するのに必要な、設計IPや開発環境、ソフトウェアなどをそろえていこうとするものだったはず。

 Intelがやるということで、賛同する設計ベンダーやソフトウェアベンダーなども10社以上あったみたいだ。当然、IntelはRISC-Vに前向きと、筆者も含めて外部の人間はみんな思っていた。それが突然の廃止だ。

 Pathfinderプログラムを開始するというのは、2022年の8月末の発表だ。それが、2023年1月末に廃止である。使ってみようと思う会社があったとしても、普通の会社の時間的な間合いであれば、プログラム内容と自社の開発方向性を精査検討している段階ではないだろうか。「手を上げる前に廃止されてしまった」という感じだ。

 まさか鶴の一声で廃止でもあるまい。Intelの内部では、それをさかのぼる数カ月前、あるいは数週間前から「Pathfinderプログラムを廃止すべきか否か」ということで検討(社内でせめぎあい)していたはずだ。あまりに急激な方針転換である。

Intelの方針転換はいつものこと?

 まぁ、そういうIntelの方針転換にはさほど驚かない。「またか」という感じがする。何度も書かせていただいたが、Intelは組み込み用途向けで何度となく製品を打ち上げては、極めて短期間で撤退というアクションを繰り返してきた。

 今回はファウンダリビジネスがらみだが、ファウンダリは顧客の委託をうけて製造する点で、PCビジネスよりも組み込み用途のビジネスのスタンスに近い。

 Intel内部のロジックを推察するに、内部で進んでいる開発プロジェクトを期待効果の順番に並べて、近い将来の効果の割にコストがかかるものを下の方からバッサリと切り捨てる、といういつものやり方に見える。そこにあるのは、内輪の論理ばかり。外部協業者その他への配慮や長期の展望などは感じられない。

 思い付くままに一例を述べる。最近の組み込み向けx86プロセッサの取り組みである「Quark」のときに、IntelはQuark向けのRTOSとして「Zephyr RTOS」に「コミット」していた。結構力を注ぎ込んだらしく、今でもZephyrのソースには「Intel」の文字が見えるものが非常に多い。まぁ、Arm向けの環境でもZephyrは使えるので目にするのだが……。

 しかし、Quarkは廃止されてしまった(過去の悪評に懲りたのか、ディスコン発表後もそれなりに既存カスタマーへの製品供給は続けたらしい)。Intelが力を入れていたはずのQuark向けのx86ツールチェーンなどはダウンロード不可となり、Quarkのボードなどはまだ市場に存在するものの開発をすることはできなくなっている。

 そして、今回のRISC-V向けのプログラムだ。やはりRTOSとして名が挙がっていたのはZephyrであった。IntelはまたもやRISC-V向けのツールチェーンなどの整備も行うとしていたのだが、これでどうなるのだか先行きは不透明になった。

 うがった見方をすれば、いつ撤退して何を引き上げるか分からないIntelに絡んでもらうよりも、サードベンダーからの供給に任せる方が安心して使えるというものだ。実際、Zephyr RTOSなどはそうだし。でもIntelを当てにしていたベンダーにしたら大打撃だろう。

スマートフォン市場の急ブレーキが方針転換に影響している?

 Intelの決断の中には、最近の半導体市場というか、スマートフォン市場の急ブレーキもありそうだ。PC市場は既に飽和状態になっていたが、このところスマートフォン市場も低調である。

 それにつられてか、日本の電子部品メーカー各社も業績は急降下らしい。そのくせ車載のようにまだ足りないらしい分野もあるので、マダラではあるのだが。

 直近の市場環境を鑑みて経費節減に走ったということであれば、先を考えない近視眼的な決断だと思う。RISC-Vは、Intelがコミットしなくても、いずれ遅かれ早かれ立ち上がる。過去、同業他社が投資を躊躇(ちゅうちょ)する景気後退局面でバクチを張ったことで先手必勝で来たIntelも目が曇ったか?

Intelの方針転換には中国との関係がある?

 しかし、そうでもないような気もするのだ。それは、RISC-Vの先にチラチラと見える中国との付き合い方でもある。

 頭脳放談「第254回 IntelがRISC-Vに急接近、でも組み込み向けは失敗の歴史?」でも述べたように、RISC-V Internationalは「中立国」スイスに立地している標準化団体だ。

 欧米に本社のある会社が規格を牛耳っているx86/x64や、Armとは明らかに異なる。そして中国の半導体ベンダー、IP、ソフトウェアベンダーは、RISC-Vに力が入っているところが多い。市場に出回っているRISC-Vの組み込みマイコンを見れば明らかだ。

 一方、Intel、特にIntelのファウンダリビジネスについていえば、いまや米国の国益を体現する存在だ。無理にRISC-Vの環境立ち上げに力を貸してやらなくてもよいようにも思える。一歩引いておいても是々非々で「OK」ということか。

 Googleの立場はちょいと違う。Androidを公式にRISC-V対応にしていかないと、発展途上国向けの中国製スマートフォン(中華スマホ)あたりで勝手なAndroidもどきOSが登場しかねないのではないかと思っているはずだ。

 中国製スマートフォンの出荷台数は多いので、そんなものが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する事態になっては一大事である。公式に対応していく方が、まだ市場のコントロールが可能になるということではないか。穿ち過ぎ(うがちすぎ)な見方か。しかし、このところのキナ臭さは政治的な動きとは切り離せないような気がするのだが。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

ページトップに戻る