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国内初! ソフトバンクがネットワークスライシングを使ったプライベート5Gを開始、その実力は?羽ばたけ!ネットワークエンジニア(65)

ソフトバンクが2023年3月29日、国内の携帯通信事業者として初めて5Gネットワークスライシングを使ったプライベート5Gのサービスを開始した。その実力を見てみよう。

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 ソフトバンク(本社:東京都港区、代表者:宮川潤一氏)は2020年5月に「2022年にプライベート5Gのサービスを始める」と発表していた。いつ始まるのかと注視していたところ、ぎりぎり2022年度といえる2023年3月29日にサービスを開始した。

 ソフトバンクのプライベート5Gには、キャリア5G上に個別企業(正確には契約ごと)のスライス(仮想ネットワーク)を定義して、帯域を他のユーザーと共有して使う「プライベート5G(共有型)」と、個別企業の敷地などに専用の設備(UPF、基地局、アンテナ)を設置して帯域を専有利用できる「プライベート5G(専有型)」がある。

 サービス開始したのは共有型。専有型は2023年度中に提供される予定だ。今回は共有型について述べる。

プライベート5G(共有型)の構成

 図1は、プライベート5G(共有型)の構成だ。


図1 プライベート5G(共有型)の構成

 スライス(ネットワークスライス)とは、1つの物理的な5Gネットワークにユーザーごとに必要な通信特性を持つ専用(プライベート)の仮想ネットワークを定義したものだ。ユーザー企業は経済性、利便性、セキュリティの高いプライベートネットワークが利用でき、携帯通信事業者は5G設備の利用効率を高め高度なサービスの提供が可能になる。

 プライベート5G(共有型)のスライスは3種類ある。スライス1は優先度が「高」で、モバイル網が輻輳(ふくそう)しても遅延が抑制される。帯域幅には上限が設定されており、帯域幅の保証はない。スライス2は優先度が「中」で、帯域幅の上限設定がスライス1より広い。帯域幅の保証はない。スライス1、2ともに帯域幅の上限値は開示されていない。スライス3はベストエフォートであり、優先制御も帯域の上限設定もない。

 ユースケースとしてスライス1は、HD(ハイビジョン)画像のスナップショットによる危険エリア侵入検知やHD動画による設備監視が想定されている。スライス2はFHD(フルハイビジョン)動画による遠隔作業支援や建機遠隔操作だ。

 各スライスにはスライスを識別するDNN(Data Network Name)が付与される。端末はRADIUSで認証されると同時に企業のプライベートIPアドレスが割り当てられる。イントラネットやパブリッククラウドとの接続にはソフトバンクの閉域VPNサービスである「SmartVPN」を使う。

 カメラや建設機械を5Gネットワークに接続するデバイスとして図2のプライベート5G専用端末が用意されている。住友電工が産業用5G端末を開発中だが、出荷されるのは2024年とのことだ。


図2 プライベート5G専用端末の外観と仕様

 商用サービスではないが、2023年4月10日に本連載で紹介したKDDIが東京マラソンのテレビ中継で実証実験を行った5Gネットワークスライシング(図3)と比較してみよう。


図3 KDDIによる東京マラソンTV中継での5Gネットワークスライシング実証実験

 一番の違いは、ソフトバンクのプライベート5Gはスライスの帯域幅の上限設定はあるが帯域幅の保証がないのに対し、KDDIのスライスは上りの帯域幅を保証していることだ。これはTV局に送信するカメラの映像が乱れることが許されないためだ。

 接続デバイスとしてKDDIの実験ではAndroidスマートフォンのUSBテザリングを使っている。産業用としてスマホが理想的な接続デバイスではないが、クレードルを使わず直接端末に接続できるため、ドローンやモバイルロボットに装着するのも簡単だ。手軽な5G接続デバイスとしてスマートフォンは優れている。スマートフォン自体がネットワークスライスの端末として使えるのもKDDIの特徴だ。

今後の情報開示と機能拡充に期待

 ソフトバンクのプライベート5G(共有型)のサービス開始で、企業の5G導入の選択肢が増えたことは間違いない。スライス1、スライス2の料金は月間通信量に応じて決まるそうだ。優先度だけが必要で、広い帯域を必要としない用途に適している。ローカル5Gが数百万円から数千万円の初期費用が必要なのに対し、プライベート5Gは初期費用がかなり抑えられるのが最大のメリットだ。まだ公開できる実証実験や実用の事例はないそうだが、サービスの特徴を生かした事例の出現を期待している。

 企業の立場で5Gの導入を検討する筆者が強く希望するのは、情報の開示だ。スライス1、2の帯域幅の上限値や優先度「高」「中」で遅延時間がどの程度になるか、ぜひ積極的に開示してほしい。それらが明らかでないと想定している用途で使えるかどうか判断できないからだ。機能拡充としてはまず帯域幅の保証を実現してほしい。

 広帯域を保証するスライス、低遅延を保証するスライスなどをユーザーがカスタマーコンソールで自由に設定して使える、というのがプライベート5Gの理想だ。ソフトバンクのプライベート5Gが刺激となって、他の携帯通信事業者も含めネットワークスライシングを使ったサービスが広がることを期待したい。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート等)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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