IDCのクラウド支出動向調査、インフレ下で支出額は増加 長期見通しは?:「クラウド分野は大幅な価格上昇に直面」
IDCは、2023年第1四半期のクラウドコンピュートおよびストレージインフラハードウェア支出を購入用途別、購入者別、地域別に分類した結果を発表した。インフレの影響で需要は減少したが、平均販売価格が30%近く増加しており、非クラウドを上回った。
調査会社のIDCは2023年7月5日(米国時間)、2023年第1四半期の専用、共有クラウドコンピュートおよびストレージインフラハードウェア支出動向を明らかにした。
IDCは専用クラウドと共有クラウドを以下のように定義している。
- 専用クラウド:1つの企業または企業グループ内で共有されるクラウドを指す。クラウドサービスプロバイダーの施設に展開される場合と、顧客の施設に展開される場合がある
- 共有クラウド:パブリッククラウドサービス(企業のデータセンターに展開されたITインフラの拡張や置き換えのために設計されたさまざまなサービスを含む)や、各種デジタルサービス(メディア/コンテンツ配信、共有、検索、ソーシャルメディア、電子商取引など)に使われるクラウドを指す。相互に無関係な企業や消費者の間で共有される
増加するクラウドインフラ支出
専用、共有クラウドコンピュートおよびストレージインフラ支出は、前年同期比14.9%増の215億ドルに達した。クラウドインフラ支出は非クラウドを上回り、非クラウド支出は0.9%減の138億ドルとなった。クラウドインフラの需要は11.4%減少したが、平均販売価格(ASP)は29.7%増加した。IDCは、インフレ圧力と、クラウドサービスプロバイダーがGPUアクセラレーションシステムの導入を加速させた結果だと分析している。
共有クラウドインフラ支出は157億ドルに達し、前年同期比22.5%増となった。共有クラウドインフラに対する需要は引き続き旺盛で、2023年には支出額で非クラウドインフラを上回ると予測している。専用クラウドインフラは、前年同期比1.5%減の58億ドルとなった。専用クラウドインフラ全体のうち44.5%は、顧客の所有、管理する建物や敷地内に導入された。
IDCはクラウドインフラ支出が2023年内で前年比7.3%増の964億ドル、非クラウドインフラは6.3%減の604億ドルになると予測している。パブリッククラウドインフラは通年で前年比8.4%増の680億ドル、プライベートクラウドインフラ支出は通年で4.8%増の284億ドルとした。
IDCは成長予測が低い背景として、経済全体が逆風を受けており、市場が需要の抑制に直面する見通しを反映させている。そうした中で、クラウド支出はモダナイゼーションの推進、OPEX(Operation Expense:運用コスト)の重視、デジタルコンシューマーサービス需要の継続的な増加を背景にプラス成長を維持する一方、企業顧客が資本保全にシフトする中でクラウド以外の契約は減少すると予測している。
IDCのリサーチバイスプレジデントであるクバ・ストラルスキ氏は次のように述べている。
「クラウドインフラ支出は、マクロ経済の状況にもかかわらず、依然として底堅い。しかし、同分野は大幅な価格上昇に直面しており、第1四半期は2期連続でシステム需要が減少した。2023年度の全体的な見通しは依然として明るいものの、同分野の成長は数量がけん引という期待にかかっている。需要の停滞が長引けば、2023年の成長に大きな障害となる可能性がある」
サービスプロバイダーのコンピュートとストレージインフラの支出額
IDCは、さまざまなサービスプロバイダーがクラウドと非クラウドの両方を含むコンピュートリソースとストレージのインフラをどれだけ購入しているか追跡している。サービスプロバイダーのカテゴリーには、クラウドサービスプロバイダー、デジタルサービスプロバイダー、通信サービスプロバイダー、マネージドサービスプロバイダーが含まれる。
2023年第1四半期、サービスプロバイダーは、コンピュートおよびストレージインフラに215億ドルを支出し、前年比14.6%増となった。この支出額は市場全体の60.8%を占めた。非サービスプロバイダー(企業、政府機関など)の支出は前年比0.5%減少した。IDCは、サービスプロバイダーによるコンピュートおよびストレージ支出は、2023年には945億ドルに達し、前年比5.6%の成長を遂げると予測する。
地域別クラウドインフラ支出
地域別では、ロシア・ウクライナ戦争の影響を受けた中東欧、中国、カナダを除く全地域で、第1四半期のクラウドインフラ支出が前年同期比で増加した。中東欧の支出は前年同期比27.1%減、中国は同20.4%減、カナダは同4.9%減だった。中南米、米国、中東、アフリカ、日本、日本と中国を除いたアジア太平洋地域(APeJC)は、それぞれ前年比39.2%、34.3%、33.5%、17.1%、16.4%と最も伸びた。西欧は前年比7.4%増だった。
IDCは、中東欧とカナダを除く全地域でクラウドインフラ支出が増加し、中南米は16.1%と最も高い成長を予測している。その他の地域(APeJC、カナダ、日本、中南米、米国、西欧)は全て、年間成長率が0〜15%の範囲にとどまるとした。
クラウドインフラの中長期支出の見通し
IDCの長期予測によると、2022年〜2027年の間にクラウドインフラ支出の年平均成長率(CAGR)は11.2%を記録すると見込んでいる。2027年には1530億ドルに達し、コンピュートおよびストレージインフラ支出全体の69.0%を占めると予測した。
このうち共有クラウドインフラ支出は、2022〜2027年の間に11.9%のCAGRで増加し、2027年には1101億ドルに達し、クラウド総額の72.0%を占める見通しだ。専用クラウドインフラ支出は、9.6%のCAGRで増加し、429億ドルに達する見通しだ。
IDCは、非クラウドインフラ支出を、CAGR1.3%で成長し、2027年には686億ドルに達すると予測している。
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