「人を幸せにしたい」から、人事を目指し、エンジニアになった:Go AbekawaのGo Global!〜Dolf Marvin(前)(2/2 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はエルテスでデータ分析のエンジニアとして働く、Dolf Marvin(ドルフ・マルビン)さんにお話を伺う。幼いころからとにかく人を支えたいという気持ちが強かったマルビンさんの夢は「人事部で働くこと」だった。
夢は、人事部で働くこと
阿部川 最初にPCに触ったときのことを覚えていますか。
マルビンさん 12歳ぐらいのころでしょうか。日本でいう中学校に進学したときに、勉強で使うために両親に買ってもらいました。確か、富士通のノートPCでした。
阿部川 授業でPCを使うことはありましたか。
マルビンさん そうですね、ドキュメントを書くために使うことはありましたが、プログラミングなどはしませんでした。ただ、重要なアナウンスなどは各学生のメールアドレスに送られて来るので、PCは必須でした。
阿部川 学校生活においてPCを日常的に使っていたと。ではそのときはエンジニアやプログラマーになろうとは思っていなかったのですね。
マルビンさん 左様でございます。ITについてあれこれ考えたり、憧れを持ったりしたのは大学後半くらいだったと思います。
阿部川 では、そのころの夢は何でしたか。
マルビンさん 誰もが思うようなことですよ、例えば宇宙飛行士になりたいとか。具体的に「これになりたい!」と思ったのは、人事です。人事部の人になりたかった。
阿部川 すごいですね、長年この仕事をしていますが、若いときから人事部の仕事をしたかったという人は初めてです。
マルビンさん 先ほども申し上げました通り、とにかく人を支えたいという思いがありまして。企業の中に入るのであれば、バックオフィスでいろいろな人をサポートしたり、いろいろな人の悩みを聞いたり、問題解決したいと思っていました。
阿部川 大学で経済学を専攻したのもその影響でしょうか。
マルビンさん はい。University of Basel(バーゼル大学)で経済経営学を学びました。授業では主に人事のこと、例えば男女差別などのテーマで幾つか論文を執筆させていただきました。論文ですから適当なことはもちろん書けません、データの関連付けが必要です。ですから経営学部に属するものは、統計学も必ず履修しなければなりません。
そうした中でデータに触れる楽しさに目覚め、「Java」の講座も受けました。最終的には計量経済学を学びました。データを使っていろいろシミュレーションをするんです。「この人はこのぐらい予算がある。予算は多少変動するので乱数を使って幾つかのシナリオを作って計算させてみよう」と。それを何年分か計算させると、どのシナリオが1番効率良いのか分かるんです。プログラミングを駆使して、ひたすら夢中でシミュレーションしていました。実際にそういう世界に飛び込んだような気持ちになりました。
そこで思ったんです。私が仕事でしたいことはこれだと。ただ、これまで人事になりたかった自分の気持ちを捨てるのかと悩みました。でも、仕事を通して何をしたいのかというと、単純に「人を幸せにしたい、支えたい」といういちずな思いであることは変わりません。
結局、なぜデータ分析に取り組んでいるのかといえば、人を助けられるからです。人が一人で絶対に理解できないようなことをいっぱい学んでその知識を伝達できれば、人事部よりもっと複雑なことを解決できるし、楽しいだろうなという風に思って、今はエンジニアになっているところでございます。
阿部川 では、今楽しくて仕方がないでしょう。
マルビンさん とってもとっても楽しいです。お客さまに感謝されることもありまして、その時は一番達成感を感じます。
大学に行くか行かないかで、学校に行く期間が変わる
阿部川 先に大学のお話が出ましたが、スイスの学校制度は日本と同じでしょうか。
マルビンさん ちょっと違いますね。大まかに「大学に行く人」と「大学に行かない人」で入学する学校や教育を受ける期間が変わります。大学に行かない人は16歳ぐらいで高校を卒業して学校は終わり、その後は企業を探し就職するといった感じです。
阿部川 ああ、理にかなっていますね。日本の大学進学率は世界と比べても高いんですが、「行きたいか」ではなく「行くもの」として進学する人が多い気がします。行きたい人だけ行く方がよい気がしますね。
マルビンさん 私の場合、日本への移住を考えていましたので大学を目指すルートになりました。ビザを取るためにも勉強が必要ですし、夢(人事部に入りたい)もありましたので。小学校に6年間、大学準備校で6年間、そして大学で3年間です。いろいろな分野を割と深めに学ぶことになるので、卒業まで少し時間がかかるんですよね。
2017年のデータになりますが、文部科学省の資料によると、スイスは「就学前教育」「初等教育」「中等教育」「高等教育」に分かれており、日本に当てはめるならそれぞれ幼稚園、小学校、中学校と高校、大学といった分類になります。中等教育の前期(日本でいう中学校)までは共通ですが、後期からは進路に合わせてさまざまな選択肢があります。また、スイスは連邦共和制を取っており、20の州と6の準州で構成されているんのですが、それぞれの州でも教育制度が微妙に異なるそうです。
阿部川 大学準備校であるBundner Kantonsschule(グラウビュンデン州立学校)を卒業されたのは何歳のときでしたか。
マルビンさん 19歳だったかな……いや、失礼しました“はたち”(20歳)ですね。
阿部川 20歳というと、スイスでは兵役がありますよね。
マルビンさん はい。勉強や実習などトータルで300日間を兵役に費やす必要があります。最初に新兵学校に行って、新兵から兵士になるための授業を受けます。授業は2〜3カ月くらいですね。授業を受けた後は毎年1〜2週間ぐらい軍隊に行って、それ以外は普通に生活するといったスタイルが一般的です。ただ大学に入りたい人は授業の後に軍務をすることになるのでそれを避けるため、短期間で一気に授業をやってしまえる制度もあります。私もそれを利用しました。
阿部川 300日間、ずっと続けてやる方法もあるし、例えば「1年のどこかで連続して2週間務め、それを40歳くらいまで毎年続ける」といった方法もあるということですね。その後、バーゼル大学に進学されます。統計学、あるいは機械学習などに興味を持ったのはそのころですか。
マルビンさん 左様でございます。大学準備校でも少しは触れましたが、実践的なところまでは学びませんでしたので、大学で実際にシミュレーションを実行することで「こういう使い方ができるんだ」と興味を持ちました。
阿部川 在学中はアルバイトも長い期間されていますね。
マルビンさん 高校のときに3年ぐらいやって、大学は忙しくなりそうだろうと思っていったん辞めたんですけど、やっぱり戻りたいとなって、そこからさらに4年間ぐらいはやっていましたね。スーパーの注文食品を用意して、それを配送業者に渡したり、そのための準備をしたりしていました。まあ、力仕事ですね。大変といえば大変でしたけど、大学ではほぼ勉強しかしていない時期だったので、精神的な支えでもありました。現場の人間のつながりもあって、結構楽しかった思い出です。
家族の影響もあり、幼いときから「人の役に立つこと」を心掛けていたマルビンさん。その気持ちは「人事部で活躍したい」という夢になり、夢の実現のために学んだことが現在の仕事へとつながっていく。後編は来日したきっかけと将来実現したいことについて。
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