あやと、18歳 高校を中退してでも貫きたかった「強いハッカー」への羨望:フランス発のエンジニア養成機関で“楽しく”修行(1/3 ページ)
『ワイルド・スピード アイスブレイク』を観た少年の心をくぎ付けにした1人の女性ハッカー。自宅のWi-Fiをハックし、中学校のPCをハックし、より強いハッカーへとまい進する少年を突き動かすのは「やりたいことをやりきる」の精神だった。
一時期は何かと言えば「セキュリティ人材が足りない」と叫ばれていた。最近は耳にする機会が少なくなったように思えるが、逆にいえば、それだけセキュリティ人材不足が「当たり前」になっているのかもしれない。
ITやセキュリティに限らず、あらゆる分野での人手不足が明らかになる中、高度化するサイバー脅威から重要な資産を守っていくには、高い知的好奇心を持った人材が自分の興味の赴くままに伸び伸びと活躍できる場を作ることが大切ではないだろうか。そんなことを思わせるのが、蔀綾人(しとみあやと)さんの姿だ。
「好きなことをしたい、自分のまだ知らないことをしたい」――そんな思いに突き動かされて技術を学び、コミュニティー活動にも取り組み、2024年度からはセキュリティ企業でも働き始める蔀さんに、これまでの歩みを聞いた。
映画を見てほれ込んだ、ハッカーという生き方
2004年生まれの蔀さんは、生まれも育ちも札幌だ。子どものころは、プログラミングやIT技術よりも、公園や山で駆け回り、秘密基地を作ったりする方に熱中していた。
「ただ、思えばその頃から、秘密結社的なものを作るといった、ワクワクドキドキする、ハッカーぽいものに憧れていたように思います」
「どう勉強すれば成績が伸びるか」を考え効率的に努力を重ねるやり方で、札幌でも有数の中高一貫進学校に進み、成績は上位。また身体能力にも優れ、競泳で中体連の北海道大会で2位に入るといった文武両道ぶりを発揮していた。
そのままいけば、末は博士か大臣か――と思うところだが、その頃出会い、人生を決定づけたのが、ハッカーという生き方だった。
「『ワイルド・スピード アイスブレイク(Fast & Furious 8)』という映画を見ていたら、無人の車をハッキングして操る人が出てきて、めちゃくちゃ格好良かったんです。『うわぁ、これはもうやるしかない』って思いました」
コンピュータなどシステムの本質を理解し、その上で誰もが思ってもみないようなことをする、本来の意味での「ハッキング」の面白さに心を奪われた。
思い立ったら行動は早い。ハッキングについて知るには、まず情報処理やプログラミング、コンピュータのことを知らなければならない。早速Raspberry Piを購入していじり倒したが、すぐにパスワード解析などでスペックの限界に突き当たった。ならばと次は、雑誌の内容を参考にしてPCを自作した。
「約20万円の予算でPCを作りました。当時の自分には大金だったので、親や祖父に『もしPCを買ったら、こういった勉強に使ってもっと頑張ります』とプレゼンして資金を調達しました。実際は、遊びやハッキングの方にのめり込んでしまいましたけど(笑)」
知れば知るほど面白く、面白さを深掘りするためにさらに調べ、また新たなことを知る――というサイクルで知識を身に付けていった蔀さん。「親に怒られて自宅のWi-Fiが使えなくなってしまったときに、それをハッキングして使えるようにしたことがありました」とイタズラもハッカー的だ。「BadUSB」として知られる細工したUSBメモリで、学校でいたずらをしたこともあったという。
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