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よく耳にするけれど実はあまり理解していなかった「SoR、SoE」の違いを学ぼうビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第14回は「SoR、SoE」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。

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1 SoR、SoEとは

 「SoR」と「SoE」は、それぞれシステムの分類を表す用語です。

 SoRは「System of Record」の略語で、記録することを主目的とした情報システムを指します。SoEは「System of Engagement」の略語で、こちらは顧客とのつながりを主目的とした情報システムを指します。

 従来、情報システムは企業の業務遂行に用いられ、SoRの設計思想で構築されるものがほとんどでしたが、近年は顧客ニーズの多様化などからSoEを用いた顧客との関係強化の重要性が増しています。

2 SoRとSoEの違い

 SoRは上述の通り記録することを目的としたシステムであるため、安定性や正確さが求められ、システムやデータ構造において変化が少ないものです。

 企業のビジネスの根幹を担うものであり、システム規模が大きくなるものが多いことから、ウオーターフォール型(※1)でのシステム開発がなされることが多くあります。SoRが停止してしまうとビジネスが継続不能な状況に陥るため、可用性の高さや高度なセキュリティが求められます。

 SoEは顧客との関係強化を目的としたものであることから、さまざまなデータ形式やニーズに応えられる柔軟性が求められます。このことから、SoEにおいてはスピーディーな開発に対応できるアジャイル型(※2)でのシステム開発や、柔軟な変化に対応できるシステム基盤としてクラウドが多く活用されます。


図1 SoRとSoEのイメージ

 SoRとSoEは設計思想や機能が大きく異なりますが、互いに補完し合う存在です。SoEによって収集したデータをSoRの仕組みで蓄積し、顧客との関係強化に利用するといったサイクルで活用されます。

※1 ウオーターフォール型:システムの開発手法の一つで、要件定義→設計→実装など一連の工程を順番に進めていく方式のこと。各工程の進捗(しんちょく)管理がしやすく、大規模なシステム開発に適しているが、仕様変更の影響を受けやすい
※2 アジャイル型:システム開発手法の一つで、システム開発を機能ごとなどに細分化し、それぞれで設計、実装、テスト、リリースを繰り返す手法のこと。仕様変更を前提としており、ウオーターフォール型と比較して柔軟で迅速なシステム開発が行える一方、スケジュール管理やシステム開発の方向性がずれないよう注意が必要となる

3 SoRの例

 SoRとして最も一般的な例は、基幹系と呼ばれる情報システムです。

 基幹系は、企業の中核を担う業務プロセスをサポートするために構築されたシステムです。会計、人事、在庫管理、生産管理などの基本的な業務機能を管理し、業務効率を向上させることを目的としています。

4 SoEの例

 SoEは情報系システムと呼ばれ、顧客とのつながりを作る情報システムです。代表的な機能の例として、以下のようなものが挙げられます。いずれも収集したデータをSoR(データベース)に蓄積して活用します。

4.1 CRM(Customer Relationship Management)

 CRMは顧客の氏名や所属などの顧客情報を一元管理し、企業の中で情報を共有します。顧客との商談記録やメールのやりとりなどのデータを収集し、そこから顧客のニーズを分析して、各顧客に最適化したサービスの提供を実現します。CRMは営業やマーケティングなどさまざまな業務で活用される、顧客満足度を高めることを目的とした情報システムです

4.2 カスタマーサポートシステム(プラットフォーム)

 カスタマーサポートシステムは、顧客とのコミュニケーションを促進し、顧客に発生した問題の解決を支援します。電話との連携や、チャット、メールなど複数のコミュニケーション方法を統合して提供します。ここで得た課題をSoRにデータとして蓄積することで、課題の分析とさらなる顧客サービスの向上に役立てます。

4.3 レコメンド機能

 昨今のECサイトやWebサイトの多くで実装されている、個人の嗜好(しこう)にマッチする商品や情報をお薦めとして提案する機能も、SoEの一つといえます。

 これは、個人が過去に閲覧した商品やWebサイトの情報をSoRに記録し、そのデータから類似の商品やカテゴリーに関心を持っている他の利用者を関連付け、類似した他の利用者が見ている商品を表示させるなどの仕組みです。

5 ICTにおけるSoR、SoEのバランス

 SoRとSoEは相互に補完し合うものであり、バランス良く投資していくことで互いのメリットを最大化します。顧客とつながることで新たなビジネスを創出するSoEは「攻めのICT(※3)」といわれ、基幹系システムなどが該当するSoRは、投資することで既存業務の効率化などに寄与することから、「守りのICT」といわれます。

 日本情報システム・ユーザ協会の調査結果では、現行ビジネスの維持、運営のための「ランザビジネス」予算と、ビジネスの新しい展開のための「バリューアップ」予算の比率が8対2となっていることから、日本におけるICT投資のバランスはSoRに偏っていることが伺えます。


図2 年度別 IT予算配分(平均割合) 出典 企業IT動向調査報告書 2023(日本情報システム・ユーザ協会)
※3 ICT:「Information and Communication Technology」の略で、情報通信技術のこと

6 SoR、SoEとDX

 昨今の日本企業において急務となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にも、SoRとSoEは密接に関わっています。

 DXはデジタル技術やデータを活用してビジネスのプロセスやサービスを変革する取り組みです。企業においてDXを推進する方法の一つとして、SoRによってDX推進の基盤となるデータを蓄積し、蓄積したデータからSoEによって顧客に新たな価値やサービス体験を提供して強固な関係を作ることができます。

 上述の通り、日本におけるICT投資はSoRに偏っており、既存ビジネスの改善に注力していることが伺えます。SoEへの投資の比率を上げることで、より革新的で新しいサービスや価値を創造し、DXの推進を加速させることができる可能性があるように思います。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

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