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ファミリーマートがDXで活用する「ユニークなネットワークサービス」とは?羽ばたけ!ネットワークエンジニア(80)

ファミリーマートは2024年5月31日、IoT/DXプラットフォーム事業を展開するミークと資本業務提携した。提携の目的を明らかにするとともに、ミークの持つモバイルをベースとしたネットワークサービスが流通業のネットワークでどう活用できるか考える。

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 ファミリーマート(本社 東京都港区、代表取締役社長 細見研介氏、)が提携したミーク(本社 東京都渋谷区、代表取締役 執行役員社長 峯村竜太氏)はソニーネットワークコミュニケーションズから独立した会社で、MVNE事業とIoT/DX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォーム事業を行っている。

 MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)とは、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:大手携帯通信事業者の回線を再販する格安携帯通信事業者)に対して、MVNO事業に必要な回線や設備、システムを提供する事業だ。ミークはMVNEとしての技術力を生かして、DXを推進する企業にIoTプラットフォーム「MEEQ」を提供している。

ファミリーマートが進めるDXと、ミーク提携の狙い

 ファミリーマート クリエイティブオフィス&8の川名将斗氏に、ファミリーマートが進めるDXとミークとの提携の狙いについて伺った。

 コンビニエンスストアには50年を超える歴史があり、ITを活用しながら業務の効率化と商品/サービスの拡大を続けてきた。他の業界でも同様だが、コンビニ業界が直面する最大の課題は「人手不足」だ。DXの最大の目的は、人材不足に対応し事業継続を図るため、店舗運営における「工数削減」「省人化」を図ることだ。

 省人化は既に幾つもの取り組みが行われている。「無人決済店舗」は名前通りの無人決済システムを導入した店舗で、鉄道駅、医療施設、大学などに出店されている。「自販機コンビニ」はオフィスなどに設置する自動販売機で、おにぎり、サンドイッチといったコンビニで扱う商品を販売するものだ。

 「多機能型床清掃ロボット」(写真)は、2024年2月末までに300店舗に導入された。店舗従業員が1日3回実施している掃き清掃や拭き清掃を全自動化し、清掃業務に必要な約1時間を削減するだけでなく、小型ディスプレイでの商品告知や陳列スペースを使って商品を訴求する。


多機能型床清掃ロボット

 650店舗に設置されているスマートロッカー「ファミロッカー」は、顧客がレジを介さずに荷物の発送や受け取りができる。

 川名氏によると、ミークとの提携の目的はファミリーマートの持つIT/DXのノウハウとミークの通信/IoT技術を生かし、新たなサービスや省人化ソリューションを共創することだ。具体的な内容は検討中とのことだ。

流通業のネットワークでミークのサービスはどう生かせるか

 ここからは、MEEQを流通業のネットワークでどう活用できるか、筆者の考えを述べる。下図がその適用イメージだ。


図 流通業のネットワークにおけるMEEQサービスの適用イメージ

 MEEQには、「MEEQ SIM」というIoT向け通信サービスの他に、IoTデバイスからのデータを収集/処理する「MEEQデータプラットフォーム」、データをAI(人工知能)で処理する「MEEQ AI」など、ネットワークより上位のサービスが用意されている。いずれもノーコードでソフトウェア開発なしに利用できる。

 MEEQ SIMの通信サービスには、インターネット接続と閉域ネットワーク接続がある。図は閉域ネットワーク接続を適用した想定事例だ。スマホで使っているSIMはインターネットに接続するために使う。これに対して「閉域ネットワーク」はインターネットに接続せず、企業ネットワークなどの閉域網(プライベートIPアドレスを使うネットワーク)に接続して使う。

 モバイルの閉域ネットワークサービスは、以前から大手携帯通信事業者各社が提供している。筆者はPCの8割を常時閉域モバイル網に接続する企業ネットワークを2015年に構築した。そのメリットは本連載第3回「働き方改革から災害対策まで『閉域モバイル網』を徹底活用しよう!」で詳しく述べている。その際に筆者が使ったのは、シングルキャリア(大手携帯通信事業者1社)の閉域モバイル網だ。

 これに対してMEEQ SIMの特徴は、図の通り、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、3社のSIMが混在するマルチキャリアが可能なことだ。マルチキャリアであっても、端末に付与するプライベートIPアドレスは企業のプライベートIPアドレスを使用できる。つまり、企業ネットワークの一部としてマルチキャリア閉域モバイル網を利用できるのだ。全国に多店舗を展開する流通企業の場合、各店舗で最も電波状態の良いキャリアを選んで使えるのがマルチキャリアのメリットだ。

 多数のSIMをマルチキャリアで使うと運用が大変になるのではないかと危惧される。MEEQでは運用の負荷を軽減するために、直感的に使える「コンソール(Web管理コンソール)」が用意されている。SIMの発注(納品は最短3営業日)/解約、利用停止/再開、SIMのグループ化、全体/SIMごとの通信量確認、位置情報表示などが簡単にできる。

 料金プランは、初期費用が2750円(税込、以下同)。月間10MB/143円〜の定額制プランや、動画などのアップロードに特化した「上り特化プラン」月間100GB/3740円など、さまざまなプランが用意されている。

 さて、MEEQの通信サービスを流通業のネットワークでどう使うかだ。筆者は流通企業のネットワークを「堅確性/高速性/大容量性」が求められる用途と、「即応性/柔軟性/モビリティ」が必要な用途に分けて設計するのがよいと考える。

 最も重要なのは堅確性だ。経済産業省のデータによると、2023年のキャッシュレス決済の比率は39.3%と約4割に達している。カードやアプリを使ったポイントサービスの利用も増えている。マイボイスコムが2023年6月に行った調査では、直近1年間にポイントサービスを使った割合はスーパーとドラッグストアが60%台、コンビニエンスストアが50%台となっている。キャッシュレス決済やポイント付与は顧客サービスとして不可欠なものとなっており、「ネットワークが使えない」ために決済やポイント付与ができないことは許されない。「堅確性」が重要な理由だ。

 また、大型ディスプレイを使ったデジタルサイネージやバックヤードで使われる従業員教育用のビデオ(新規採用のパート社員など向け)は、「高速性」が求められる。サイネージは長時間ビデオコンテンツを流すため、大容量であることも必要だ。

 「堅確性/高速性/大容量性」が求められる用途は、図にあるように店舗WAN(Wide Area Network)向けの固定回線(光ファイバーを使った回線)と、インターネット向けの固定回線で二重化し、一方が使えない場合は他方でバックアップする。最近ではNTT東西の「フレッツ光 ネクスト」とソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO 光」を組み合わせて使うことが多い。従来の専用線よりはるかに安価で、高い実効速度(200〜500Mbps程度)が得られるからだ。固定回線なので、スマホのように容量(ギガ)を気にする必要はない。

 「即応性/柔軟性/モビリティ」が求められる用途では、モバイル通信が適している。ここでMEEQ通信サービスが有力な選択肢となる。清掃ロボットの運用、催事場など臨時の売場で使うモバイルPOS、AIを使った棚在庫の監視、といった用途が考えられる。

 上述の通り、マルチキャリアが可能、運用負荷を軽減できるコンソール、比較的安価な定額プラン、というネットワークサービスとしての特長に加えて、IoTデータを活用するデータプラットフォームやAIが用意されているのも強みといえる。

 しかし、MEEQではないシングルキャリアによるモバイル通信という選択肢がなくなったわけではない。設計のしやすさ、得られる実効速度、コスト、運用性、ネットワークより上位のサービスなどを総合的に検討し、最適なモバイルサービスを選択すべきだ。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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