NIST、3つのポスト量子暗号(PQC)標準(FIPS 203〜205)を発表 量子コンピュータ悪用に耐える暗号化アルゴリズム、どう決めた?:一般暗号化とデジタル署名の標準
NISTは、量子コンピュータの不正利用によるサイバー攻撃に耐えられる3つの主要な暗号化アルゴリズムの開発を完了したと発表した。NISTはコンピュータシステム管理者に対し、新標準への移行をできるだけ早く開始するよう呼び掛けている。
米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月13日(米国時間)、量子コンピュータの不正利用によるサイバー攻撃からデータを保護するための3つの主要な暗号化アルゴリズムの開発を完了したと発表した。
通常のコンピュータとは根本的に異なる仕組みで動作する量子コンピュータの開発が急速に進められている。だが、量子コンピュータは将来、電子メールから電子商取引まで、オンライン上のほぼ全ての行為のセキュリティとプライバシーを支える現在の暗号化方式を破れるだけの計算能力を持つようになると考えられている。そうした量子コンピュータが10年以内に登場し、個人、組織、国家の安全が脅かされる可能性があるとの予測もある。
そこでNISTは、量子コンピュータによるサイバー攻撃に耐えられるポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography:PQC)技術の標準化プロジェクトを進めてきた。
今回発表された3つのポスト量子暗号アルゴリズムは、このプロジェクトで最初に完成した標準規格として規定されており、直ちに利用可能だ。
この3つの新しい標準は、暗号化が一般的に使用される2つの重要なタスクである「一般暗号化」と「デジタル署名」のために設計されている。一般暗号化は、パブリックネットワークでやりとりされる情報を保護するために、デジタル署名は、本人認証に使われる。
NISTはコンピュータシステム管理者に対し、新標準への移行をできるだけ早く開始するよう呼び掛けている。
PQC標準、公開までのいきさつ
NISTは2016年に世界の暗号技術者に対し、将来の強力な量子コンピュータを悪用した攻撃に対抗できる暗号化方式の考案を呼び掛けた。82件の応募があり、そのうち8件が3次選考に残った。
NISTは2022年にその中から、PQCの一部となる4つの暗号化アルゴリズム候補として、一般暗号化アルゴリズムの「CRYSTALS-Kyber」と、デジタル署名アルゴリズムの「CRYSTALS-Dilithium」「SPHINCS+」「FALCON」を発表した。
2023年に、CRYSTALS-Kyber、CRYSTALS-Dilithium、SPHINCS+のドラフト版を公開し、今回、この3つを以下のように、FIPS(米国連邦情報処理標準)203〜205として公開した。FALCONに基づくドラフトも2024年内に公開される見通しだ。
3つの標準
FIPS 203
一般暗号化の主要標準。CRYSTALS-Kyberアルゴリズムをベースにしているが、このアルゴリズムは、「ML-KEM(Module-Lattice-Based Key-Encapsulation Mechanism)」に名称変更された。
FIPS 204
デジタル署名を保護するための主要標準。CRYSTALS-Dilithiumアルゴリズムを使用しているが、このアルゴリズムは「ML-DSA(Module-Lattice-Based Digital Signature Algorithm)」に名称変更された。
FIPS 205
同じくデジタル署名標準。Sphincs+アルゴリズムを使用しているが、このアルゴリズムは「SLH-DSA(Stateless Hash-Based Digital Signature Algorithm)」に名称変更された。この標準は、ML-DSAとは異なる数学的アプローチに基づいており、ML-DSAに脆弱(ぜいじゃく)性が認められた場合の予備として想定されている。
FALCONをベースにした「FIPS 206」標準のドラフトが公開される際には、このアルゴリズムは「FN-DSA(FFT〈fast-Fourier transform〉over NTRU-Lattice-Based Digital Signature Algorithm)」に名称変更される予定だ。
なお、これらのアルゴリズムのうちML-KEMとML-DSAは、IBMの研究者が業界および学術界のパートナーと協力して開発したものであり、FN-DSAもIBMが開発している。
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