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RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは? 導入のメリット、デメリット、活用例を分かりやすく解説

RAGは、生成AIの信頼性と正確性を大幅に向上させるアプローチだ。本記事では、ITエンジニアや開発者向けに、RAGの基本的な仕組みから、そのメリット、デメリット、具体的な活用例までを分かりやすく解説する。

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 AI(人工知能)技術の急速な発展により、多くの企業や開発者が生成AIモデルの活用を検討している。しかし、従来の大規模言語モデル(LLM)には、最新情報へのアクセスの困難さや、事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」といった課題がある。これらの問題を解決する技術として注目されているのが、RAG(Retrieval-Augmented Generation)だ。

 RAGは、生成AIの信頼性と正確性を大幅に向上させるアプローチであり、企業のデータを活用したAIアシスタントの構築を可能にする。本記事では、RAGの基本概念から実装のポイントまでを包括的に解説し、ITエンジニアがRAGを効果的に活用するための知識を提供する。

 この記事を読むことで、RAGの技術的な仕組み、導入のメリット、デメリット、具体的な活用事例、そして実装に成功するためのポイントを理解できるようになる。

RAGとは

RAGの基本的な定義

 RAGは、Retrieval-Augmented Generationと呼ばれる技術であり、生成AIモデルの精度と信頼性を向上させるための手法だ。具体的には、LLMの入力に、検索で取得した外部の知識ベースを結合して生成する。

 RAGの動作原理は以下の通り。

  1. ユーザーがLLMに質問を投げ掛ける
  2. 質問が数値ベクトルに変換される
  3. ベクトルが知識ベースと照合される
  4. 関連情報が検索され、LLMの応答に追加される

 この仕組みにより、モデルが学習済みの知識と質問時に検索した最新情報の両方を活用して、より具体的で事実に基づいた回答を生成できる。

 RAG技術への関心は急速に高まっており、主要なクラウドベンダーもRAG関連サービスを提供している。例えば、Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Bedrock Knowledge Bases」、Googleの「Generative AI on Vertex AI グラウンディング」、Microsoftの「Azure AI Search」「Azure OpenAI」といったサービスがある。

RAGの3つのメリット

メリット1:高精度で信頼性の高い回答を生成

 RAGの最大のメリットは、外部の信頼できるデータソースから情報を検索し、それに基づいて回答を生成することで、AIのハルシネーションを大幅に削減できることだ。従来のLLMが学習データに含まれていない最新情報や専門的な内容について曖昧な回答をしがちなのに対し、RAGは具体的で検証可能な情報を提供できる。

メリット2:コスト効率の良い知識更新

 従来のLLMで新しい知識を追加するには、大量のデータで再学習する必要があり、膨大な計算コストと時間がかかる。RAGでは、外部の知識ベースを更新するだけで、モデル自体を再学習することなく最新情報にアクセスできるため、大幅なコスト削減が実現できる。この特性により、企業は自社の専有データや最新の業界情報を活用したAIシステムを、効率的に構築、運用することが可能になる。

メリット3:透明性と説明可能性の向上

 RAGは、回答の生成に使用した情報源を明示できるため、AIの判断プロセスに透明性をもたらす。ユーザーは回答の根拠を確認でき、AIシステムへの信頼性が向上する。特に医療、金融、法務などの高い説明責任が求められる分野において重要視される説明可能性を向上できる。

RAGの3つのデメリット

デメリット1:システム複雑性の増加

 RAGシステムは、埋め込みモデル、ベクトルデータベース、言語モデルという複数のコンポーネントを統合する必要があり、従来のLLMよりもシステム構成が複雑になる。これにより、開発、運用、保守の難易度が上がり、エンジニアリングリソースの負担が増加する可能性がある。また、各コンポーネント間の連携やパフォーマンスの最適化も、専門的な知識と経験を要する作業となる。

デメリット2:検索品質への依存

 RAGシステムの性能は、検索精度に大きく依存する。不適切なチャンクの分割、品質の低い埋め込みモデル、関連性の低い情報の検索などが発生すると、全体のシステム性能が劣化する。加えて、データの前処理や知識ベースの設計が不十分な場合、期待される効果を得られない可能性がある。

デメリット3:レイテンシの増加

 RAGシステムでは、回答生成前に外部データベースからの検索処理が必要となるため、通常のLLMと比較して応答が遅くなる傾向がある。特に大規模な知識ベースを扱う場合や、リアルタイム性が要求されるアプリケーションでは、この遅延がユーザー体験に影響を与える可能性がある。

RAGの主な活用例

活用例1:カスタマーサポートシステム

 企業の製品マニュアル、FAQ、過去のサポート事例をRAGシステムに統合することで、顧客からの問い合わせに対して迅速かつ正確な回答を提供できる。従来のチャットbotよりも文脈を理解した自然な応答が可能で、サポート業務の効率化と顧客満足度の向上を同時に実現できる。

活用例2:社内ナレッジマネジメント

 企業の内部文書、技術仕様書、ベストプラクティス集などをRAGシステムで管理することで、従業員が必要な情報に素早くアクセスできる環境を構築できる。新入社員の教育や、プロジェクト間での知識共有の促進に大きな効果を発揮する。

活用例3:専門分野でのリサーチ支援

 医療、法務、金融などの専門分野において、大量の文献や規制文書をRAGシステムで管理し、専門家の調査、研究業務を支援する活用が進んでいる。特に最新の研究論文や法改正情報などを迅速にキャッチアップする必要がある分野で高い価値を提供している。

RAG導入を成功させるためのポイント

ポイント1:適切なチャンク分割戦略の設計

 RAGシステムの性能は、文書をどのように分割(チャンク化)するかに大きく左右される。文書の構造や内容に応じて、意味的なまとまりを保ちながら適切なサイズでチャンクを作成することが重要だ。単純な文字数ベースの分割ではなく、段落や章単位での分割、重要な情報を含むセクションの優先的な処理などを検討する必要がある。

ポイント2:高品質な埋め込みモデルの選択

 検索精度を向上させるには、対象ドメインに適した埋め込みモデルの選択が不可欠だ。一般的なモデルではなく、専門分野に特化したモデルや、多言語対応が必要な場合は適切な言語モデルを選択することで、検索の精度を大幅に改善できる。

ポイント3:継続的な評価と改善プロセスの確立

 RAGシステムは導入後も継続的な監視と改善が必要だ。検索精度、回答品質、システムパフォーマンスなどの指標を定期的に評価し、データの更新、モデルの調整、システム構成の最適化を行うプロセスを確立することが成功の鍵となる。また、再ランキングモデルの導入や「Graph RAG(グラフ構造に整理された知識を活用するRAG)」「Hybrid RAG(ベクトル検索とキーワード検索など複数の検索手法を組み合わせるRAG)」などの高度な手法の採用も検討するとよい。

おすすめのRAGツール、プラットフォーム

LangChain

 代表的なRAGフレームワーク。RetrieverやChainの仕組みが整備されており、LLMとベクトルDB(データベース)を組み合わせたRAGシステムを容易に構築できる。

LlamaIndex

 文書のインデキシングと検索を効率的に行うフレームワーク。既存のデータソースやベクトルDBと統合してRAGシステムの構築を支援する。

NVIDIA NeMo

 企業向けにスケーラブルなRAGシステムを構築できるプラットフォーム。Retrieverモジュールを含み、高性能な検索機能と生成モデルを統合できる。

Hugging Face Transformers

 RAGモデルの実験やLLMの実行に広く利用される、LLM実行用のライブラリ。FAISSなどの検索基盤や、LangChainなどのフレームワークと組み合わせて使うことでRAGに活用できる。

Ollama

 ローカル環境でLLMを実行できるツール。LangChainやLlamaIndexなどと組み合わせることで、RAGのプロトタイプ開発や小規模な実装に活用可能。

RAGについて、もっと知りたくなったら

 @ITでは、RAGだけでなくLLMやAIに関する記事も多く掲載しているので、ご参考に。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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