業務にそぐわないパッケージソフトウェアを導入したから訴えます。選んだのは私ですが:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(126)(2/3 ページ)
ユーザー企業が選定したパッケージソフトウェアを導入したベンダーが「業務に適合しなかった」と訴えられた。そんな要件、聞いてないよ!
ベンダーに対してクリニック運営者が依頼したのは「パッケージソフトウェアの導入作業」であり、「パッケージソフトウェアの選定自体」は、ベンダーの提案に基づいてクリニック運営者が行ったようだ。
そして、「予約が2カ月先までしか入らないのでは、実務上支障がある」ことはベンダーには伝えられていなかったことが、判決の内容から推測できる。ベンダーからすれば、「それならそうと先に言ってくれれば、実務に適合するソフトウェアを提案したのに」と言いたいところだろう。
だがクリニック運営者からすると、「パッケージソフトウェアの提案をしてもらうのにどのような情報を提示すべきかなんて、ベンダーに教えてもらわなければ分からない」というところだろう。形式的上パッケージソフトウェアの選定責任は自分たちにあっても、「専門家であるベンダーが勧めるものであれば、問題なく動作するはずだ」と考えるのは、ある意味自然なことでもある。
本訴訟は「ベンダーが負うべき責任はどの範囲までか」を争うものであり、裁判の結果は、一般のシステム開発全般、またクラウドサービスやLLM選定などもその射程に入るかもしれない。
判決の続きを見てみよう。
東京地方裁判所 令和3年12月2日 判決より(つづき)
本件システム導入のための協働関係に入っていたと認められるベンダーは、少なくとも本件システムの予約管理機能について懸案事項が発生し得ることについての認識を持ち得たといえる。
本件の事情の下では、信義則上、クリニック運営者から本件クリニックにおける予約の実態や要望などについて追加で聴き取りをするなどにより、クリニック運営者が本件システムを導入するかについての適切な判断をすることができるように配慮すべき義務を負っていたというべきである。
裁判所はクリニック運営者の訴えを認め、ベンダー敗訴となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ユーザーの「無知」は罪なのか?――IT訴訟解説 ベンダーvs.ユーザー企業 死闘編
ユーザー企業から提供されたデータに多数の不整合があり、システムの納期が大幅に遅れた。遅延の原因はベンダー、ユーザー企業のどちらにあるのか――。人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。第124弾は「IT訴訟解説」のパート6をお贈りする全ベンダーが泣いた!――改正民法のIT業界への影響を徹底解説
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。「IT訴訟解説」のパート4は、120年ぶりの改正民法がIT業界にどのような影響を与えるのかを、徹底的に、徹底的に、徹底的に解説する真夏のホラー、召し上がれ――全エンジニアが震え上がる阿鼻叫喚の生き地獄 IT訴訟解説連載、初のebook化
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。第55弾は@ITイチの人気連載「IT訴訟 徹底解説」ですこれは、もう「無理ゲー」じゃない?――IT訴訟解説ebook、好評にお応えして早くもパート2 どーん!
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。第59弾はみんな大好き「IT訴訟解説」のパート2ですIT訴訟例で学ぶベンダー残酷物語の実態と回避策
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。「IT訴訟解説」のパート3は、ベンダーいじめ系特盛です