要件定義書に書いていない要件でも、ベンダーは気付くべきだ:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(129)(2/3 ページ)
ベンダーが作ったシステムは処理速度が遅く、タイムアウトによってシステムダウンを起こして使い物にならない。発注者は、「ITの素人が処理速度や処理時間を定義しなければならないなんて知ってるわけないだろう」とお怒りの様子だが、仕様漏れの責任は全てベンダーが負うべきなのだろうか――。
過去の裁判ではベンダーの責任とするものが多数
その一方で、そもそもシステム化の要件として「処理速度」や「処理時間」なるものを定義しなければならないことに気付かない発注者もいる。
発注者はITの素人であり、必要な要件を漏れなく、かつ十分に詳細、正確に定義することは困難だから、専門家であるベンダーがガイドしてあげなければならないという考えもある。
例えば、本連載で紹介した広島地方裁判所 平成11年10月27日判決「仕様書通りにシステムを作りました。使えなくても知りません」では、廃棄関連企業の示した基幹システム仕様書に業務的、論理的な誤りがあることを指摘しなかったベンダーに責任があるとされた。
また東京地裁 平成16年12月22日判決「ユーザーの要件が間違ってるのはベンダーの責任です!――全ベンダーが泣いた民法改正案を解説しよう その1」では、今回と同じような処理速度の遅延があるシステムについて、「要件定義書に記載がなくとも、システムの目的に照らせば、一定の処理速度は必要であり、ベンダーはこれを実現しなければならない」との判決が出ている。
こうした例は他にもあり、旅行会社のチケット発券システムの「遠隔操作機能は契約の目的から見て当然に必要であり、要件として示されていなくともベンダーは開発すべきだった」とするものや、インターネットサービスプロバイダーのシステムに、「統計機能などが(要件定義書にはなかったが)実装されなかったことの責任はベンダーにある」との判断が下されている。
だが、本来システム化要件は発注者からベンダーに示されるものであり、要件不備の責任をベンダーのみが一方的に負うのは、ベンダーにとって「酷」な話ではないだろうか。
本件の裁判所は、どのような判断をしたのだろうか。
東京高等裁判所 令和6年1月31日判決より(つづき)
(処理時間についての要件は要件定義書に含まれておらず)処理速度に関する要件は非機能要件として定めることが通例であり、処理速度に関する考え方については、ベンダーが発注者に確認して合意を取るのが通例であると考えられる。
(中略)
(ベンダーが発注者に対し)処理速度を具体的にどのように設定するか事前に確認しなかったことは不適切といえるものの、ベンダーのみに責任があるということはできず、上記の点をもってバグであるということはできない。
裁判所は、要件の不足についてベンダーが確認をしなかったのは不適切であると述べつつも、要件定義書に書かれていない事柄であることから「瑕疵(かし)」とまでは言えないと判断した。これまで私が見てきた判決とは、少なくとも表面上は若干異なるようだ。
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