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AIコーディング時代、Pythonに厳格な型付けは必要? 作者グイド・ヴァンロッサム氏にGitHubが聞いたTypeScriptに抜かれた感想も

GitHubの年次調査「Octoverse」でTypeScriptが最も使われる言語となる一方、Pythonは2025年に前年比49%成長した。GitHubはPythonの生みの親に、調査結果への感想やPython誕生の背景、AI時代における発展の方向性などを聞いた。

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 GitHubは2025年11月25日(米国時間)、年次調査「Octoverse」の最新データを踏まえ、プログラミング言語「Python」の作者グイド・ヴァンロッサム氏へのインタビュー内容を公開した。以降、その内容を要約する。


グイド・ヴァンロッサム氏(Python作者)(GitHubのYouTubeチャンネルから引用)

TypeScriptに抜かれた感想

 2025年8月時点のOctoverseでは、GitHub上で最も使われる言語は「TypeScript」がPythonを抜いて首位になったが(参考)、Python自体も2025年に前年比49%成長し、AI(人工知能)や科学、教育分野の標準言語の地位を維持している。

 この結果について、同氏は「非常に驚いた」としつつ「TIOBE Index」など他の人気指標と異なるデータが出たことを指摘。下記の見解が挙がったという。

  • 現代の静的Webサイトの多くがGitHub上にチェックインされる
  • 最近のJavaScriptフレームワークの多くがTypeScript前提でプロジェクトを生成する
  • GitHubの集計はオープンソースや公開リポジトリの活動、世界全体の利用状況を反映している

 同氏は「TypeScriptはPythonによく似た型システムを取り入れた。今JavaScriptを書くなら、TypeScriptを使うのが論理的に正しい。これらの言語は人間に人気がある。今後も人気は続くだろう」と述べている。

 ここから、同氏が述べる「人間(開発者)に人気がある」ことの詳細、Pythonの成り立ち、型システムを含む言語の発展へと話がつながっていく。

C言語とシェルスクリプトの「隙間」から生まれたPythonの設計思想

 ヴァンロッサム氏によると、Pythonは当初、新しいOS向けのユーティリティーを作る中で、「C言語の複雑さ」と「シェルスクリプトの表現力の限界」という現場の不満を解消するために生まれたという。

 開発環境としてC言語しか使えず、単に入力から2行読み込むだけの小さなユーティリティーを書く場合でさえ、バッファーオーバーフローやメモリ割り当ての管理に細心の注意を払う必要があり、「バグが入り込みやすいC」に不満があった。C言語よりもはるかに安全で、メモリ割り当てや境界外インデックスといった問題を解決してくれる、それでいてシェルスクリプトではない「プログラミング言語」が求められていた。

 そこで同氏は、C言語の難しさとシェルスクリプトの限界の間にある実用的なツールとなる言語を作りたいと考えた。そして、難しい部分を言語側で処理して開発者が重要なことに集中できるように設計されたPythonが誕生した。

 「Python」という名前は「空飛ぶモンティ・パイソン」に由来する。堅苦しいコンピュータ言語の世界に少しの不遜さを持ち込みたかったという。この「親しみやすさ」と、中括弧の代わりにきれいなインデントを使用し、分かりやすいエラーメッセージと大規模な標準ライブラリを含む「読みやすさ」を重視する文化はコミュニティーに広がった。同氏は「Perl」と比べてコードが読みやすかったことが、2000年代前半にPythonがPerlを追い抜く一因になったと振り返る。

Pythonは単なる「AI用言語」ではない

 その後、PythonがAI分野で事実上の標準言語となった背景について、同氏は、言語単体ではなく「エコシステムにある」と表現する。数値計算の基礎となる「NumPy」、データ操作を容易にした「pandas」、大規模な機械学習を支える「PyTorch」、さらに「Hugging Face」のトランスフォーマー群など、急速に成長しているAIインフラの一部はPythonで構築されている。Pythonのエコシステムに蓄積されたライブラリとツールが新たな開発を呼び込んでいる。


AIプロジェクトにおけるコーディング環境の利用者推移(提供:GitHub

 現在は、ローカル環境で大規模言語モデル(LLM)を動かす「Ollama」のようなオープンソースツールやAIエージェントのプロジェクトもPythonを中心に発展しており、同氏は「機械学習からPythonを使い始めた開発者が、そのままAI関連の開発でもPythonを使い続けている」と指摘する。

 この背景には、Pythonはオプションの静的型付けや豊富なパッケージを取り込みながらも、初心者にとってのハードルを上げない形で進化してきたことがある。Pythonは単なる「AI用言語」ではなく、「AIを現在の姿に押し上げた存在だ」という。

「逆に、AIの方が人間に適応するだろう」

 現在、Pythonが発展を支えたというAIは、そのPythonのコードを大量に生成するようになった。GitHubは「Octoverse 2025」の結果を受けて「型情報という『ガードレール』があることで、AIが生成したコードの正しさをコンパイラや型チェックで素早く検証でき、生成AI特有のハルシネーション(幻覚)が発生する余地を狭められる」との見解を示している(参考)。

 「オプションの静的型付けよりも厳格な型付けにする必要があるのではないか」という問いに対して同氏は「AIを楽させるために慌てて大きく変え始める必要はない」と即答した。Pythonの型付けは完璧ではないものの「十分」であり、「逆に、AIの方が人間に適応するだろう」と推測している。

 同氏は、むしろ問題は言語仕様より学習データにあると指摘する。多くのチュートリアルや入門記事は静的型付けを教えておらず、型アノテーション(ヒント)が付いたPythonコードが学習データとして少ないので、LLMが十分に理解できていないという。それでも「型アノテーションを付けるように指示すると、AIはそのやり方を調べて正しく付けてくれる」と同氏は述べる。

 ヴァンロッサム氏は、あくまで開発者優先という思想の下でPythonを設計しており、AIの方が人間が読みやすい言語や開発者を取り巻く環境に適応するだろうという立場だ。

 Octoverseでは、新たにGitHubを使い始めた開発者の約80%が最初の1週間でAIコーディング支援ツール「GitHub Copilot」を利用していると報告されている。GitHubはAIがソフトウェア開発に影響を与え続ける中で、Pythonが持つ親しみやすさや読みやすさといった価値観の重要性が高まっているとした。

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