「脱・PC購入」「脱Windows」「脱・PC操作」――企業PCの“前提”が変わり始めた:DaaS、Googlebook、AIエージェントから変化を読み解く
AIの進化を背景に、企業PCを取り巻く前提が変わり始めています。事例や技術動向から、その変化と、情報システム部門に求められることを読み解きます。
企業のITインフラは、時代ごとに「自社で所有する」ことと「サービスとして利用する」ことの間で、重心を移しながら発展してきました。近年はクラウドサービスの普及によって、CPUやメモリ、ストレージといったサーバリソースをサービスとして利用することが一般的になっています。
「購入せずに利用する」ことは、PCにおいても新しい考え方ではありません。企業では以前から、リースやレンタルによる調達が一般的でした。いま起きている変化は、その先にあります。PC本体の調達だけではなく、運用管理まで含めてサービスとして利用する動きがあります。
AIの進化や普及によって、企業がPCを選ぶ基準や、PCを使った仕事の進め方も変わり始めています。本稿は企業PCを取り巻く変化と、それを踏まえて情報システム部門に求められることを見ていきます。
「PCを購入する」から「PC運用をサービスで使う」へ
日立製作所(以下、日立)は、IT機器や運用管理のサブスクリプションサービスであるDaaS(Device as a Service)を活用し、世界中のグループ各社の従業員向けPCを調達します。2028年度までに最大約17万3000台を調達する計画です。
この事例で重要なのは「PCを購入しない」ことではなく、PC運用を自前で抱え込まない体制に転換する点です。日立グループが採用したLenovoのDaaS「Lenovo TruScale DaaS」は、PCなどのハードウェア調達だけではなく、キッティングや配備、保守、問い合わせ対応まで一括して提供します。
日立グループは、専用の運用管理体制をLenovo内に整備します。通常はユーザー企業が担うDaaS運用に関する各種事務手続きや、デバイス故障に関するヘルプデスク業務などもLenovoが担います。こうした体制の下、日立グループはグローバルでPC運用を標準化します。
PC運用は企業にとって不可欠な業務ですが、それ自体は競争力に直結するとは限りません。調達や保守、問い合わせ対応、更新管理といった業務の負荷を減らせば、情報システム部門はAI活用や業務プロセス改善といった、より付加価値の高い業務に時間を振り向けやすくなります。
- 参考記事:日立が「脱・PC購入」 17万台のグループ向けPCを“サブスク”で調達へ(@IT)
「Windowsを動かす手段」から「AIを使う手段」へ
クライアントOSを「Windows」から他に切り替える“脱Windows”は、これまで何度も話題になってきました。それでも企業の間では、Windowsを全面的に置き換える動きは広がっていません。業務アプリケーションをWindows向けに開発していたり、認証やデバイス管理などをWindows中心で整備していたりすると、OSの置き換えは容易ではありません。
あらためて“脱Windows”が意味を持ち始めているとすれば、それはOSを置き換えるという意味ではない可能性があります。AIの進化によって、PCを評価する基準そのものが変わり始めているからです。どのOSを採用するかだけではなく、AIを業務にどう生かすか、そのためにPCなどのクライアントデバイスがどのような役割を果たせるかという視点が重要になりつつあります。
そうした変化の中、Googleは新しいクライアントデバイスとして「Googlebook」を発表しました。同社はGooglebookについて、先行する「Chromebook」の後継ではなく、同社のAI「Google Gemini」(以下、Gemini)を中心に据えて設計した“新しいカテゴリーのデバイス”として位置付けています。Chromebookへの投資も継続する方針を示しており、既存のChromebookを置き換えることが目的ではありません。
Chromebookがクラウドサービスの利用を中心に据える一方、Googlebookが軸とするのはAIの利用です。例えばGooglebookの中核機能「Magic Pointer」では、ユーザーがマウスポインターでメールの日付や画像といった画面内の要素を指し示すと、Geminiがその内容を理解して「会議を登録する」「画像を加工する」といった操作候補を提示します。自然言語で指示すると、Googleアプリケーションの情報をまとめて表示する専用ウィジェットも作成できます。
Microsoftも同社のAI「Microsoft Copilot」をWindowsに組み込んだり、高性能なAI処理を想定した「Copilot+ PC」を展開したりしています。クライアントOSベンダーは、OSそのものを訴求するというよりも、AIを活用する価値を前面に打ち出すようになっているのです。情報システム部門にとっても、従業員がAIを活用して成果を上げられる仕組みをどう整えるかという観点から、PCなどのクライアントデバイスを捉え直すことが求められ始めています。
「人がPCを操作する」から「仕事をAIに委任する」へ
業務におけるPC利用といえば、従来は人が「Excel」「PowerPoint」やWebブラウザなど複数のアプリケーションを切り替えながら、データを集計し、グラフを作成し、スライドに貼り付けるといった作業を順番に進めることが一般的でした。近年は生成AIが急速に普及し、さらに人の代わりに一連の業務を実行するAIエージェントも登場したことで、人とPCの関わり方そのものが変わり始めています。
Anthropicの「Claude Cowork」などのAIエージェントは、PC内のファイルやフォルダを参照し、計画を立て、複数ステップの作業を自律的に実行できます。例えば複数のフォルダに散在する領収書ファイルを読み取り、年月や内容ごとに整理した上で、その内容を基にExcelの精算申請書を作成できます。さらにCSVデータの集計やグラフ化まで含めた、一連の業務を自律的に実行可能です。
業務の代行だけではなく、自動化の仕組みそのものを作る手段としても、AIエージェントを活用できます。AIエージェントが実行した一連の処理は、必要に応じてスクリプトやマクロとして生成可能です。それらをWindows標準の「PowerShell」といったコマンド実行ツール向けのスクリプトに変換すれば、AIエージェントを介さなくても同じ処理を自動実行できます。
全ての業務をAIエージェントに任せられるわけではありません。AIエージェントが実行した結果を人が確認することは、引き続き重要です。それでもAIエージェントの登場によって、人の役割の中心は、「作業の実行者」から「AIへの指示・監督者」へと移る可能性があります。
情報システム部門にとっては、人とAIエージェントが役割分担しながら安全に業務を進められる仕組みを整備することが、これまで以上に重要になるでしょう。そのためには、AIエージェントが業務を遂行することを前提に、適切な権限管理やセキュリティ対策を講じる必要があります。
PCはなくならない ただし情報システム部門の役割は変わる
これらの変化は、PCが不要になることを意味しません。PCは今後も、従業員と業務アプリケーション、そしてAIをつなぐ重要なクライアントデバイスであり続けます。一方で企業がPCを調達・運用する方法や選定基準、使い方は、同時に変化し始めています。
安定して運用できることや、既存システムを問題なく使えることなど、企業がこれまでPCに求めてきた要件は引き続き重要です。一方でPCは、単に人が業務を実行するための手段ではなくなりつつあります。企業は、AIを業務に取り入れるためのインタフェースとしてPCを捉え直し、その価値を最大限に引き出せるように、調達方法や運用方法、利用方法を見直すことが重要になっています。
情報システム部門に求められる役割も変わります。PC運用のように差異化につながりにくい業務については、外部サービスや自動化技術を活用して効率化することも選択肢の一つです。その分、AIを安全かつ効果的に活用できる仕組みの整備に注力することが重要になります。
PCを単なる管理対象ではなく、AI活用の入り口として捉え直す――。情報システム部門がその視点でPCの在り方を見直せるかどうかが、企業のAI活用の成否にも影響することになるでしょう。
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