「だからExcel管理ではうまくいかない」――AIの成否を分けるマスターデータの在り方:社内のデータ分断がAI活用の壁に(1/2 ページ)
生成AIやAIエージェントの本格活用において問われる要素の一つが、AIの判断の根拠となるデータの信頼性だ。AIに正しいデータを与え、信頼できる状況を導くには何が必要なのか。AI時代に求められるデータ整備の在り方を聞いた。
生成AIやAIエージェントの本格活用を考えるとなれば、「AIによる生成情報や判断を本当に信頼できるのかどうか」という点が、考慮すべき事項の一つになる。その信頼を支える土台となるのが、AIが参照するデータの正確性や一貫性だ。
「Garbage In, Garbage Out(ごみを入れれば、ごみしか出てこない)」――。生成AIやAIエージェントの利用においても、元となるデータに誤りや欠落があれば、AIが誤った情報を生成したり、誤った判断を下したりするリスクが高まる。
AIにとって信頼できるデータとは何か。企業はどのような観点でAI向けのデータ整備を進めればいいのか。「マスターデータ管理だけで50年」というStibo SystemsのCEOで、同分野に詳しいエイドリアン・カー(Adrian Carr)氏に聞いた。
AIが生成する正しい情報、AIによる正しい意思決定を導く
――生成AIやAIエージェントの活用にはデータが欠かせません。企業はAI活用におけるデータの重要性をどう考えるべきですか。
カー氏 AIによって物事は大きく変わりつつある。その土台となるのがデータだが、単にデータがあるだけでは十分ではない。生成AIが正しい情報を生成し、AIエージェントが正しい意思決定ができるよう、それらをデータでどう導くのかが重要だ。
まずはデータそのものを信頼できる状態にする必要がある。ガバナンスを効かせ、データを正確に保つ必要がある。そこにデータ同士の関係性や、ビジネスロジックといった「コンテキスト」を加える。これによってAIの推論を信頼できるものにする。その先には、AIエージェント同士による意思決定がある。データの正確性を保ち、それを土台にAIの信頼性を段階的に高めることで、より高い自律性のあるAI活用が可能になる。
Excel管理では駄目? AIに必要な「共通言語」をどう構築するか
――データの正確性は、そのデータを扱う人や部門によっても異なるのではないかと考えられますが、それをAIにとって「信頼できる状態にする」とはどういうことでしょうか。
カー氏 データの信頼性や正確性において重要なのは、「誰もが同じ情報を同じ意味で理解できる」状態にすることだ。組織内で人間同士が情報を共有し合い、意思決定する際、誰もが同じように認識できる状態でなければ、正しい意思決定はできない。誤った判断につながる可能性もある。それはAIにとっても同じことだ。
企業の中での「共通言語」を構築する作業の一つとも言えるのが「マスターデータ」を整備することだ。例えば、異なる部門にいる者同士が同じ対象を指していても、部門によって名称や定義が異なっている状況はよくある。マスターデータ管理(MDM)では、「この部門でいう“製品”は、別の部門でいう“商品”と同じものだ」といった関係を整理し、定義を企業内で統一する。
誰もが同じデータを同じ意味で理解できるようにすることは、AIの信頼性を高める上でも土台となる。AIがデータを意図通りに正しく理解できなければ、結果として誤った情報の生成や行動につながるリスクがある。
MDMを導入するプロセスとは、データを“クリーンアップ”することだとも言える。「定義について合意すること」でもある。「何を販売しているのか」「どういった顧客と取引をしているのか」を定義することは、それだけを聞けば簡単にも思えるかもしれない。だが実際に企業内にあるデータを前にすれば、そう簡単なものではない。
――企業内には既にさまざまなマスターデータがあります。AI利用を前提にした場合の課題は何でしょうか。
カー氏 多くの企業では、今でも「Microsoft Excel」のような表計算ソフトウェアやスプレッドシートが使われている。これは日本企業に限った話ではなく、グローバルでも同じだ。
企業には、製品の設計・開発から廃棄までの情報を管理する「PLM」(Product Lifecycle Management)や、調達・生産・物流などサプライチェーンに関する情報を管理する「SCM」(Supply Chain Management)、製造現場の生産活動を管理する「MES」(Manufacturing Execution System)など、用途に応じたさまざまな業務システムがある。
そうした個々のシステムや部門が、業務に必要な情報をマスターとして管理している。マスターデータ自体は存在していても、それぞれが分断された状態になっていることが多い。そうなればデータを相互にやりとりすることが難しくなる。
データが個々のシステムやファイルに分断されている状態では、AIに企業内のデータを参照させようとしても、必要な情報を一貫した形で与えることはできない。特にMicrosoft Excelなどの表計算ソフトウェアを使った管理では、データやシステムが複雑になるほど一貫性や正確性を保って管理するのが難しくなりがちだ。企業の規模が大きくなるほどその傾向は強まる。
――AIが参照する“一貫性と正確性のあるデータ”をどのように構築するのでしょうか。
MDMとはシンプルに言えばデータベースだが、一般的なデータベースとの大きな違いが一つある。一般的なデータベースに格納されているデータの正確性が仮に80%だとしよう。それに対して、MDMに格納されているデータは100%正しいことが前提になる。これは技術そのものによって実現するというより、データを保護し、ガバナンスするプロセスによって実現するものだ。
AIにとって、この違いは大きい。AIモデルにデータを与えるとき、正しいデータをAIに与えることが、正しい判断を導くための土台になるからだ。
マスターデータは、アプリケーションに対していつでも正しい正確な情報を提供するデータ基盤となる。それぞれのアプリケーションで管理しているマスターデータがあるとする。その下のレイヤーに、全社で共通して利用する正確なマスターデータの基盤を置く。そこから各アプリケーションに必要な情報を供給するとともに、各アプリケーションから戻ってきた情報を取り込み、マスターデータを更新していく。
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