「だからExcel管理ではうまくいかない」――AIの成否を分けるマスターデータの在り方:社内のデータ分断がAI活用の壁に(2/2 ページ)
生成AIやAIエージェントの本格活用において問われる要素の一つが、AIの判断の根拠となるデータの信頼性だ。AIに正しいデータを与え、信頼できる状況を導くには何が必要なのか。AI時代に求められるデータ整備の在り方を聞いた。
AIが使うデータを「AIで整える」
――AIが利用するためのデータを整える重要性が高まっている一方で、そのデータの整備にAIを使うという可能性も考えられます。
カー氏 AIとMDMの関係を2つの側面から考えている。一つは「AIによってMDMをどう改善するか」。もう一つは「MDMによってAIをどう改善するか」。これは既に説明した通りだ。
「AIによってMDMをどう改善するか」の例として、ホテルの事例がある。例えばホテルを検索すると、「Booking.com」のようなサービスではアルゴリズムに基づいてユーザーにホテルを推薦する。その際、ホテルについて十分な情報がそろっていなければ、アルゴリズム上の評価が低くなり、検索結果の上位に表示されにくくなる。
この事例のホテルは、客室数や所在地、ホテルの説明文などの情報をMDMで管理しているが、そうしたデータが常に完全な状態になっているとは限らない。そこで生成AIを使って、MDMに格納されている情報を補完している。
例えば、長いホテルの説明文を簡潔にしたり、文章のトーンを調整したり、「ファミリー向け」「ビジネス向け」「プールがある」「ディズニーの近く」といった情報を付加したりする。AIを使ってデータを整備・補強し、外部の検索・推薦サービスに提供できる情報を充実させている。
AIを使った検索や回答において自社の商品やサービスを見つけてもらうために意識する必要があるのが「AEO」(Answer Engine Optimization)だ。AIにより見つけてもらえるようにするには、商品についてどれだけ完全で関連性の高い情報を提供できるかが重要になる。商品をAIに見つけてもらえるかどうかは、商品についてどれだけ完全で関連性の高い情報を提供できるかに左右される。
単に商品名だけを情報として持っておくのではなく、その商品がどのようなものなのかが理解できるコンテキストを充実させる必要がある。MDMにAIを組み込むことで、そうした“隙間”を埋めて情報を補完できる。コンテキストを補い、AIが商品やサービスについてより正確に理解できる状態にすることが重要だ。
――その他にもデータの整備にAIを活用している例はありますか。
カー氏 米国の小売企業では、仕入れの際のデータ整備にAIを活用している。商品を仕入れる際に、サプライヤーから商品と一緒にその商品に関するさまざまなデータを受け取る。従来は、受け取ったデータ項目を人間が確認し、MDM側の項目との対応関係を設定して自社のシステムに取り込む必要があった。現在はAIを使ったマッピングによって、受け取ったデータが何を意味するのかを判別し、MDMの適切な項目に割り当てる作業の大部分を自動化できるようになっている。
Tech Insight:エイドリアン・カー氏(Stibo Systems CEO)
Stibo Systemsは1976年に設立され、2026年で約50年間にわたって企業のマスターデータ管理(MDM)を中核事業としてきたデンマークに本社を置く企業だ。世界17カ所に拠点を構え、日本(東京)にも現地法人を置く。「AIによってマスターデータの重要性は高まっている」と語るカー氏。それを背景に同社の業績は過去最高を記録したという。データを信頼し、AIエージェントを信頼する段階へと進むための基盤としてMDMを位置付けている。
企業によるAI活用は「まだ初期段階にある」とカー氏はみる。最初の段階は、ファイルを探す時間を5分短縮するといった個人単位での効率化。その次に、チームの業務を20%高速化するといった、組織として効果を得られる段階がある。同氏が「大きな変化」になると位置付けるのは、その先。AIによって既存の業務を効率化するだけではなく、ビジネスプロセスそのものを変える段階だ。
AIを前提として業務の流れそのものを再設計する段階まで達している組織は、そう多くないだろう。これからAIに任せる仕事が増え、業務プロセスそのものがAIを前提としたものに変わるほど、「AIの判断を信頼できるか」という問いは重みを増す。まずは「データを信頼できる状態にする」という考え方も、AI活用を次の段階へ進める上でのヒントになる部分があるのではないだろうか。
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