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AI時代、SaaSの真価はどこにある? UIだけでは語れない「System of Record」(SoR)の意義を問う理由支出管理SaaSベンダーに聞く

AIエージェントが人間のユーザーインタフェース(UI)を介さずに業務を担うようになる中で、企業活動の記録を担うシステムとしての「SoR」の意義が再認識されている。それはなぜなのか。

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 AIエージェントが人に代わって業務を実行することが可能になる中で、本来“どこに価値があるのか”という本質的な問いがさまざまな領域で投げ掛けられている。

 人が操作するユーザーインタフェース(UI)や、個々のワークフローの相対的な重要性が低下するという見方から、「SaaS is Dead」(SaaSの死)論も語られるようになったが、ここでも問われているのは本来何に価値があり、AIエージェントの普及によってその価値がどう変わるのかという点だ。

 それを考える上での鍵の一つとなるのが、企業活動の記録を担うシステムとして位置付けられる「System of Record」(SoR)だ。業務システムの領域でAIが使われるようになる時代にこそ、SoRの意義を考えざるを得なくなる――。そう指摘するのは、支出管理のSaaSを手掛けるCoupa Software(以下、Coupa)で、製品戦略や製品開発を統括するラジブ・ラマチャンドラン(プロダクト開発担当 上級副社長 兼 CPO Invoice to Pay)氏だ。

 AI時代に浮上するSoRの意義とは何か。AIエージェントの普及は業務システムにどう影響するのか。同氏に聞いた。

AIエージェント時代に「SoR」の意義が問われる理由

――生成AIやAIエージェントの登場によって、SaaSや業務システムを取り巻く環境も変わりつつあります。AIの活用が進む中、今後どのような価値が求められるのでしょうか。

ラマチャンドラン氏 求められるのは単なるワークフローエンジンではない。重要になるのは、深いドメイン知識(特定の業務領域に関する専門知識)と、豊富に蓄積されたデータだ。

 例えばわれわれは、支出管理という領域でサプライチェーン最適化やカテゴリー戦略、ソーシング、契約、購買、請求、決済などを扱ってきた。そのドメイン(業務領域)に関する知識と、事業を運営する中で蓄えられてきたビジネスデータは、AIがあるからといって得られるものではない。これは顧客のデータを匿名化し、集約してきたことによるものだ。

 当社にとってAIとデータの戦略は、生成AIの普及を受けて2、3年前に始まったものではない。われわれは2006年の創業当初から財務に関するSoRであり続けてきた。その20年のスパンでAIとデータの戦略を築き上げてきた。

――SoRであることは、AI活用が広がる中でどのような意味を持ち始めているのでしょうか。

ラマチャンドラン氏 UIやワークフローのみでは競争優位性を生み出せない。ただしAIエージェントがUIやワークフローを介さずに処理を進められるようになったとしても、AIが判断や処理をする際に利用する企業固有の業務データまでが不要になるわけではない。

 むしろAIが業務の処理を担うようになるほど、正確な業務データを保持するSoRの役割は重要になる。われわれは財務に関するSoRとして、企業の支出に関するデータや、それを扱うユーザーの役割、権限、アクセス範囲などを管理してきた。

 AIエージェントが業務を実行するようになれば、こうしたSoRのデータを人だけでなくAIエージェントも利用するようになる。だからこそ、データだけでなく、それを誰がどこまで利用できるのかを制御する仕組みも重要だ。ドメインに知識だけではなく、権限管理の仕組みを併せてAIエージェントに生かせることが、SoRとして蓄積してきた資産の価値だ。

Tech Insight:ラジブ・ラマチャンドラン(Rajiv Ramachandran)氏 Coupa Software プロダクト開発担当 上級副社長 兼 CPO Invoice to Pay

ラジブ・ラマチャンドラン氏(Coupa Software)

自身も開発を担ってきた経験を踏まえ、IT部門や開発者にもビジネス上の価値を理解することが必要だとラマチャンドラン氏は指摘する。重要なのはAIそのものではない。AIがビジネス上の価値をどう生み出すのか、その中でデータがどのような役割を果たすのか――にある。テクノロジーとビジネスの双方を重視する考え方は、技術部門の優れたリーダーにも共通する。どうすればビジネスに価値をもたらせるのかを考えた上で、テクノロジーやプラットフォーム、AIに落とし込むことが重要だという。


人とAIエージェントはどう仕事を分担するのか

――AIエージェントが人に代わって業務を実行するようになる中で、人とAIエージェントはどのように仕事を分担していくのでしょうか。

ラマチャンドラン氏 われわれは人とAIエージェントの仕事の分担を「Assist」「Advise」「Act」の3段階に分けて考えている。

 1段階目は、人間がタスクを主導し、AIエージェントが助言するケース。2段階目は、人間がタスクを担いながら、AIエージェントがその大部分を補助するケース。3段階目は、AIエージェントが人間に代わってタスクを実行するケースだ。人間が時間をかける必要のないタスクであれば、AIエージェントに一連の処理を任せる。

 AIエージェントが人に助言するだけでなく、人の代理として業務を実行するようになれば、次に問題になるのが権限管理だ。

――AIエージェントが人の代理として業務を実行する場合、そのエージェントが「誰の権限で、どこまで操作できるのか」をどのように制御するのでしょうか。

ラマチャンドラン氏 AIエージェントには、そのユーザーが持つ役割や権限、アクセス権をそのまま引き継がせる。エージェントは、ユーザーと同じ権限の範囲内で動作する。

 例えば、ユーザーが見ることのできないデータを、そのユーザーに代わって動作するAIエージェントが見ることはできない。ユーザーがデータを作成できなければ、AIエージェントも作成できない。

 こうした制御の仕組みは、財務に関するSoRとしてCoupaの基盤に以前から構築してきたものだ。AIエージェントにも、この既存の仕組みを適用する。

――AIエージェントの活用が広がる中で、SaaSや業務システムは今後どのように進化していくのでしょうか。

ラマチャンドラン氏 重要なのは、蓄積してきたドメイン知識やデータを基にして、それぞれの業務領域をAIネイティブに再設計していくことだ。AIエージェントが人を支援するだけでなく、人に代わって業務を実行できるようにしていく。

 われわれの場合、その基盤の構成要素の一つとなるのがドメイン特化型の言語モデルだ。それに加えて、業務領域に特化したAIエージェントや、AIエージェントを作成する仕組み、人とAIエージェントを連携させるオーケストレーション機能、外部システムとの接続機能などを組み合わせている。こうしたアーキテクチャによって、企業の業務プロセス全体でAIエージェントを利用できるようにする。われわれは、これを「Agentic as a Service」と位置付けている。

 単にワークフローを提供するだけでは、データやドメインによる優位性は生まれない。重要なのは、ドメイン、データ、プロセスを持ち、それらを組み合わせて、人とAIエージェントが業務を実行できるようにすることだ。これがAIエージェント時代の業務システムに競争優位をもたらす要因になると考えている。


 AIの活用が進展することで業務システムの本質そのものが変わるということではない。企業活動に関するデータを保持し、定められたルールや権限に従って業務を遂行することは、これまでも業務システムが担ってきた役割であり、AIエージェントが人間向けのUIを介さずに処理を実行できるようになっても変わらないことだ。そうした業務システムの本質が問われる中で、SoRの価値が改めて浮上しているのだといえる。

 もっとも、変わらないのは業務システムが担う本質的な役割であって、その実現方法ではない。Coupaでも、人への助言や業務の支援にとどまらず、人の代理として処理を実行するものまで、さまざまなAIエージェントの実装が進んでいる。SoRに蓄積されたデータや権限、業務知識をAIの仕組みの中にどう組み込み、どう業務を変えて新たな価値を生み出していくのか。従来培ってきた強みをAIによってどう増幅させるのかが、ここでも問われているといえそうだ。

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