連載 企業コミュニケーションとツール活用法(2)

各種コミュニケーション・ツールの強みと弱み

リアルコム
長谷川 玲
2005/11/9

- 陥りやすい問題点

 次に、それぞれのカテゴリ別にデメリットや陥りやすい問題点を考えてみよう。

カテゴリ[A]:電子メール型の問題点

 カテゴリ[A]の主要なツールである「電子メール」で陥りやすい問題点は、相手の都合を考えずに発信できるため、予想以上にメッセージ件数が多くなることである。SPAMはかなり対策が取られており、サーバ側で排除できるようになってきているが、それを除いても社内の電子メールだけで1日100通を超えるという人もいるだろう。1つ1つのメッセージを構造化できるシステムであれば救いはあるが、現実にはあふれかえる電子メールに悩まされているユーザーが多いと予想できる。

 さらには、メッセージが相手に届いているかどうかが分からないことも弱点と考えてよいだろう。着信通知があったとしてもその内容をきちんと読んで理解・認知しているかどうかまでは分からない。発信側の「送った」が、そのまま「伝わった」にはならないのである。

カテゴリ[B]:グループウェア型の問題点

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 次に、グループウェアに代表される、カテゴリ[B]のカテゴリに属するツールが直面する主要な問題点を考えてみる。導入して最初にぶつかる壁としては、ユーザーに情報を登録させるのが困難だ、ということが挙げられる。あるいは逆に、情報を登録しっ放しで、一方通行なコミュニケーションになってしまっている、ということも起こり得る。

 ここでは、「いつアクセスしても大した情報が載っていないじゃないか」「誰も更新していないようだ」といった閲覧者側の不満と、「なぜ自分が得た情報、まとめ上げた資料を皆に公開しなければならないのか?」「意見を掲示板に載せるメリットは?」「余計なことを掲載して評価が下がるのではないか?」といった投稿者側のマイナス・モチベーションがある。あるいは毎日ちゃんと自分のスケジュールを登録しているのに、口頭で「明日、時間ある?」と聞かれているとしたら、厳密に考えればどちらかの作業が無駄であり、会社全体ではそれなりの損失になっているはずだ。このカテゴリのツールは全社的(全部門的)に活用してこそ意味があるものなので、利活用に対する評価や義務化などの運用ルールの整備が必要になる。

 グループウェアの導入後、時間の経過とともに起こる現象が情報過多だ。「情報が多過ぎて何がどこにあるか分からない」「必要なときに必要な情報にたどり着けない」といったツールの導入目的が失われてしまう現象が発生することが珍しくない。また、すでに内容が陳腐化したもの、そもそも誰も使っていないものなど、無駄な情報(もはや情報とはいえない)も増えてくる。こういった状況を打破するためには、情報の棚卸し作業が不可欠で、そのための恒常的な仕組みを整備することが求められる。あるいは開き直って、「情報の発掘」「ゴミ箱モデル」をコンセプトに、検索エンジンの整備や強化をする、といった解決策も考えられるかもしれない。

カテゴリ[C]:電話型の問題点

 カテゴリ[C]は電話やIMである。電話を使ったコミュニケーションにおける問題点は、相手が在席しているのかどうか(プレゼンス)が分からないため、不在時に発信すればその行為自体が無駄になってしまうということだ。また、ダイヤルインや留守番電話機能がないオフィスでは、「取り次ぎ」という負担を相手先に強いていることになる(これは発信者の責任ではないが)。そして何により、相手の時間を完全に拘束してしまう。あなたもミーティング中に携帯電話が鳴り、直接会っている相手をそっちのけにしてしまった(された)経験はないだろうか。IP電話では事前にプレゼンスが分かるものもあるが、時間を拘束することは変わらない。

 IMを使うとこれらの問題は解決するが、電話と違って周りに会話内容を聞かれることもないため、私的利用が発覚しにくい。単なる世間話であっても社内のリソースを使っていることには変わりはないし、厳密にいえば企業の生産性を低くすることにつながる(もちろん無駄話が意外なビジネスにつながる可能性を否定するものではない)。さらにIMについては、機密漏えいなどのセキュリティやコンプライアンス対応の面について意識している企業はまだまだ少ない。

 なおIMに限った話ではないが、現在検討が始まっている日本版SOX法にきちんと対応するには2006年上半期中には対策を取り始める必要があることも追記しておこう。

カテゴリ[D]:テレビ会議型の問題点

 カテゴリ[D]のテレビ会議やWeb会議でのデメリットは、メンバー間での日程の調整や時間枠の予約など、事前の調整が面倒であることが挙げられる。リアルタイムにやりとりはできるが、「いますぐ○○さんと話したい」というときには少々不便である。また、画像や音声など複数メディアを扱うために、追加の機器の購入、利用前にセッティングが必要になるかもしれない。

 またカテゴリ[D]のツールは[C]同様、相手の時間を自分とのコミュニケーションのためだけにほぼ拘束してしまう。「すぐに伝わる」という利点を持つリアルタイムなコミュニケーションにおいて、メリットとデメリットはトレードオフの関係にあるわけだ。

〈陥りやすい問題点〉
[カテゴリA] 電子メール、FAX
安易な送信が可能故にメッセージがあふれる
■特に電子メールでは…
重要なものを見逃してしまう
メッセージの構造化が難しい
相手が読んだかどうか不明
[カテゴリC 電話/IP電話、IM
プレゼンスが不明だと発信が無駄になる可能性がある
相手の時間を完全に拘束してしまう
■特にIMでは…
私的利用に使われやすい(管理対象外)
コンプライアンス、セキュリティ対策が未整備
[カテゴリB] グループウェア、ポータル、ブログ
情報過多、陳腐化、重複化
ツール利用者のマイナス・モチベーション
双方向性が低い
[カテゴリD] テレビ会議/Web会議、リアルな会議
物理的、時間的に相手を拘束
会議開催までの調整、セッティングが面倒

- 使い分けのポリシー制定が重要

 以上で紹介した内容をまとめると、コミュニケーション・ツールが持つ問題点は、世の中にすでに多くのツールが存在しているにもかかわらず、「情報(あるいは情報を持つ人)はどこかには存在しているのだが、最適なタイミングで必要な情報にたどり着けない」ことだといえるだろう。

 業務を効率化して便利になるはずのツール導入が、「なぜこんなことに……」といった結果にならないためにも、そのメリットとデメリットを把握し、自社内のツールの利用状況をいま一度整理していく必要があるだろう。メリットとデメリットには表裏一体ともいえる点もあり、ツールそれぞれの特性を考慮したうえでの使い方、使い分けのポリシー制定が重要になってくるのである。

 今回は社内コミュニケーションのためのツールを2つの軸で分類し、それぞれのグループごとに、ツール活用におけるメリットとデメリットについて説明した。次回からは、それぞれのグループやツールに対していくつかの具体的な活用事例について、特に「電子メール」と比較した場合の違いを挙げてさらに詳細に説明していきたい。その後、それぞれの利点や限界点を踏まえながら、第1回で示した「再考すべき点」を踏まえ、ありがちな問題点をいかに解決していくかについて、段階を追って示していく予定だ。

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2/2 第3回

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連載:企業コミュニケーションとツール活用法(2)
 各種コミュニケーション・ツールの強みと弱み
  Page 1
コミュニケーション・ツールの分類
それぞれの利点
Page 2
陥りやすい問題点
使い分けのポリシー制定が重要

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■要約
コミュニケーション・ツールの利点と弱点を検討していく。ここでは各種ツールを4つに分類する。

電子メール型の利点は、相手の時間を拘束しないこと、問題点は意外にメッセージ件数が多くなることだ。またメッセージが相手に確実に届いているかどうかが分からないという弱点もある。

グループウェア型は、多人数における情報の共有・参照・再利用・継承などを容易にするという利点があるが、ユーザーに情報を登録させるという最初の壁がある。また、情報が有効活用されない、情報過多などの課題も残る。

電話型の利点であり特徴は、リアルタイム性だ。しかし、相手の時間を完全に拘束してしまう。IMを使うとこれらの問題は解決するが、私的利用が発覚しにくい。

テレビ会議型の利点は知覚的にメッセージを伝えることができること、問題点は参加者同士の事前の調整が面倒であることが挙げられる。

メリットとデメリットはトレードオフの関係にあり、ツールそれぞれの特性を考慮したうえでの使い方、使い分けのポリシー制定が重要になってくる。

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長谷川 玲(はせがわ れい)
東京工業大学卒業後、ドイツ系・米系ソフトウェア企業にてプロダクトマネジメント、製品マーケティングなどに従事。リアルコムではKnowledgeMarket製品のコミュニケーション力強化に向けて、パートナリングやマーケティングを担当。


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