書評

TCP/IP入門に最適な最新書籍+α

アットマーク・アイティ 編集局
鈴木淳也
2002/4/23


今回紹介する4冊
マスタリング TCP/IP 入門編
ここが知りたい TCP/IP FAQ
図解標準 最新TCP/IPハンドブック
使って学ぶIPv6

 新社会人、社内での異動など、4月から新しい環境で心機一転のスタートを切ろうとしている人も多いと思う。その中には、新たにスキルを身に付けようとしてネットワークの勉強を開始したり、あるいは勉強せざるを得ない立場になり、やむを得ず勉強を開始したという人もいるはずだ。今回は、そんな方々にお勧めの最新のTCP/IP入門書3冊と、次世代インターネットを担うと期待されるIPv6の実践書の計4冊を紹介していこう。

 これらで学習した知識をベースに、ぜひ新しい環境での順調な一歩を踏み出してほしい。

TCP/IP入門書の定番が最新版に

マスタリングTCP/IP 入門編 第3版

竹下隆史/村山公保/荒井 透/苅田幸雄 共著
オーム社 2002年
ISBN4-274-06453-0
2200円(税別)

 TCP/IPの基本的な概念は、1年で状況が大きく変化するこの分野において、それこそインターネット草創期から現在まで大きく変わらずにきていた。だが、時代背景に合わせる形で、少しずつだがアップデートが繰り返された部分もある。状況に合わせて一部ルールを変更したり、時代の流れに乗れず廃れてしまった技術もある。「書評:TCP/IP再入門!」で紹介した「マスタリングTCP/IP 入門編 第2版」も、そんな技術の変化に合わせる形で「第3版」へとアップデートが行われた。

 大枠での変化はないが、いくつかアップデートされた部分があるので、ここでざっと紹介していこう。イーサネットなどのレイヤ2技術に関する部分では、トークンリングなどの現在ではあまり使用されていない技術の解説の比重は下がり、逆に無線LAN(IEEE802.11x)に関する記述が加えられた。また、IPv6に関する解説が1つの章として独立し、全体の中での解説の比重が高くなっている。IP-VPNに関する記述も登場し、TCP/IPまわりの技術を理解するうえで知っておいたほうがいい事項は、ほぼ網羅されるようになったといっていい。

 入門書の定番ともいえる「マスタリングTCP/IP」シリーズだが、つい先日は「MPLS編」も登場し、今回の入門編のアップデートと合わせ、最新トピックも問題なくカバーできるようになってきている。MPLS編は次回の書評コーナーで紹介する予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。

「キーワードのここが分からない!」という人に

ここが知りたい TCP/IP FAQ 改訂版

渡邉郁郎 著
エーアイ出版 2002年
ISBN4-87193-886-7
2300円(税別)

 TCP/IPの入門書というと、インターネットの歴史からはじまり、OSIの7階層、TCP/IP通信の仕組み……と、順序よく解説していくのが定番になっている。実際、書店などでTCP/IP入門書数冊を比べてみると、その構成が非常に似ていることがよく分かる。これらの類似書の中から自分にとって最適な本を選ぶポイントは、解説が分かりやすく、内容にムダがない、といったところだろうか。

 だがTCP/IP入門書である本書は、それらの書籍とは少々違ったアプローチをとっている。よく聞かれる質問に対して回答するという、FAQ(Frequently Asked Questions)の形式でページを構成しているのが特徴だ。「IPアドレスって何ですか?」「グローバルアドレス/プライベートアドレスとは?」「SMTPとは?」「ファイアウォールの役割は?」といった感じで、TCP/IPでよく見聞きするキーワードがほぼ網羅されている。本書を最初から読んでも勉強になるが、例えばある程度TCP/IPについて聞きかじったことのある人が、「このキーワードの意味が分からない」とちょっと調べるのにも役立つだろう。

 内容的には、既存の入門書をFAQ形式に再構成しただけではあるのだが、ずいぶん読みやすくなっているのは驚きだ。各項目の末尾に「関連キーワード」と該当するページがまとめられているほか、「pingコマンドの賢い使い方」「MTUとは?」といったちょっとした情報がコラムに収録されていたりと、いろいろ工夫があり興味をひかれる。「TCP/IP入門書はどうも……」という、既存の入門書に飽き足りなかった人にもお勧めだ。

丁寧な解説が特徴の入門書

図解標準 最新TCP/IPハンドブック

若林 宏 著
秀和システム 2002年
ISBN4-7980-0244-5
2400円(税別)

 先ほどの「TCP/IP FAQ 改訂版」は、FAQ形式の構成をとることで既存のTCP/IP入門書との差別化を図っていた。本書では、構成こそオーソドックスなものの、より丁寧な解説を心掛けることで独自の特徴を打ち出している。

 技術書としては珍しい2色刷りを採用しており、本文や図版が特に読みやすいのが特徴だ。また、非常に丁寧に編集作業が行われており、ある図版の解説が別のページとまたがって行われる……といったことが少ない。無理なく、最後まで読み進めることができるだろう。いま企業では新人研修が行われている時期だが、新人のネットワーク教育にちょうどいい書籍だと思うが、どうだろうか?

 また、本書で特筆すべきもう1つのポイントは、IPマルチキャストが詳細に解説されている点である。入門書では、マルチキャストの概念に簡単に触れて終わり、というパターンが多いのだが、本書では1章分のスペースをまるまる割いて解説を行っている。マルチキャストにおけるルーティングの詳細についても触れているので、ここだけでも十分に読む価値はある。

国内初(!?)のIPv6実践書

使って学ぶIPv6

砂原秀樹 監修 増田康人/長橋賢吾/有賀征爾 著
アスキー 2002年
ISBN4-7561-4064-5
1900円(税別)

 さて、ここまではTCP/IP入門書を紹介してきたわけだが、ここではちょっと趣向を変えて、IPv6に関する良書を紹介したい。

 2000年9月のe-Japan政策でIPv6のキーワードが登場して以来、「IPv6が日本のIT産業を救う」との期待からさまざまな取り組みが行われるようになった。IPv6スタックを標準で積んだWindows XPが発売されたり、ISPから商用の接続サービスが提供されるようになったりと、「環境は整いつつある」という印象を受ける。書店にも、IPv6に関する書籍が登場するようになった。だが、アプリケーションなどの応用例が少ないせいか、それらの書籍は入門書や基礎技術解説、あるいはIPv6がどのように社会を変えるかといったビジネス書であることがほとんどだ。本書は、このような環境下では貴重(?)な、「IPv6を使っていかにネットワーク環境を構築していくか」を解説した実践書である。

 「使って学ぶ」とあるように、設定例を元にIPv6を学習するのが本書の目的である。IPv6入門として利用できるのはもちろんのこと(ただしIPv4についてある程度以上の知識は必要)、実際に自分がネットワーク環境構築のために機器を設定するマニュアルとして活用できたりと、一石二鳥な点が既存のIPv6本とは異なる。全体は3章で構成されており、「IPv6の基礎知識」「IPv6でネットワーク環境を構築する方法」「IPSecの利用」をそれぞれ学ぶことができる。実際の構築話ではOSにFreeBSDを用い、2台のクライアントのPeer-to-Peer接続、ルータによるサブネット構築、外部との接続、DNSの設置、メール/Web環境構築を順を追って解説している。また、最後の章のIPSecの解説では、鍵交換の話などにも踏み込んでいる。

 入門を抜け出した、IPv6の次を学びたいという人に、ぜひお勧めしたい。

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