新連載:グループウェア徒然草(2)

グループウェアに効果はあったか?

関 孝則
2001/5/31


 1990年代後半のグループウェアブームともいえる時代を経て、いまや21世紀。当初グループウェアは、「導入の効果は何が期待できるか」とか、「投資対効果に見合うか」といった疑問が多く聞かれました。ただ現在では、グループウェアを本格的に取り入れた企業にとって、グループウェアがない仕事の環境は考えられないというのが大半ではないでしょうか。今回はグループウェアの効果について、あらためて考えてみたいと思います。

ペーパーレスオフィス?

 当初、グループウェアの案件に対してよく聞かれたのが、「グループウェアによって帳票や文書が電子化され、ペーパーレスオフィスの実現に一役買う」という議論です。確かに申請系のアプリケーションによって、実際に紙の帳票がかなり削減された企業もあるようです。しかし一方で、毎日定期的に「電子メールをプリント」「一日のスケジュールをプリント」「参考書類をプリント」という光景がどこでも見られるようになりました。それを裏付けるかのようにPCプリンタの需要は増え、パルプの生産量はコンピュータ関連需要によって急激な伸びを示しているようです。


Illustration by Sue Sakamoto

 グループウェアのユーザーにとっても、この傾向は実感できるのではないでしょうか。結局、グループウェア全体としては、その効果としてペーパーレスを実現することはできなかったようです。

情報共有の実現?

 もう一方で、グループウェアの効果として「情報共有を実現するだろう」という議論がありました。確かにグループウェアは電子メールに始まり、文書ライブラリーなど、いろいろな情報を電子的に、しかも組織を超えても場所が異なっても、共有する手段を提供してくれました。ただ、情報共有という言葉があまりに広い一般的な意味のせいか、実際にはもう一歩踏み込んだ、知識共有とかナレッジマネジメントという新しい概念が出てきています。ナレッジマネジメントの実現は、技術としてグループウェアなどを核としながら、これから21世紀の企業が取り組むべき大きな課題として提示されています。そういった意味では、情報共有の実現という大きな課題は道半ばといえるかもしれません。

 このように、ペーパーレスや情報共有といった、当初いわれていた大きなテーマはなかなかその明確な実現を見ることが困難なようです。そこで、効果に対して直接マクロ的なとらえ方ではなく、ミクロ的に日々のグループウェアの利用で見えてくるものから考えてみましょう。

縦のコミュニケーション

 グループウェアがなかったころに比べて変わったこと、例えば、社長や事業部長の方針が、電子メールや掲示板で頻繁に社員に伝えられるようになりました。グループウェアがなかったころは、年頭あいさつや四半期ごとの会合以外は、課長からの伝言程度だったように思えます。直属の課長も、課内ミーティングを開く代わりに、簡単な連絡は電子メールで日々頻繁に送ってくるようになりました。いままで、部長から仕事に関してコメントをもらうのは、課長を通じてか、飲み会でぐらいしかありませんでしたが、報告書アプリケーションなどを眺めているせいか、部長によっては直接メールでコメントしてくるようになりました。

 これらは裏返して考えれば、組織の上の階層が社員に向かって頻繁に直接コミュニケーションをとるようになったといえるでしょう。それを裏付けるかのように、3年くらい前の大企業の中間管理職に対するアンケートでも、電子メールなどの効果として上司と社員の意思疎通が濃密になったという答えが上位にランクされています。このように、グループウェアは1つの結果として、組織の縦のコミュニケーションを促進しているといえるでしょう。

横のコミュニケーション

 最近の調査で、毎朝の電子メールの処理に平均で1時間近くも費やされているというデータがあります。大量のメールが届くのは、もはや当たり前になってきました。それらのメールはもちろん組織の上からの連絡もありますが、やはり一番増え続けているのは、横のコミュニケーションではないでしょうか。

 営業なら製品情報をメーリングリストでもらうようになったり、一緒に営業活動をしているエンジニアからのコメント、同僚や関連するほかの営業からのちょっとした業界情報やうわさ話などと、フォーマルな情報はもとより、インフォーマルな情報も増え続けているようです。また電子掲示板は、以前は考えられなかった直接関係のない他部門の多数の掲示板を、彼らが積極的に情報を流してくれなくとも、見ることができるようになりました。また最近では、他部門の同じような職種の人との意見交換のための集まりや、組織横断的に何かの企画を行ったりするタスクの集まりなどが、メーリングリスト、電子会議、さらに文書ライブラリーなどをコミュニケーションの道具として活動している場面が、数多く見受けられます。また中には、製品設計部門が営業から直接意見を聞けるようなアプリケーションを、グループウェア上で展開しているところもあります。

 このようにグループウェアの機能をさまざまに組み合わせて、組織にとらわれない横のコミュニケーションがその土台の上にどんどん広がっているといえるでしょう。

コミュニケーションと仕事の変化

 このように、ミクロ的に見ればグループウェアによって組織の縦、そして横の関係でのコミュニケーションが確実に増えたといえるでしょう。もう一歩踏み込んで考えれば、これらのたくさんのコミュニケーションは、日々の仕事に影響を与えているはずです。ある仕事の判断をする際に、またある仕事の段取りを決める際に、これらのコミュニケーションは明示的にも暗示的にも影響があるでしょう。また、仕事の判断や段取りを再検討するために、グループウェアでの縦横のコミュニケーションを積極的に利用している場面もあるといえるでしょう。

 別な言い方をすれば、グループウェアはいままでに比べてより多くの情報のもと、よりいろいろな部門や人と直接的にも間接的にも仕事をするようにしてくれているのではないでしょうか。ネットワークがなく、グループウェアがなかったころの仕事ぶりを思い起こして比べてみるのは、その質的な変化の実感をつかむのによいかもしれません。

組織とコミュニケーション

 では、これらを総合してマクロ的にはどんな変化が起こっているのでしょう。組織の縦横のコミュニケーションの増加により、仕事をする際の判断材料が増えているということは、企業内外の環境を意識し、より細かく適応しやすくなっているのではないでしょうか。一般に、企業が市場の環境によりよく適応するためには、組織の役割や仕組みの変更を行ったりします。しかし、それらの変更というのは組織の上からの視点で、常に粗く、頻繁ではなく、後手にまわるのは避けられないかもしれません。組織の役割と仕組みだけではうまく対応できない部分をそういったコミュニケーションの増加が補い、結果として企業全体の柔軟な対応につながっていくのではないでしょうか。

 現在のダイナミックな市場の変化に対して、多くの経営学者は現在のピラミッド型の階層組織の変化の必要性を唱えています。フラット型の組織やネットワーク型の組織も代表的な選択肢のようです。ピラミッド型が発展して巨大化できたのは、組織間でコミュニケーションができる電話があったためだともいわれています。その意味で、より組織間でのコミュニケーションが密にかつ複雑になる可能性の高いフラット型やネットワーク型の組織のコミュニケーションを支えるのは、いまのグループウェアか、またはその発展形といえるかもしれません。

 いずれにしても、コミュニケーションが縦横に密になるということは、効果としてはあまり直接的に見えにくくとも、マクロ的には企業としての適応力を高めるという大きな可能性があることだけは、見逃してはいけないでしょう。

コミュニケーションインフラ

 企業が活動を行ううえで必要なインフラは、土地、建物、水道、電気など、さまざまあります。電話、FAX、コピーなどのコミュニケーションのインフラも、いまではどの企業でも絶対に必要なものとして認知され、投資対効果などはそう厳密には議論されなくとも設備されています。グループウェアも、新しい企業組織を支えるうえで、ほぼそういった必須のコミュニケーションインフラとして認知されてきたころではないでしょうか。組織を超えたコミュニケーションの増加は、ミクロ的に見える効果ではありますが、いままでのコミュニケーションインフラに加え、確実に必要な神経系として新しい企業を支えていくことでしょう


筆者プロフィール
関 孝則(せき たかのり)
新潟県出身。国産コンピュータメーカーでの経験を経て、1985年IBM藤沢研究所へ入社。大型計算機のオペレーティングシステムなどの開発、IBMの著作権訴訟、特許権訴訟の技術調査スタッフなどを担当。1994年から日本IBMシステムズ・エンジニアリングでロータスノーツの技術コンサルティングを統括。代表的な著書に、リックテレコム社『ロータスドミノR5構築ガイド』(共著)、ソフトバンク ノーツ/ドミノマガジンの連載『ノーツ/ドミノ・アーキテクチャー入門』、日本IBMホームページ上のWeb連載『SE関のノーツ/ドミノ徒然草』など。
メールアドレスはts@jp.ibm.com


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