連載:IEEE無線規格を整理する(6)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

2010年の情報家電ネットワークを予想する


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/2/9


 3. ホームシステムの構成要素

 ホームシステムは、ホームネットワークと、ホームネットワークに接続されるホーム機器から構成される。AV家電とPC機器をホームネットワークに接続し即利用するためのプラグ・アンド・プレイ機能については、IP(Internet Protocol)をベースとするUPnP(Universal Plug & Play)の標準化が進展している。

 ホームサーバと呼ばれる情報家電は、ホームネットワーク上のミドルウェアに位置付けられるUPnPを用いて、ホーム機器群を統一的に制御・管理し、ルータ機能も備えて屋外との通信のゲートウェイとしても機能し、時にDVDなどの映像録画のための大容量ファイルを備え、今後重要な役割を果たしていく。

ホームネットワーク
・ホームネットワークの発展経緯


 図2に、ホームネットワークの発展経緯を示す。

図2 ホームネットワーク標準化の変遷(クリックすると拡大表示します)

 家庭内を対象とした情報通信システム、とりわけホームネットワークに関する研究開発は、1970年末ごろから進められている。特に、当時より白物家電製品での保有シェアで世界的に優位な位置にあった日本は、国際標準の場でも主導的立場にあった。しかし、技術が未成熟なうえに、各国のアクセス網(電話回線、電力網、電灯線など)や家電・制御機器の仕様、普及状況の相違、さらに行政策の相違、日本からの提案に対する欧米諸国からの強い反発や標準化への妨害などにより、日本からの提案は却下された。その後の有線のIEEE 1394という初めての国際標準を見るまで、ホームネットワークはその研究開発開始から15年余りを要した。

 有線のIEEE 1394は、1990年代の半ばから2001年ごろにかけて、動画、音のマルチメディア情報の高速転送能力を武器に本命視され、日米を中心とした多くのベンダによって開発が進められた。しかし、IEEE 1394は、価格が高い、家庭内では有線による煩雑な配線が好まれない、データ通信に関してインターネットとの親和性が不十分、2000年末、2002年、2003年末にそれぞれ始まったBS(Broadcast Satellite)デジタル放送、CS(Communication Satellite)デジタル放送、地上デジタル放送も期待されたほど利用者数が伸びず家庭内でのAV転送に対する要請が高まっていない、などの理由から、普及に至っていない。

 また、Bluetoothは、2001年ごろはIEEE 1394の支線ネットワークとして考えられたこともあったが、仕様の統一化の遅れ、チップが高価、2005年までOSに搭載されることがなかったなどの理由で、家庭内での利用は少ない。

・ホームネットワークとしての無線通信網

 2003年以降、IEEE 1394に取って代わりIEEE 802.11b/a/gなどの無線LANが家庭内に急速に普及している。今後、無線のブロードバンド化、ユビキタス化に伴い、ホームネットワークはバックボーン(幹線)も支線も無線が主流になる。

 ホームシステムにおけるIPベースのバックボーンとしては、無線LANがその役割を果たす。屋内では、マイクロサーバと呼ばれるゲートウェイノードを介して、無線LANの支線となる無線PAN(Personal Area Network)、センサネットワーク、センサ群(多数のセンサを装着した家庭用のロボットなど)と連携し、屋外の携帯端末やサービスサーバなどとはホームサーバやホームゲートウェイを介して相互に通信されるようになる。

 今後、センサ群の活用が増大するユビキタス情報社会を想定すると、ホームネットワークは表3のような推移が予想される。

  2006〜2007年 2008〜2009年 2010年〜
バックボーン(幹線)
ネットワーク
・無線LAN
(IEEE 802.11b/a/g、
最大11〜54Mbps)
・無線LAN
(IEEE 802.11a/g、
最大54Mbps)
・無線LAN(IEEE 802.11n)
・UWBの直列接続
いずれも最大100Mbps 以上
支線
ネットワーク

・ZigBee
(センサネットワーク、
最大250kbps)
・ZigBee
(センサネットワーク、最大250kbps)
・UWB
(ワイヤレスUSBとしてPC機器群を接続、最大480Mbps)
ネットワーク間連携
バックボーンネットワークと支線ネットワークは独立(一部連携) ・バックボーンネットワークと支線ネットワークがマイクロサーバを介して連携 屋外のサービスサーバで認証、決済、課金などを行うシステム構成も考えられる
表3 ホームネットワークの推移予測

 UWB(Ultra WideBand)は、高速ワイヤレスUSB(Universal Serial Bus)としてPC機器を接続するネットワーク、あるいは複数UWBのブリッジ接続によるバックボーンネットワークとしての利用が考えられる。いずれにしても、2008年ごろは、通信放送融合の進展によってインターネットを通した放送コンテンツの配信も始まり、高品質映像を家庭内でも数本同時に通信するような使い方も考えられる。このような環境では、バックボーンとしては、100Mbps以上の通信速度が要求されるようになり、次世代のIEEE 802.11n無線LANやUWBブリッジ接続の利用が予想される。

図3 2006〜2007年のホームネットワーク構成とその変遷予測(1)

 ZigBeeは、当初ホームコントロール用の簡易ネットワークとして議論が開始されたが、2003年末以降、最大通信速度250kbps、 最大伝送距離30m以上、 1つのネットワークに最大6万5000台以上接続が可能、アルカリ単3乾電池2本で2年駆動などの特徴からセンサネットワークとして、標準化が急速に進展している。

図4 2008〜2009年のホームネットワーク構成とその変遷予測(2)(クリックすると拡大表示します)

 2003年にIEEE 802.15.4 において物理層とMAC層、2004年にZigBee Allianceによってネットワーク層以上のプロトコルが標準化され、2006年に製品化される。図3図4図5に、表3の予測に基づく、それぞれ2006〜2007年(図3)、2008〜2009年(図4)、2010年(図5)ごろを想定したホームネットワーク構成を示す。

図5 2010年のホームネットワーク構成とその変遷予測(3)(クリックすると拡大表示します)

 2010年には、ホームネットワークのバックボーンが無線LANとUWBの直列接続になり、マイクロサーバがロボット制御などを行うセンサネットワークにZigBee)と接続するという予測である。次回はDigital Living network Allianceの標準化動向をお伝えする。

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目次:IEEEを整理する(6)
  1. ホームシステムと情報家電
  2. ホームアプリケーション
3. ホームシステムの構成要素



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