【トレンド解説】コア・ルーティングに採用するそれぞれのテクノロジ
次世代ルータ開発に向けて進む業界再編(後編)
鈴木淳也(Junya Suzuki)
2004/7/16
■生き残りの道を模索するカスピアン
これら最大手2社の動きに翻弄されるのが新興企業のカスピアンだ。同社のライバルであったプロケットのシスコによる買収が決まり、コア・ルータ業界の厳しい現実を突き付けられる中、当初の戦略の変更を余儀なくされている。プロケットの敗因は、技術力がありながらも顧客に恵まれなかったことにある。もしカスピアンが従来の「ハイエンド・ルータ市場でシスコやジュニパーと正面から勝負する」路線を堅持したのなら、恐らくプロケットの二の舞になるだろうことは容易に想像がつく。大手2社に比べて体力の少ないカスピアンでは、危険なかけよりも、確実に需要が見込まれ、収益を上げられる分野を選択する必要があるのだ。
写真 カスピアン・ネットワークス 日本支社長 大丸一夫氏 |
同社が最終的に選択したのは、帯域制御を得意とするフローベース・ルーティングを生かしたサービス・ルータ提供の道である。カスピアン・ネットワークスの日本支社長である大丸一夫氏は、カスピアンの特色を生かすにはどうしたらいいのかを考えた結果だと説明する。「カスピアンのルータは純粋なMPLSルータとは異なるため、シスコやジュニパーらが繰り広げている戦争に直接参加するのは得策ではないといえる。しかも、性質的に純粋に転送速度を向上させる方向に向かわせるのも難しい。そこでカスピアンの強みが何かを考えると、やはりVoIPなどをターゲットとした帯域制御だった。帯域制御を得意とするフローベース・ルーティングの優位性を前面に押し出し、VoIPサービスを検討している中小ISPなどへの売り込みを考えている」(大丸氏)。
前回も指摘したが、カスピアンのフローベース・ルーティングのアイデアは、コア・ルータというよりも、むしろエッジ・ルータとしての性格が非常に強い。パケットの流れる状況を動的に判断して、例えばネットワークが込んできたことを検出すると、VoIP通信保護のために自動的にそれ以外のパケットに転送制限を掛ける。また逆に、PtoPなど帯域を大幅に占有する通信を検出した場合は、自動的に帯域制限を掛けることも可能である。あくまでパケット転送速度が優先されるコア・ルータに対し、決められた帯域を最大限に活用してサービス・レベルを維持するのがフローベース・ルーティングの考えだ。ユーザーへのきめ細かいサービス提供が求められつつある通信キャリアのニーズにマッチした戦略だといえるだろう。
大丸氏によれば、現在、ある大手通信キャリアの子会社が、カスピアンの製品を用いてビデオ会議の商用サービスを提供しているという。それ以外の動きとして、VoIPのカスピアンのルータでの処理能力をアップさせるため、SIPサーバを開発しているメーカーに製品連携の呼び掛けを行っている。もしこの呼び掛けが成功すれば、同社にとってはキャリアへの売り込みのための大きな後ろ盾となる。
前編と後編という形で2回にわたってルータ業界の最新事情を解説してきたわけだが、だいたい流れがお分かりいただけただろうか。以前まで、ネットワーク業界の最新トレンドはベンチャーが作り上げ、シスコなどの既存企業を引っ張っていくのが通例だったが、開発費用の高騰とともに、それも難しくなっている。いまでは、体力のある大手企業でない限り、この分野に参入することは事実上不可能な状態だ。唯一の懸念は、プレイヤーが減ることで以前より技術革新のスピードが落ち、機器の価格が上がることだろう。
バックボーン構築も、新たな局面に向かっている。シスコはCRS-1を発表する以前より、40GbpsのOC-768を使った広域ネットワーク実験を、米カリフォルニア州オークランド〜サンノゼ周辺のベイエリアで実施している。その1つ下の規格に当たる10GbpsのOC-192でさえまだ広くは利用されていない状況だが、今後のブロードバンド化を考えれば、一気に普及していくことも十分に考えられる。産学協同で進められているInternet2のようなプロジェクトもあり、高速なコア・ルータに対する需要はまだまだ増え続けていくだろう。
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