【トレンド解説】コア・ルーティングに採用するそれぞれのテクノロジ
次世代ルータ開発に向けて進む業界再編(後編)
鈴木淳也(Junya Suzuki)
2004/7/16
■コア・ルーティングとMPLS
ここ数年のネットワーク業界での大きなテーマの1つに、通信キャリアのバックボーンをIPベースのものにするのか、あるいはMPLS(Multi Protocol Label Switching)を利用するのかという技術論争がある。これは一種の宗教戦争に近いものがあり、どちらが優れているというよりも、どちらを戦略として担ぎ上げるのかという、ベンダ間での意見の相違に集約されるだろう。だが、流れとしてはMPLSを採用する方向に向かっているようだ。
MPLSを採用するメリットは、大きく分けて3つある。1つは、MPLSのもともとの開発理由でもあるパケットの高速な転送である。複雑なIPルーティングの代わりにバックボーンでMPLSによるシンプルな処理を行うことで、パケットの高速転送を実現しようとしたのだ。しかし、処理が複雑でハードウェア化が難しいといわれていたIPルーティングだが、各メーカーの努力もありASIC化などが進み、いまでは速度上の理由からMPLSを選択する積極的な理由はなくなっている。
2つ目が、パケットに優先順位を付けて転送するトラフィック制御だ。VoIPの利用が進む中、いまMPLSが最も注目を集める理由の1つがここにある。通信キャリアには高いサービス・レベル実現が求められており、この機能がサービス実現に必要とされるのだ。
最後の3つ目が、ネットワークの統合とレイヤ2サービスの提供である。通常であれば、バックボーン構築のために統一されたネットワーク体系が必要となるが、MPLSが中間層として介在することで、下位に当たるデータリンク層での転送媒体(SONET/SDH、イーサネット、ATM、フレーム・リレーなど)や、上位に当たるネットワーク層の転送プロトコル(主にIPv4、IPv6)などを混在させても、1つのネットワークとして機能させることが可能になる。特に、レガシーと呼ばれるATMやフレーム・リレーなどの既存インフラを最大限に活用するために、ネットワーク統合技術としてのMPLSが好まれる傾向がある。またMPLSを使うことで、TCP/IPパケットではなく、データリンク層のフレームを転送する試みも行われている。これは、主に広域イーサネットなどでのイーサネット・フレーム転送をターゲットにしている。
MPLSを推進するメーカーの理論は、「今後キャリアに要求されるサービスを実現するのにMPLSが必要になる」というものだ。ジュニパーなどを中心とするメーカーでは、MPLSを標準機能としてコア・ルータに組み込んでおり、それをセールス・ポイントとして通信キャリアに売り込みをかけている。MPLSの開発者でもあるシスコも、発表されたばかりの次世代コア・ルータのCRS-1で、ネットワークOSに新たに開発された「IOS XR」でMPLSのサポートを始めている。
また、シスコは新たに7月8日に英国のネットワーク・ソフトウェア企業であるParc Technologiesの買収を発表している(参照リリース)。Parcはロンドン大学でトラフィック・エンジニアリング(TE)を研究していたグループがスピン・アウトしてできた企業で、TEのアイデアをベースにMPLS管理ソフトウェアなどを開発している。シスコはParcの資産を買収することで、MPLS機能をさらに強化するつもりだろう。
編集部註: 上記のIOS XRのMPLSサポートの記述について誤りがありましたので、該当箇所をお詫びして訂正します。(2004/7/20) |
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