動向解説 IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス
3.不透明なシリアルATAへの移行スケジュールデジタルアドバンテージ 島田広道 |
Maxtorは、Big Driveに続いて従来のIDEを高速化する「Fast Drive(Ultra ATA/133)」も提唱している。すでに仕様が明らかになっているシリアルATAも含めたIDEインターフェイスの高速化に焦点を当ててみよう。
シリアルATAへの移行は遅れる?
現在主流のUltra ATA/100を代表とするこれまでのIDEは、パラレルATAに分類される。これは16bit幅のデータを並列(パラレル)に伝送するからだ。このパラレルATAの後継として開発されているのがシリアルATAである(パラレルATAという用語自体、シリアルATAとの対比で使われるようになったものだ)。シリアルATAの詳細は「技術解説:次世代の標準ディスク・インターフェイス『シリアルATA』のすべて」を参照していただきたい。簡単にいえば、
- 転送レートは150Mbytes/sから始まり、将来的には600Mbytes/sまで向上可能
- 信号線の本数を減らしてケーブルを細くし、容易な取り回しを実現
- 特別なアダプタなしで信号/電源ケーブルのホットプラグを実現
- ソフトウェアは従来のパラレルATAと互換性を維持
といった特徴を持つ。
シリアルATAの開発には、ハードディスク・ベンダをはじめとするIDE関連製品ベンダが多数参加しており、またPCのハードウェア仕様の策定で大きな影響力を持つIntelが積極的に推進している。そのため、いずれはパラレルATAからシリアルATAへ移行する、というのが現時点での既定路線といえる。
しかし、その移行時期は明確ではない。シリアルATA対応のケーブルやコネクタ、ホスト・コントローラは2001年内から出荷が始まり、2002年には最終製品が出荷される模様だ(詳細は「ニュース解説:IDF Fall 2001レポート」の「2. 2001年末の製品が見えてこないIDF」を参照)。一方、シリアルATAの普及には、従来と同様、PCのチップセットにホスト・コントローラ機能が内蔵されなければならない。さもないと、シリアルATAインターフェイス・チップの追加などでコストが上昇し、従来のパラレルATAと同等のコストが実現できないため、PCベンダが積極的にサポートしないからだ。
開発中のシリアルATA対応ハードディスク | ||||||
これはIDF Fall 2001で展示されていたもの。製品レベルに近いコネクタが搭載されている。以前は回路基板がハードディスクから大きく飛び出しているような試作品しか展示されていなかった。ちなみに、このハードディスクはSeagate Technology製。 | ||||||
|
そこで重要になるのは、チップセット最大手のIntelによるシリアルATAホスト・コントローラ内蔵のチップセットの開発スケジュールだが、これはIDF Fall 2001でも明らかにされなかった。当初は、2002年後半に発表されるチップセットでサポートを行うとみられていたが、2001年7月〜8月にかけて、「Intel製シリアルATA対応チップセットのリリースが2003年以降になる」という報道が海外のニュースサイトで相次いだ。もしこれが事実なら、ほかのチップセット・ベンダの動向にもよるが、2002年は外付けのシリアルATAインターフェイス・チップによるサポートが中心となるだろう。そのため、おそらく2002年中にシリアルATA対応PCが広く普及することは難しく、シリアルATA対応ハードディスクの普及も2003年以降に持ち越されることになるだろう。
Ultra ATA/100は2002年前半に限界を迎える
シリアルATAのスケジュール遅延で生じる問題の1つは、IDEインターフェイスの性能向上が一時的に滞ることだ。そもそもシリアルATAが策定されたのは、これまで改良を重ねてきたパラレルATAではもはや転送レートの向上が難しくなり、その代わりとなるインターフェイスが求められたからである。転送レートを高めるのは、もちろん年々高まるハードディスクの性能に追従するためだ。
下図は、ここ数年でIDEハードディスクの転送レートがどのように向上してきたかを表している。また、Ultra ATAの各仕様の最大転送レートは赤い横の点線で、性能限界に達した(あるいは達する)と思われる時期は赤い縦の点線で示している。
IDEハードディスクの転送レートの向上 |
▲は、高速タイプのIDEハードディスクにおけるプラッタからの連続転送速度を記したものだ。ハードディスクの持つ実質的なデータ転送の能力を表している。また、赤い点線のうち、横線はUltra ATAの各仕様の理論的な最大転送レートである。縦線は各Ultra ATAの実効の転送レートが最大値の6割と仮定して、ハードディスク自身の速度がそれに達した(達する)時期を記している。矢印は、今後のIDEハードディスクの性能向上を予測したものだ。現在のペースで転送レートが向上したとすると、Ultra ATA/100は2002年前半には限界に達してしまうことが分かる。 |
IDEインターフェイスの効率はそれほど高いものではなく、連続でデータを転送する場合、最大値に対しておおよそ5割〜7割程度が実効値の上限といわれている。ここでは6割と想定して各Ultra ATAの実効転送レートを計算してみた(Maxtorのホワイト・ペーパーでは、この割合を62%としている)。さて、将来の予測については変動要因が多いので大雑把なことしかいえないが、それでもUltra ATA/100は2002年前半のうちに限界に達してしまいそうだ。つまり、この時期になるとUltra ATA/100がボトルネックになり、最新のハードディスクは本来の性能を発揮できなくなってしまうことを意味する。
この時点でシリアルATAに引き継げれば、最大転送レートはUltra ATA/100の1.5倍である150Mbytes/sまで高まるので、2003年*1いっぱいまで持ちこたえられそうだ。しかし、前述のとおりシリアルATAの本格的な普及は2003年からと推測される。このままでは、IDEインターフェイスのスケジュール上で2002年は空白になりかねない。
*1 これは、シリアルATAにおける実効の転送レートがパラレルATA同様、最大転送レートの6割であると仮定した場合だ。シリアルATAでは物理層が入れ替わっており、効率がよくなっている可能性があるので、2003年以降も持ちこたえられるかもしれない。 |
関連記事(PC Insider内) | |
次世代の標準ディスク・インターフェイス『シリアルATA』のすべて | |
IDF Fall 2001レポート 2.2001年末の製品が見えてこないIDF |
INDEX | ||
[動向解説]IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス | ||
1.容量の壁を打ち破る「Big Drive」 | ||
2.Over 137Gbytesディスクを正しく使うには | ||
3.不透明なシリアルATAへの移行スケジュール | ||
4.Fast Drive(Ultra ATA/133)の存在理由 | ||
「PC Insiderの動向解説」 |
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう - 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は? - IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか? - スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
|
|