元麻布春男の視点Pentium 4がPentium IIIよりも遅い? |
PCを購入する際に重視されるポイントは、時代によって、あるいは人によっても異なる。特に最近は、価格やデザインで決める人が増えていると言われているが、PCもコンピュータである以上、性能という要素が完全に無視されることもないハズだ(こういう言い方をすること自体、隔世の感があるのだが)。PCの性能を判断する際に用いられるのが、ベンチマーク・テストと呼ばれるソフトウェアである。さまざまなベンチマーク・テスト・ソフトウェアが配布、あるいは市販されているのは、みなさんもご存じのとおりである。
そのベンチマーク・テスト・ソフトウェアだが、ここにきて更新、あるいは新しいものがリリースされることが目立ってきている。3DMark 2001、GLmarkといった3Dグラフィックス性能を計測するベンチマーク・テストがすでにリリースされているのに加え、プロセッサ・ベンダの日本AMDが、3Dグラフィックス性能を計測するベンチマーク・テストである「N-Bench」をリリースした(MadOnionの「3DMark 2001の情報ページ」、Vulpineの「GLmarkの情報ページ」)。BAPCoも、SYSmarkの最新版である「SYSmark 2001」をリリースしたばかりだ(BAPCoの「SYSmark 2001発表のニュースリリース」)。ベンチマーク・テストとは少々性格が異なるが、Intelは2001年2月に開かれたIDF Spring 2001で、「AGP Stress Agent」と呼ばれるソフトウェアを公表している。今回は、この2つのソフトウェアについて話をしよう。
新しいハードウェアが新しいベンチマークを生む
このような、ちょっとしたベンチマーク・テスト・ラッシュになっている理由は、新しいハードウェアのリリースと無関係ではない。まだ製品としては販売されていないものの、すでにNVIDIAは次世代のグラフィックス・チップである「GeForce 3」を発表している(NVIDIAの「GeForce 3に関するニュースリリース」)。DirectX 8にフル対応した初めてのグラフィックス・チップであるGeForce 3の性能を測るのに、DirectX 7に対応した既存のベンチマーク・テストやアプリケーション(ゲーム)だけでは、都合が悪い。新しいDirectX 8に対応したベンチマーク・テスト、あるいはそれに相当するOpenGLエクステンションに対応したベンチマーク・テストが必要になる。これはGeForce 3を評価する側のニーズであると同時に、GeForce 3を売る側のニーズでもあり、そこにビジネス・チャンスがあるということがいえるだろう。
同じことがプロセッサにも当てはまる。IntelはPentium 4市場の立ち上げを加速するため、この春から全世界で3億ドルをかけた大がかりなマーケティング・キャンペーンを展開している。米国のパフォーマンス・グループ「Blue Man Group」によるPentium 4のテレビ・コマーシャルを見た人も少なくないハズだ(Blue Man Groupのホームページ)。このタイミングで、ベンチマーク・テスト・プログラムの新版がリリースされたことは、決してこのマーケティング・キャンペーンと無縁ではないと思う。ご存じのとおり、IntelはBAPCoのメンバーである。また、AMDが独自のベンチマーク・プログラムを提供する理由の1つに、Intelのキャンペーンに対抗しようという思惑があったとしても驚くことではない。
ここでは、上述した新しいベンチマーク・テストのうち、まだあまり紹介されていない日本AMDの「N-Bench」と、Intelがリリースした「AGP Stress Agent」について紹介する(SYSmark 2001についても、機会があれば取り上げたい)。
N-Benchを試した6種類のプラットフォーム
すでに述べたとおり、N-Benchは日本AMDが独自にリリースしたベンチマーク・テスト・プログラムだ。N-Benchの「N」はNinja(忍者)のNらしく、ベンチマークに用いられるシーンの中には忍者が登場するものが含まれている。近い将来、日本AMDのBoxed版プロセッサ(化粧箱に入れた状態でAMDが一般ユーザー向けに販売するプロセッサ)にバンドルすることが予定されているほか、雑誌の付録CD-ROMなどにも収録される予定だ。
N-Benchの実行画面(拡大写真:26Kbytes) |
N-Benchの名称の由来(?)になった忍者のシーン。このような3Dグラフィックスの描画によって、システムの性能を計測する。 |
推奨されている動作環境は、動作クロックが700MHz以上のプロセッサとなっており、AMD製のプロセッサでしか動かないプログラムではない。Intel製のPentium IIIやCeleronで動かないのでは、比較の役目を成さないから当然のことだ。ソフトウェア的には、サポートされているOSは、Windows 98あるいはWindows Meで、DirectX 7.0以上のランタイムが必要になる。つまり、基本的にはDirectX 7.0ベースのプログラムであり、すでにDirectX 8.0に対応したNVIDIAのデモやMadOnionの3DMark 2001と比べて、トップクラスのグラフィックス機能を使ったものとはいえないが、AMDの初めての試みとして歓迎したいと思う。
このN-Benchを、発表されたばかりのPentium 4-1.7GHzを含む6種類のプラットフォームで実行してみた(下表参照)。より正確には、6種類のプラットフォームで実行しようと試みたのだが、残念ながらAMDのDDR SDRAMプラットフォーム(表中、マザーボードが「GA-7DXC」のプラットフォーム)では、満足にベンチマーク・テストを行うことができなかった。3DMark 2000のインストール中にブルー・スクリーンを表示して落ちる、システム起動時にWindows保護エラーになるなど散々で、きわめて不安定であった。とりあえずDirectX 8.0aベースで1回だけ実行できたときの結果を表に入れてあるが、あくまでも参考値と考えてほしい。そもそもN-Benchは、DDR SDRAMをベースにしたAthlonシステムの優秀性をアピールするために開発されたハズなのだが、筆者の環境ではベンチマーク・テストを実行する以前の問題で、真価を発揮できないという皮肉な結果となってしまった(つまりN-Benchが不安定なわけではない)。
マザーボード | D850GB | D850GB | VC820 | VC820 | GA-7ZX | GA-7DXC |
チップセット | Intel 850 | Intel 850 | Intel 820 | Intel 820 | VIA Apollo KT133 | AMD-761/VT82C686B |
プロセッサ | Pentium 4-1.7GHz | Pentium 4-1.4GHz | Pentium III-1B GHz | Pentium III-1B GHz | Athlon-850MHz | Athlon-850MHz |
メモリ(128Mbytes×2) | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC700 RDRAM | PC133 SDRAM(CL3) |
PC1600 DDR SDRAM |
グラフィックス | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS |
テストを行ったプラットフォーム一覧 |
N-BenchでもAMDの弱点が見えた
話が少し脱線するが、ここで用いたマザーボードはすべて、筆者が実際に購入した「商品」であり、借用したエンジニアリング・サンプルなどでは決してない。このことは、AMDのDDR SDRAMプラットフォームのテストに用いたGigabyteの「GA-7DXC」も例外ではない(Gigabyteの「GA-7DXCの製品情報ページ」)。確かに、購入したGA-7DXCは、おそらく第1ロットの製品だと思われるし、サポートするFSBについていろいろトラブルがあったことも知っている。しかし、商品として販売した以上、それが言い訳になるハズがない。ハッキリいって、Intelなら絶対にリリースしない品質のものと思われるほどだ。Intelがリコールしたマザーボード「CC820」の方がまだ安定していた、というのが筆者の感想である。
実は、これがAMDの最大の弱点だとつねづね考えているのだ。このことは、「元麻布春男の視点:AMDの弱点は克服されるのか?」にも記した。今回用いたシステムのうち、Athlonの動作クロックが850MHzと低いのは、このプラットフォームの状況では、1GHz以上のプロセッサに投資しようという意欲が湧かないからにほかならない。VIA TechnologiesのApollo KT133を採用したマザーボード「GA-7ZX」は、とりあえず順調に動作しているが、それでもサウスブリッジ・チップ「VT82C686B」とSoundBlaster Live!との間で互換性問題が生じている。この問題が解消していないといった話題を海外のWebサイトで見るにつけ、もっと高速なAthlonがほしいという意欲はますます失せてしまう。
いまだに大手PCベンダからDDR SDRAMをサポートしたAthlonシステムがほとんど登場してこないのは、理由がないわけではないと思う。こうした状況から、筆者は大手PCベンダからDDR SDRAMをサポートしたAthlonシステムが登場するまで「待ち」を決め込んでいる。逆に、IntelのDirect RDRAMを採用したマザーボード「VC820」で、Athlonが動作するものならば、1.33GHzのものだって買って構わないとさえ思っているほどだ。Athlon/Duron対応のチップセットやBIOS、さらにはサードパーティ製マザーボードの品質向上という点からも、AMD自らがマザーボードを手がける必要がある、というのが筆者の考えである(必要ならサードパーティ製チップセットを用いたAMD製マザーボードさえ「あり」だと思う)。
N-Benchの結果は興味深い
さて、話をN-Benchに戻すが、結果はなかなか興味深い(?)ものだ。センセーショナルにいうと、「850MHzのAthlonの性能は1.4GHzのPentium 4を上回る!」ということになるのだが、ちょっと待ってほしい。同じことがPentium III-1B GHzとPentium 4-1.4GHzにも当てはまる。確かにPentium 4はオフィス・アプリケーションのベンチマーク・テストなどで、Pentium IIIに対して大幅な性能向上が見られないと批判されることが多い。が、Pentium 4-1.4GHzがPentium III-1GHzに性能で明らかに凌駕される、しかも3Dグラフィックス性能で見劣りするというのは、ハッキリ言って考えにくいことだ(その根拠の1つは、SPEC CPUベンチマーク・テストの結果である)。
N-Benchのテスト結果の表示画面(拡大写真:10Kbytes) |
10種類のテストを行った結果は、グラフで示されるほか、テキストファイルとして保存させることが可能。リファレンスのグラフィックス・カードがカノープス製のSPECTRA F11であるところが日本製を感じさせる。 |
比較のために、同じDirectX 7ベースのベンチマーク・テスト・プログラムである3DMark 2000の結果も表にまとめておいたが、こちらは全然違う結果であり、どちらかというと見慣れた結果となった。Athlonの性能が一番下なのは、クロックが850MHzと低いからで、もし1GHzのAthlonであれば、3DMark 2000でもPentium IIIを確実に上回ったであろう。同じことは、最新の3DMark 2001にも該当する。
マザーボード | D850GB | D850GB | VC820 | VC820 | GA-7ZX | GA-7DXC |
プロセッサ | Pentium 4-1.7GHz |
Pentium 4-1.4GHz |
Pentium III-1B GHz |
Pentium III-1B GHz |
Athlon- 850MHz |
Athlon- 850MHz |
メイン・メモリ | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC700 RDRAM | PC133 SDRAM(CL3) | PC1600 DDR SDRAM |
N-Bench (DirectX 8.0a) | 4387 Marks | 3615 Marks | 3785 Marks | 3750 Marks | 3929 Marks | 4039 Marks |
N-Bench (DirectX 7.0a) | 3194 Marks | 2567 Marks | 3609 Marks | 3575 Marks | 3184 Marks | N/A |
3DMark 2000 (DirectX 8.0a) | 7870 3Dmarks | 7526 3Dmarks | 7077 3Dmarks | 7002 3Dmarks | 6750 3Dmarks | N/A |
3DMark 2000 (DirectX 7.0a) | 7845 3Dmarks | 7519 3Dmarks | 7094 3Dmarks | 7014 3Dmarks | 6569 3Dmarks | N/A |
3DMark 2001(DirectX 8.0a) | 3179 3Dmarks | 3014 3Dmarks | 2835 3Dmarks | 2760 3Dmarks | 2678 3Dmarks | N/A |
N-Benchと3DMarkのテスト結果(数字が大きな方が高速) |
以上のテスト結果を見て分かることは、ほかにもある。まずいえることは、N-Benchのテスト結果は、DirectX 8.0aのランタイムを組み込むことで、AthlonとPentium 4の両方で著しい性能向上が見られる、ということだ。これはN-Benchが基本的にDirectX 7のアプリケーションであることと矛盾するように思われるかもしれない。実行にDirectX 8.0aのランタイムを必要としないことから、DirectX 7対応なのは間違いない。にもかかわらずDirectX 8.0aランタイムで性能が向上するのは、DirectX 8.0aランタイムがSSE2やEnhanced 3DNow!へ最適化されていることの効果が、N-Benchに強く現れているのではないかと推測される。3DMark 2000でもDirectX 8.0aランタイムを組み込むことで、Pentium 4とAthlonには若干の性能向上が見られる(逆に、Pentium IIIでは若干の性能低下が見られる)が、その差はきわめて小さい。
さて、こう書いてくると、それではN-BenchはAthlonに有利な結果を出すために、故意に偏った内容のベンチマークになっているのか、ということが問題になってくる。DirectX 8.0aランタイムによる性能向上の幅が大きいことを考えれば、用いるプログラム・コードに、何らかの偏りがあってもおかしくないだろうし、AMDがリリースする以上、少なくともIntelに有利なベンチマークを出すハズがないことも明らかだ。
Pentium 4はPentium IIIより遅いのか?
しかし、だからといってN-Benchを偏向したベンチマークと決め付けるのは気が早すぎるかもしれない。実は、ほかにも同様な傾向を示すベンチマーク・テスト・プログラムが存在するのである。ドイツのVulpineがリリースしたGLmarkは、その名前から推測されるように、OpenGLベースのテスト・プログラムなのだが、その実行結果ではN-Bench以上にPentium 4が劣勢となっている(Vulpineのホームページ)。Pentium 4-1.7GHzですら、Pentium III-1GHzに太刀打ちできないのである。
マザーボード | D850GB | D850GB | VC820 | VC820 | GA-7ZX | GA-7DXC |
プロセッサ | Pentium 4-1.7GHz | Pentium 4-1.4GHz | Pentium III-1B GHz | Pentium III-1B GHz | Athlon- 850MHz |
Athlon- 850MHz |
メイン・メモリ | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC700 RDRAM | PC133 SDRAM(CL3) |
PC1600 DDR SDRAM |
Vulpine GLmark 1.1P | 31.4fps | 31.0fps | 37.7fps | 37.5fps | 37.0fps | N/A |
Vulpineのテスト結果(フル・スクリーン:1024×768ドット時) | ||||||
結果は1秒あたりの表示フレーム数(fpsはframes/s)であり、数字が大きな方が高速である。 |
N-Benchのグラフィックス・エンジンがどのようなもので、これから実際のゲームに使われる可能性があるのかといったことが不明なのに対し、どうやらVulpineはゲームのグラフィックス・エンジンを商売にしている会社のようで、ゲームベンダに対しグラフィックス・エンジンをライセンスすることを狙っているようだ(残念ながらVulpineのグラフィックス・エンジンを採用したメジャーなゲームというのは、あまり聞いたことがないが)。そして、こちらはパートナーの項にIntelの名前が見えるにもかかわらず、上述したような結果が出ている。もしVulpineのグラフィックス・エンジンを用いたゲームが登場すると、現実のアプリケーションでPentium 4はPentium IIIより遅い、ということになってしまう。
ベンチマーク・テストは書き方次第
ここまで読んできたところで、一体Pentium 4は速いのか遅いのか、あるいはそれを決めるベンチマーク・テスト・プログラムは一体何なのか、と感じた人も多いに違いない。筆者はPentium 4を遅いプロセッサだとは決して思っていない。Pentium 4が、いわゆるオフィス・アプリケーションの実行速度を高めるために開発されたプロセッサ(あるいはアーキテクチャ)でないことは確かだが、どのみちオフィス・アプリケーションの利用にはCeleronで十分である。Intelがこれから数年を託すプロセッサのアーキテクチャを、Celeronでも事足りるアプリケーションの実行性能を重視して決めても仕方がない。「NetBurstアーキテクチャ」というプロセッサ・アーキテクチャの名称からも分かるように、Pentium 4はおそらく3DグラフィックスやAV用途を意識したアーキテクチャになっているし、ソフトウェアを最適化させることで、この分野についてPentium IIIよりはるかに高い性能を発揮するハズだ(残念ながら現時点でそうしたソフトウェアはほとんど存在しないのだが)。
にもかかわらず、「Pentium 4の方が遅い」という結果になる3Dグラフィックス・ベンチマークが存在する事実が示すのは、その気になれば、意図に従った結果になるようなベンチマーク・テスト・プログラムを作成するのは、決して難しいことではないということだ。N-Benchがそうした意図を持ったプログラムであるかどうかは別にして、そういった批判を受ける可能性を承知のうえで、日本AMDもN-Benchをリリースしたのではないかと思う。逆に、MadOnionの3DMarkが広く使われているのは、このベンチマーク・テスト・プログラムが示す結果が、多くの評者に体感速度と一致するものと評価されている結果であろう。
また、特定の意図が入り込む余地が少なくなるという点で、実際のアプリケーション(単にグラフィックス・エンジンが同じというだけでなく)を用いたベンチマーク・テストが重視されるべきだし、評価を行う際は少なくとも上述のようなコンポーネントを評価するものと実際のアプリケーションを用いたものを併用しなければならないと考える(本稿はハードウェアの評価を意図したものではない。念のため)。もちろん、実際のアプリケーションを用いたベンチマーク・テストなら何でもよいというわけではないが、それについては、また機会を改めて考えることにしたい。
公平なベンチマークを作るには
もう1つ、ベンチマーク・テストの結果が著しく偏った結果になる可能性を高めているのは、Pentium 4やAthlonといった最新のプロセッサをサポートしたコンパイラやライブラリの不在だ。正確にはIntel製プロセッサについてはIntel自らがコンパイラやライブラリを提供しているのだが、最も普及しているであろうMicrosoftの開発ツールが、こうした最新のプロセッサ技術をサポートしていない。もし、MicrosoftのコンパイラがPentium 4やAthlonをきちんとサポートしていれば、多くのアプリケーションは自然とそれぞれのプロセッサに相応しい性能を発揮するハズだ。逆に、偏ったアプリケーションに対しては、特定の意図を持ったもの、と指摘することも容易になるだろう。Microsoftが最新のプロセッサ技術をサポートしないこと(あるいはできないこと)が、問題をさらに複雑にしている。
いずれにせよ、N-Benchが示す結果は議論を呼ぶだろうし、正直言って標準的なベンチマークとして採用しにくい性格のものであることは間違いない。今後AMDがN-Benchをどうしていくつもりなのか、意図は分からないが、自らがベンチマーク・テスト・プログラムを手がけるより、BAPCoやSPECといったベンチマークに関する非営利団体を通じてベンチマーク・テスト・プログラムへの関与を強化する方向に向かった方がよいのではないかと思う。逆に、現時点でAMDが参加していないBAPCoなどが作成しているプログラムは、Intelの思惑が強く出すぎている可能性が否定できないことになる。
AGP Stress Agentとは
N-Benchの話が長くなってしまったが、ここらでもう1つのプログラム「AGP Stress Agent」について紹介しておこう。このAGP Stress Agentが事実上のデビューを果たしたのは、2001年2月に開かれたIDFでのことだった。IDFは、Intelの役員などによる基調講演、プロダクト・マネージャなどによる技術セッションに加え、8〜15人程度の参加者が実際にIntelの製品(特にソフトウェア製品)に触れながら、その扱い方を学ぶハンズオン・ラボが用意されている。AGP Stress Agentは、このハンズオン・ラボで取り上げられていたテーマの1つであった。
冒頭でも述べたように、AGP Stress Agentはベンチマーク・テスト・プログラムではない。Intelによるドキュメントの表現を借りれば、AGPバス以外のすべてのボトルネック要件を取り除き、純粋にAGPバスに負荷をかけるツール、ということになる。AGPバスを構成するのは、チップセットのノースブリッジ、メイン・メモリ、そしてグラフィックス・チップ、グラフィックス・メモリである。AGP Stress Agentを用いることで、AGPデバイスとしてのグラフィックス・チップの素性を探ることができる。AGPはその動作モードにより、266M〜1066Mbytes/sまでの帯域を備えているわけだが、AGP Stress Agentにより、グラフィックス・チップおよびメモリがどれくらいのデータ転送帯域をサポートすることができるかが分かる。注意していただきたいのは、グラフィックス・チップのグラフィックス描画性能が分かるわけではないことだ。どちらかというと、エンド・ユーザーというより、グラフィックス・チップの開発者に役立ちそうなツールだ。
グラフィックス・チップのAGPインターフェイスの出来を評価する
このプログラムは、IntelのWebサイトからのダウンロードによって入手できる。IDFの時点ではなぜかCNR(Communication and Network Riserカード)に関するホームページの下に置かれていたのだが、現在はAGPテクノロジのページからダウンロード可能となっている(AGP Stress Agentのダウンロード・ページ)。注意が必要なのは、このAGP Stress AgentがサポートしているのはIntel製チップセットだけで、ほかのプラットフォームで実行しようとすると、エラーになることだ。VIA Technologies製Apollo KT133チップセットを搭載するAthlonシステムで実行しようとしたが、プログラムが異常終了してしまい、テストできなかった(Intelプラットフォームとサードパーティ製互換プロセッサの組み合わせは試していない)。そこで、ここではN-Benchのテストを行ったD850GBとVC820に、i815チップセットベースのマザーボード(D815EEA)を加えてみた。
AGP Stress Agentは、さまざまなパラメータを変えながら、AGPバスの帯域をモニタすることが可能だが、AGPバス以外のボトルネック要素を極力排除することが基本的な利用方法となる。つまり、CPUがボトルネックにならないよう、極力高速なCPU(OpenGLによるテストは最低400MHzのPentium IIIだが、Direct3Dベースでは1GHz以上が求められる)を用意したり、描画エリアを最小にすることでグラフィックス・チップの描画エンジンがボトルネックにならないように配慮したり、といった具合だ。今回はドキュメントにあるOpenGLでの実行例(テクスチャなし)に従ったが、この例では描画エリアはわずか50×50ドットに過ぎない。
AGP Stress Agentを起動した直後の状態(拡大写真:33Kbytes) | 描画エリアを最小化した状態(拡大写真:13Kbytes) |
起動した状態では、描画エリアは比較的広い。しかし、グラフィックス・チップの描画エンジンがボトルネックにならないように描画エリアを小さくする必要がある。 | ドキュメントに従って、描画エリアを50×50ドットに変更すると、描画はウィンドウの中央のみで行われる。 |
さてその結果は以下の表に示したとおり。マザーボードを変えても、AGPバスの帯域に大きな違いはなかった。すべてAGP4xモードをサポートしたチップセットであるから当然なのかもしれないが、唯一、PC100 SDRAMの場合を除き、メイン・メモリが変わってもその影響がほとんど見られないのは意外な気がする(PC100のときに極端に性能が低下するのは、プロセッサのFSB 133MHzとメモリ・バスが不整合になることによるオーバー・ヘッドではないかと思われる。FSB133MHzのプロセッサとPC100 SDRAMの組み合わせによる著しい性能低下は、ほかのベンチマーク・テストでも見られる)。実際のアプリケーションでは、メイン・メモリはグラフィックス・チップによるAGPバス経由のアクセスと、ゲーム・ルーチンの実行に伴うCPUからのアクセスで共有されるが、AGP Stress Agentでは後者はほとんど除外されるため、メイン・メモリがボトルネックにならないのだろう。
マザーボード | D850GB | D850GB | VC820 | VC820 | D815EEA | D815EEA |
チップセット | Intel 850 | Intel 850 | Intel 820 | Intel 820 | Intel 815 | Intel 815 |
プロセッサ | Pentium 4-1.7GHz | Pentium 4-1.4GHz | Pentium III-1B GHz | Pentium III-1B GHz | Pentuim III-1B GHz | Pentuim III-1B GHz |
メモリ(256MB) | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC700 RDRAM | PC133 SDRAM (CL3) | PC100 SDRAM |
グラフィックス | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS | GeForce2 GTS |
Peak Vertex Traffic | 589.39 Mbytes/s |
580.47 Mbytes/s |
581.59 Mbytes/s |
581.42 Mbytes/s |
542.11 Mbytes/s |
288.47 Mbytes/s |
プラットフォームの違いによるAGP Stress Agentのテスト結果 | ||||||
Peak Vertex Trafficの数値が大きいほど性能が高い。すべてAGP4xモードをサポートしたチップセットなので、理論的なAGPの最大転送帯域幅は1066Mbytes/sとなる。 |
マザーボード | D850GB | D850GB | D850GB |
チップセット | Intel 850 | Intel 850 | Intel 850 |
プロセッサ | Pentium 4-1.7GHz | Pentium 4-1.7GHz | Pentium 4-1.7GHz |
メモリ(256Mbytes) | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM | PC800 RDRAM |
グラフィックス | GeForce2 GTS | GeForce 256 | Radeon 64MB |
Peak Vertex Traffic | 589.39Mbytes/s | 351.77Mbytes/s | 324.41Mbytes/s |
グラフィックス・カードの違いによるAGP Stress Agentのテスト結果 | |||
Peak Vertex Trafficの数値が大きいほど性能が高い。すべてAGP4xモードをサポートしたグラフィックス・カードなので、理論的なAGPの最大転送帯域幅は1066Mbytes/sとなる。 |
逆に、マザーボードとCPUを固定し、グラフィックス・カードを変えると、Vertexデータのピーク値が明らかに変動する。GeForce2 GTSは、3D描画性能が優れるだけでなく、AGPデバイスとしても優秀なようだ。
関連記事 | |
AMDの弱点は克服されるのか? |
関連リンク | |
3DMark 2001の情報ページ | |
GLmarkの情報ページ | |
SYSmark 2001発表のニュースリリース | |
GeForce 3に関するニュースリリース | |
Blue Man Groupのホームページ | |
GA-7DXCの製品情報ページ | |
AGP Stress Agentのダウンロード・ページ |
「元麻布春男の視点」 |
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう - 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は? - IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか? - スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
|
|