元麻布春男の視点
Pentium 4の値下げが意味するところ


元麻布春男
2001/05/02

 2001年4月23日にIntelは、Pentium 4に最高クロックとなる1.7GHz版を追加した(インテルの「Pentium 4-1.7GHz発表のニュースリリース」)。この発表で何より注目されたのは、その価格がわずか4万2570円(米国価格:352ドル、いずれも1000個ロット時)に設定されていたことだ。この発表の直前、Intelは4月15日付でプロセッサの価格改定を行っているが、20%近い値下げが行われたにもかかわらず、この時点で最高クロックのプロセッサであったPentium 4-1.5GHzの価格は519ドルに過ぎない。Pentium 4-1.7GHzについて、いかにアグレッシブな価格設定がなされたかは、これを見れば明らかだ。

4月15日改定
4月29日改定
1.70GHz
352ドル(4月23日)
1.50GHz
519ドル
256ドル
1.40GHz
375ドル
193ドル
1.30GHz
268ドル
193ドル
Pentium 4の1000個ロット時価格
なお、Intelのプロセッサの最新価格は、ホームページ上の価格表で調べることができる。

 ただこうしたアグレッシブな価格設定によって、Pentium 4-1.7GHz発表の時点で「公式には」価格の逆転現象(Pentium 4-1.7GHzの方がPentium 4-1.4GHzより安い)が生じてしまった。そこで、この逆転現象を是正するため、4月29日に既存のプロセッサに対する再値下げが行われた。この公式な値下げ前の4月20日ごろから、秋葉原などのPCショップでは、この新しい価格設定に基づいたと見られる値下げが行われており、128MbytesのDirect RDRAM(64Mbytes PC800 RIMM×2)がバンドルされたPentium 4-1.5GHzのリテール・パッケージが4万円台半ばから後半で販売されている。わずか1週間前には7万円以上していたことを考えると、久しぶりに劇的な値下げである。1.7GHzも、同じく128MbytesのDirect RDRAMがバンドルされたパッケージで5万円台後半と、ハイエンドのプロセッサとしてはリーズナブルな価格となっている(上述した「352ドル」はDirect RDRAMやヒートシンク類が付属しないOEM向けの価格)。

 なぜIntelはこのようにPentium 4への移行を急ぐのか。現在の0.18μmプロセスによるPentium 4(開発コード名「Willamette:ウィラメット」)は、ダイ・サイズが大きく、決してコスト的に有利ではない。2001年第4四半期に予定されている製造プロセスを0.13μmに変更したPentium 4(開発コード名「Northwood:ノースウッド」)の登場を待って、アグレッシブな価格設定を行った方が、業績の点からはよいハズだ。

なぜPentium 4の値下げを急ぐのか

大きな写真へ
既存のPentium 4(左)と新しいPentium 4(右)のパッケージ
既存のPentium 4(Willamette)は423ピンで、新しいPentium 4(Northwood)は478ピンである。写真を見ても分かるように、ピン数は新しい方が多く、実装密度も高い。そのため、パッケージ自体が小さい。

 1つの見方として、今回の価格改定の背景にPentium 4の在庫処分があるのではないか、ということがいわれている。2001年第3四半期には、新しい478ピン・ソケット対応のPentium 4が登場する。新しいパッケージの採用は、マザーボードなどプラットフォームの変更を意味するわけで、切り替えの前に423ピンの在庫をさばいておこうわけだ。

 確かに、昨年のデビュー以来、Pentium 4は大ベストセラーになっているとは言い難く、ある程度在庫が膨らんでいる可能性はある。しかし、478ピン・ソケットへの切り替えを理由に在庫処分を行うには、少々時期が早すぎるのではないかと思う。また、台北で開かれているIDF Spring 2001 Taipeiで、Intel Architecture Groupの副社長であるルイス・バーンズ(Louis Burns)氏は、478ピン・ソケットのプロセッサが登場した後も、423ピン・ソケットのプロセッサ供給を続けると約束したと伝えられている。この約束なしには、台湾のマザーボード・ベンダは、現行の423ピン対応マザーボードの供給量を増やすことはないだろう。もし、478ピン・プロセッサが第3四半期に登場するのであれば、423ピン対応のマザーボードは、わずか1四半期しか商機がないことになるからだ。そして、マザーボードがなくてはいくらプロセッサの価格を下げても効果は薄い。

Pentium 4の値下げはRDRAMのバックアップか

 こうした事情を考えると、今回の値下げの目的は、やはりプラットフォームの確立にある、ということになる。1つはPentium 4の値下げと、将来の供給を約束することで、マザーボード・ベンダにPentium 4対応マザーボードの増産を促す。また、Direct RDRAMに対応したマザーボードの供給が増えることで、おのずとDirect RDRAMの需要が高まり、Direct RDRAMの市場が確立する、ということも狙いに含まれているだろう。ある意味今回の値下げは、Direct RDRAMの増産に応じたメモリ・ベンダのSamsung Electronics、エルピーダメモリ、東芝の3社に対する一種の公約だったとも考えられる。Intelは、Northwoodのデビューまでに、メモリ、マザーボード、そして何よりハイエンド・プロセッサとしてのPentium 4のポジションの確立を急いでいる、ということなのだろう。ハイエンド・プロセッサとしてのPentium 4の認知度を上げるということは、Athlonの登場以来、AMDに奪われているモメンタム(勢い)を奪回したいということでもある。

 もう1つ、今回発表されたPentium 4-1.7GHzで特徴的なのは、RIMMをバンドルしないリテール・パッケージ(Boxed版)が追加されたことだ。メモリの付属しない、本来の(?)姿に戻ったこのパッケージは、秋葉原のPCショップで4万円台半ばあたりで売られており、ヒートシンクが付属することを考えれば、プロセッサのOEM向け販売価格にほぼ相当する。このパッケージは、478ピン・ソケット対応のPentium 4のリテール・パッケージにはメモリをバンドルしない、という先駆けであると同時に、今回のプロセッサ価格の値下げとDirect RDRAMの増産によりDirect RDRAMの市場が独り立ちするため、メモリをプロセッサにバンドルする必要がなくなる、とインテルが考えていることの現れではないかと思われる。

NVIDIAもGeForce 3を値下げ

 このPentium 4の大幅値下げに先立つ形で大幅な値下げを行ったのがNVIDIAだ。2001年2月に発表したGeForce 3ベースのグラフィックス・カードの予想市場価格を、発表時の499ドル〜599ドルから399ドルに引き下げたのである。この価格は、GeForce2 Ultraがデビューしたときとほぼ同じ水準であり、国内価格は5万円前後と予想される。2月の発表時は、推定国内販売価格が6万5000円〜7万円とされていたのに比べて、大幅な値下げだ(それでも128MbytesのRIMMが付属したPentium 4-1.5GHzより高いわけだが)。

 デビューして以来、筆者を含めGeForce 3のサンプルに接する機会のあった者のコンセンサスは、「技術的には素晴らしい製品だが、エンド・ユーザーが飛びつくには価格が高すぎる」というものだったように思う。特に、対応したアプリケーションの欠如と、新しいグラフィックス・チップが6カ月サイクルで登場するグラフィックス・カード市場を考えると、今すぐ7万円のカードを買いなさいとはいえなかった。5万円になったところで、すべてのユーザーに推奨できる製品だとは思わないが、ほしくなるユーザーは増えることだろう。ポテンシャルを持つにもかかわらず、ソフトウェアの対応が遅れているという点で、GeForce 3とPentium 4には共通点があると思っていたが、まさか大幅値下げまで共通だとは思わなかった。

NVIDIAの力がNVIDIA離れを生む

 それはともかく、今回の値下げで思い知らされたのは、NVIDIAの「力」だ。現在市販されている同社製グラフィックス・チップを採用したカード製品を見比べれば分かるとおり、多くの製品が同じ基板デザイン、いわゆるリファレンス・デザインを踏襲している。リファレンス・デザインと異なる基板を自前で設計していては、市場の立ち上がりに出遅れてしまうし、それではグラフィックス・チップがデビューした直後という一番「おいしい」商機を逃してしまう。結局、製品間の主要な違いは、ヒートシンクやファン、あるいはちょっぴりだけ高速なメモリの採用といった細部に限定されつつある。

Herculesの「3D Prophet 4500 64MB」
ST Microelectronics製の最新グラフィックス・アクセラレータであるKYRO IIを搭載した「3D Prophet 4500」。これまでNVIDIAのグラフィックス・チップを積極的に採用してきたHerculesがKYRO IIを採用したことで注目を集めている。

 ディスプレイ・ドライバにしても、今やカード・ベンダが手を入れる余地などほとんどないのが実情だ。特にNVIDIAの場合、正式に公開されるリファレンス・ドライバのみならず、さまざまなバージョンのベータ版ドライバがインターネット上に流出しており、事実上誰もが入手可能な状態になっている。ドライバ・サポートに占めるカード・ベンダの役割はきわめて小さい。

 こうした事情に加え、今回明らかになったのはNVIDIA製グラフィックス・チップを採用したカード製品の価格を事実上決めているのは、カード・ベンダではなく当のNVIDIAらしい、ということだ。おそらくNVIDIAが示すのはあくまでも基準となる価格、ということなのだろうが、上述したとおり、製品間の差別化がきわめて難しいという実状を考えれば、価格は収束していかざるを得ない。Creative TechnologyがGeForce 3を採用したグラフィックス・カードをリリースしないとか、NVIDIAとうまくやっていると思われてきたHercules(Guillemot)が、ライバルであるST MicroelectronicsのKYRO IIを搭載したカード(3D Prophet 4500)を大々的にプロモートするといったことの背景には、NVIDIAの力が突出して強くなりすぎたことがあるのだと思う。記事の終わり

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  関連リンク 
Pentium 4-1.7GHz発表のニュースリリース
Intelのプロセッサの価格表ENGLISH
グラフィックス・アクセラレータ「GeForce 3」の製品情報ページENGLISH
グラフィックス・アクセラレータ「KYRO II」の製品情報ページENGLISH
グラフィックス・カード「3D Prophet 4500」の製品情報ページ
 
 
「元麻布春男の視点」


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