元麻布春男の視点
IntelとAMDの次なる戦場はPDA向けプロセッサ?


元麻布春男
2002/02/15

 IntelとAMDの両社が、ライバル関係にあることは、よく知られた事実だ。最も激烈な競争関係にあるのは、もちろんPC用プロセッサの分野だが、フラッシュメモリの分野でも競合関係にある。両社はこうした競争だけでは飽き足らないのか、また新たな分野で激突することとなった。それは組み込み用RISCプロセッサの分野だ。組み込み用RISCプロセッサは、PDAだけでなく、携帯電話やブロードバンド・ルータなどに利用範囲が急速に広がっている。IntelとAMDというPC用プロセッサ・ベンダの両雄の参入によって、組み込み用RISCプロセッサの勢力分布も大きく変わりそうだ。今回は、両社の組み込み用RISCプロセッサを比較しながら、AMDがなぜ組み込み向けRISCプロセッサ開発企業であるAlchemy Semiconductorを買収したのかを考えてみたい。

AMDが買収したAlchemyのRISCプロセッサとは

 2002年2月5日、AMDはAlchemy Semiconductorを買収すると発表した(日本AMDのAlchemy Semiconductor買収に関するニュースリリース)。Alchemy Semiconductorは、MIPS32アーキテクチャ*1に基づく組み込み用RISCプロセッサの開発を行う、非上場のファブレス企業である。旧DECで、AlphaプロセッサやStrongARM*2プロセッサの開発を行っていたエンジニアが創業した。現時点で買収金額などは明らかにされていないが、AMDは新たに「Personal Connectivity Solutions(PCS)事業部」を設立、将来の収益事業に育てる予定としている。

*1 MIPS Technologiesが開発した組み込み向け32bitプロセッサのアーキテクチャ。古くはワークステーションに搭載されていたR4000/5000などのRISCプロセッサの系列に連なる(ミップス・テクノロジーズのMIPS32アーキテクチャの紹介ページ)。
 
*2 組み込み向けプロセッサ・コアとして有名なARMのアーキテクチャをベースに、旧DECが開発したプロセッサ。高クロック化による高性能を実現したことで知られる。現在はIntelがStrongARMの開発・製造を受け継いでいる。詳細は「頭脳放談:第12回 キミはARMを知っているかい?」を参照。

 同事業部が当面、力を入れることになりそうなのは、WebパッドやPDAといった、低消費電力が求められるバッテリ駆動のIA(Internet Appliance)機器となる。買収以前にAlchemyが開発していた「Au1000」、あるいは「Au1500」と呼ばれるプロセッサがターゲットにしていた市場だ。

 Au1000は、Alchemy Semiconductorが開発したプロセッサ・コアである「Au1」に、SDRAMコントローラ、2チャンネルのイーサネットMAC(Media Access Controller:メディア・アクセス制御)部、USBホスト・コントローラ/デバイス・コントローラなどを集積したもの。LCD(液晶ディスプレイ)コントローラは外付けで、エプソン製のLCDコントローラに対応したインターフェイスを備えている(図1)。動作クロックは266MHz(コア電圧1.25V/消費電力0.3W)、400MHz(同1.5V/0.5W)、500MHz(1.8V/0.9W)の3種で、組み込み用プロセッサとしては高性能の部類に入る。Au1500は、同じコアをベースに、さらにPCI 2.2インターフェイスを統合したものだ。

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図1 Au1000のブロック・ダイアグラム
Au1000は、このブロック・ダイアグラムを見ても分かるように、2チャンネルのイーサネット、USBのホスト・コントローラを持つなど、PDA向けとしてはかなり豪華な内容となっている。 むしろ、ホーム・ゲートウェイや高機能なインターネット・アプライアンス向けに開発されたもののように感じる。

ライバルはIntelのStrongARM

 いずれにしても、このAlchemy Semiconductorがデザインしたプロセッサは、組み込み用として最も高機能/高性能のプロセッサ市場を狙ったものであることは間違いない。2チャンネルのイーサネットMACを内蔵していることからも、少なくともプリンタや携帯電話を狙ったものではないのは明らかだ。

 そして、現在この組み込み向けプロセッサ市場で最も勢いがあるのが、Intelが販売するStrongARM製品である。Windows CEをベースにしたPocket PC採用のPDAで、StrongARM(SA-1110)がCompaq Computer、Hewlett-Packard、東芝、日本電気、カシオ計算機といったベンダに採用され、事実上独占ともいえる快進撃を進めているのはご存じのとおり。Palm OSも次世代「Palm OS 5」でARM系アーキテクチャへの移行を決めており、StrongARM(SA-1110)の後継機となる「PXA250」に対応する予定だ(Palm OS 5では、IntelのXScale、MotorolaのDragonBall MX1、Texas InstrumentsのOMAPに対応予定)。それを裏付けるように、2002年2月12日にIntelが発表したStrongARMの次世代製品である「PXA250」「PXA210」*3のニュースリリースには、Palm OSの開発元であるPalmSource社が、「Palm OS のライセンシーと幅広い Palm 関連の開発者は、インテル XScaleマイクロアーキテクチャの恩恵を最大に授与することができます」というコメントを寄せている(インテルの「XScale採用の新プロセッサに対する各社のコメント」)。

*3 PXA250とPXA210は、ともにStrongARMの次世代コアであるXScaleをベースにしたPDA、携帯電話向けのアプリケーション・プロセッサである(インテルの「XScale採用の新プロセッサに関するニュースリリース」)。2002年夏頃には、PXA250を搭載したPocket PC 2002採用PDAが各社から出荷になる予定。

 世界的に見てPDA市場は、Pocket PC搭載機とPalm OS搭載機で二分されており、そのプロセッサとしてはARM系が優勢である。Windows CEそのものはMIPS系プロセッサや日立製作所/STMicroelectronicsのSuperH(SH)プロセッサも引き続きサポートしているとはいえ、PDA市場に割って入るのはかなりの努力を必要とするだろう。AMDが手に入れたAu1000/Au1500は、PDAというより、もう少し高級な分野(Webパッドなどのインターネット・アプライアンス)を狙っているのかもしれないが、この分野はプラットフォームの発表は相次ぐものの、実際の商品化がなかなか進まないのが現状である。AMDのお手並み拝見というところだろう。

 このAMDを迎え撃つ格好となるIntelは、前述のようにStrongARM製品の後継にもなるXScaleアーキテクチャに基づくアプリケーション・プロセッサのPXA250とPXA210の2種を発表した。XScaleは、ARM 5TEアーキテクチャをベースに、Intelが独自に開発した組み込み用32bit RISCプロセッサである。XScaleアーキテクチャ自体は、PDAだけでなく、ネットワーク機器やRAIDコントローラなど、別の分野にも幅広く使われている。

 PXA250とPXA210の特徴は、ターゲットをかなり絞り込んでいることで、前者は高性能PDA、後者は携帯電話用に機能の最適化が行われている。高性能PDA向けのRISCプロセッサということでは、PXA250はAu1000と直接の競争関係にあるが、PXA250はLCDコントローラを内蔵していること(Au1000は外付け)、そして何よりPocket PCの市場を握っており、そのPocket PCが伸びているという強みがある(図2)。現状でPocket PCが、唯一Windows CEアーキテクチャにおいて成功を収めている製品分野ともいえるだけに、この市場を中心に狙う戦略ということなのだろう。

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図2 PXA250のブロック・ダイアグラム
Au1000とは異なり、PXA250はPDAに最適化し、必要十分な機能を盛り込んだ設計を行っていることが分かる。PXA250と若干の周辺チップだけで、Pocket PCに必要な機能が実現できるようになっている。

なぜAMDはMIPS系を選んだのか?

 とはいえ、これはAMDも承知のはずだ。にもかかわらずMIPS系アーキテクチャのAlchemy Semiconductorを買収したのは、すでにARM系のRISCプロセッサの市場が混戦状態だからだろう。Intelはいうに及ばず、IBM、Motorola、Texas Instruments、National Semiconductor、STMicroelectronics、Philips Semiconductorsといった大手半導体ベンダに加え、東芝、日本電気、富士通、セイコーエプソンなど多くの日本企業がARMのライセンスを受けている。そこにAMDが後から参入してもうまみは少なく、その一方で成長分野と思われるインターネット・アプライアンス分野の製品ラインナップを強化したい、という判断があったとしても不思議ではない。

 それにしても、IntelとAMD、両社の業のようなものを感じるのは、いずれの組み込み用プロセッサもDECという1つの源流を共有する関係にあることだ。Alchemy Semiconductorが旧DECの人材をベースにしているのに対し、IntelのXScaleはDECから買収した半導体事業にルーツを持つ。旧DECの「人」を継承したAMDと、旧DECの工場と製品を継承したIntelの戦い、というわけだ。記事の終わり

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頭脳放談:第12回 キミはARMを知っているかい?

  関連リンク 
Alchemy Semiconductorの買収に関するニュースリリース
MIPS32アーキテクチャの紹介ページ
XScale採用の新プロセッサに対する各社のコメントに関するニュースリリース
XScale採用の新プロセッサに関するニュースリリース
 
「元麻布春男の視点」


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