第2回 RFIDシステム導入を成功させるポイント


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年5月23日

 ハードウェア/ソフトウェア選定の現実

 フィージビリティスタディにおいて実測値を収集して、その評価結果から業務・対象物・利用環境の視点で総合的に最適な周波数帯とハードウェアを選定しますが、実際にはすべての周波数帯の候補を並べてテストするというようなことはほとんどありません。

 例えば、現場で無線LANを利用していると、干渉をさけるために2.45GHz帯は候補外となります。対象物に合わせてICタグの形状を柔軟に加工したいならば、13.56MHzになります。長い通信距離が必要ということであればUHF帯かアクティブということになります。つまり、業務要件と対象物、利用環境から意外にシンプルな結論が出ます。

 現実的には2つの周波数帯の候補をさまざまな角度から評価分析をして1つに絞るというケースが大半です。筆者の経験ですが、UHF帯を利用したいと考えていた企業がフィージビリティスタディの結果、13.56MHzの方が適しており、現実の導入は13.56MHzとなったという事例があります。これは、フィージビリティスタディの結果として、UHF帯ほどの長い通信距離を必要としていないことが確認できたことによります。

 むしろ重要なのは周波数帯と機器を大まかに確定してからの話です。リーダ/ライタの設置位置、接続するアンテナの台数、ICタグの貼付方法、リーダの出力制御や、さらに必要な場合には運用に近い部分の最適化とソフトウェア中心のシステム最適化を施して確実な業務運用ができるようにします。このあたりは次回以降詳しく解説していきます。

 RFIDシステム導入に必要な人材とスキル

 フィージビリティスタディや周波数帯とハードウェアの選定作業というRFIDシステムの導入に特有の作業自体は、実はそんなに難しいものではありません。もちろん現場によってはスペクトラムアナライザ(通称スペアナ)を持ち込んで電波状況を確認するなどの特殊な作業が必要となる場合もあります。

 あくまで筆者の個人的な考えですが、多少の慣れがないとプロジェクトの進行が遅くなります。そのため、限られた時間の中で多角的にスムーズにプロジェクトを進めるために必要という点で、各フェーズでのコンサルティングというサービスが受け入れられているものと考えております。

 RFIDシステム導入をITベンダの手を借りずに実行したいという方々へのアドバイスを1つ挙げるならば、必ずやらなければならない作業はハードウェアの性能評価です。具体的には導入を検討している機器の性能把握と評価を細かくやるということです。

 例えば、先ほど通信範囲を「ラグビーボール」と申し上げましたが、具体的にどれくらいの大きさのラグビーボールになるかを確認することから始めます。またメーカーによって異なりますが、データを読むためにはどういうハードウェア構成でどういうソフトウェア処理をするのか、読み取り精度は、処理速度は、ほかのシステムへの連携のインターフェイスや開発の利便性は、といった一般的なハードウェア/ソフトウェア評価の見地で細かく洗い出していきます。

 あなたが社内の業務システムにおいてRFIDの導入を任されたとしたら、ご自身で進めていくかプロに依頼するかは、こういった細かい作業をご自身でできるかどうかを判断基準としてください。

 産業界の動向と主流の規格(エア・インターフェイス)

 現在の産業界で主流の周波数帯は、13.56MHz、2.45GHz帯、UHF帯ですが、やはり話題の中心はUHF帯です。

 UHF帯を語るにはISOとEPCglobalの話が不可欠となります。EPCglobalは、前身のAuto-IDセンターが考案した商品コード体系をベースにRFIDの技術仕様策定や啓もう活動などを行ってきました。米ウォルマートなどの流通業を中心に利用されつつあり、雑誌などにもたびたび掲載されています。最近ではヨドバシカメラでの導入計画などが話題を呼んでいます。

 システムの概要としてEPCglobalでは、ICタグに書き込まれたビット単位のEPC(Electronic Product Code)などの情報を各業務プロセスで読み取り、ネットワークを介してサーバ上で詳細情報を参照して利用することで、製造業者と販売業者などのSCMで利用できるような運用を想定しています。

 EPCglobalの最新仕様であるGen2では、EPCに加えてメモリ領域も追加され、より実用的になるため、今後の導入が期待されています。

EPCglobalのシステムを利用するためには、EPCglobalへの加入が必要となります。このあたりは財団法人流通システム開発センター(EPCglobal JAPAN)に確認してください。

 これに対してISO 18000-6 TypeBのICタグはGen2に比べてバイト単位の大きなユーザーメモリを有しています(ユーザーが利用できるメモリはメーカーによって決められますが、通常数十バイト以上のメモリとなります)。読み取り・書き込みを柔軟に実行することで、各プロセスでデータの上書きや一部書き換えが可能になり、リユースが要求される利用シーンにも十分耐えられます。

 日本におけるRFIDの導入は製造業が進んでおり、特に自動車製造業が積極的です。自動車製造業での導入は、組み立てラインでの工程管理や検査工程などですが、その背景には各工程または後工程での省力化、作業時間短縮と精度向上、そしてペーパーレス化への要求があります。また、自動車製造業でUHF帯の採用が進む理由には、ラインも大きく対象物も比較的大きいことから通信距離を必要とすることが挙げられます。

 導入機器のタイプとしては、現在は工程管理や物流ではTypeBに準拠した機器が主流です。理由としては製造番号に加えて作業指示番号や工程番号そのほかの情報をプロセスごとに追記したいというニーズがあり、ある程度大きなメモリ容量が必要であること、さらに既存システムとの互換性などが挙げられます。ただし、電機メーカーなどのセル生産方式では通信距離を必要としないため、13.56MHzの導入が進みつつあります。

 流通業大手のSCMではGen2の導入が進んでいくものと思われますが、製造業のインハウスなどでは今後とも多種多様な規格が選択されていくものと思われます。

 次回はソフトウェア処理について解説します。

3/3
 

Index
RFIDシステム導入を成功させるポイント
  Page1
なぜRFIDシステムの導入がうまくいかなかったのか
RFIDシステムの導入を成功させるために
  Page2
フィージビリティスタディとはどういうものか
主な周波数帯の種類を知る
費用が必要なUHF帯と2.45GHz帯
Page3
ハードウェア/ソフトウェア選定の現実
RFIDシステム導入に必要な人材とスキル
産業界の動向と主流の規格(エア・インターフェイス)


Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

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