第3回 RFIDのソフトウェア処理を理解する


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年6月30日


 リーダ/ライタのモードとアクセスメソッド

 リーダ/ライタからICタグへの読み取り/書き込みをするために、RFIDシステムには固有のモードとアクセスメソッドがあります。先ほどのソフトウェア・シーケンス概要図のコマンド2のところでタグのID・メモリ読み取りがありますが、このモードとアクセスメソッドがどのような方法で読み取り/書き込みをするのかを決めます。

 各メーカーが提供するほとんどのAPIコマンドまたはミドルウェアは、モードとアクセスメソッドという考え方を持っています(ISOやEPCglobalなどのエア・インターフェイスにこのようなモードがあるわけではありません)。各メーカーによって、モード名やアクセスメソッド名は自由に付けられていますが、図3のような2つのモードと2つのアクセスメソッドに分類でき、名称が異なっても同じ機能を意味することが大半です。

図3 モードとアクセスメソッド

 例えば、モードにおいて、通信範囲内に入った場合の自動読み取りを富士通では「Wait Mode」、コマンド発行後の読み取りを「No Wait Mode」と呼んでいます。機能上の若干の違いはありますが、米エイリアン・テクノロジーの場合は、それぞれ「Autonomous Mode」「Interactive Mode」となります。富士通の場合は、誰が聞いてもまったくそのままの言葉で分かりやすいと思いますが、エイリアンの方がちょっとしゃれた感じですね。

 2つのモードと2つのアクセスメソッドは覚えておいてください。システム設計において非常に重要な概念で、ハードウェア構成にも影響を及ぼします。対象物に貼付されたICタグを1枚ずつ読み取りするのであれば、アクセスメソッドは1枚読みを指定します。どのモードを採用するかは業務によって決まります。

 アクセスメソッドの中で複数枚同時に読み取りというメソッドは、いわゆる一括読み取り(アンチコリジョン)といわれているものに当たります。対象物が規則的に並べられて、ICタグの貼付位置もある程度同じ位置にそろえられるような状況であれば、実際の現場でも一括読み取りの実現がある程度可能です。しかし、ICタグを貼付した対象物が雑多に置かれているような場合は困難となります。一括読み取りについては現場導入の留意点について解説するときにも復習します。

 一括読み取りについての豆知識ですが、例えば3枚のICタグが読み取り範囲にあった場合、その3枚を本当に同時に読んでいるわけではありません。あくまでイメージですが、ICタグのIDの文字列などによって順序を付けて読んでいく方式と、乱数を生成して順番を付けていく方式があります。ですが、PCのシステム画面を見ている限りでは、非常に迅速に処理されているために“同時”に見えるのです。

 ユーザーメモリをどのように読み取るか

 ユーザーが書き込んだメモリ領域のデータは、どのように読み取られているのでしょうか。ソフトウェア・シーケンスの概要図では、OPEN、READ、CLOSEのステップで読み取り処理が完結するのを見ましたが、READコマンドをもう少し詳しく解説します。

 モードとアクセスメソッドを決めたうえで、READコマンドは、まずUIDを取得して、次にユーザーエリアの情報を読み取ります。例えば、ISO 18000-6 TypeBのICタグに8バイトのユーザーデータが保持されている場合、UIDを読み取った後で、8バイトのデータを読み取ります。

 UIDとはUnique Identifier(固有識別子)の略で、ICタグメーカーが製造時に付与するユニークなIDです。このUIDを読んで、ユーザーエリアを読むというステップはISO準拠のリーダ/ライタメーカーの場合はおおむね同様です。

 全体の読み取り時間をαとすると、αはAPIコマンド発行後、リーダ/ライタ(ドライバ)−ICタグ−リーダ/ライタ(ドライバ)−APIを通じて、UIDを含むデータを取得する時間となります。

 例えば、ユーザーデータが96バイトの場合、ICタグとドライバ間のデータの読み取り処理が8バイトバウンダリで実行されることから、最初の8バイトの読み出しに加えてさらに11往復の通信が実行されます。よって96バイトの場合の経過時間はα+11往復通信の時間が必要となります。

 従って、実際のシステム設計では、この往復をできるだけ少なくしてレスポンスを向上させるために、読み取りまたは書き込みの際のデータ量を最小限に抑えるようにします。なお、UIDが事前に分かっている場合は、UIDを取得せずに、ダイレクトにユーザーエリア情報のみを読み取るコマンドも提供されているので、経過時間を若干短くすることも可能です。

 Gen2の場合は、EPC(Electric Product Code)を読み込んだ後、16ビット倍数でメモリ領域を読み取ります。実際の読み取りの経過時間は、EPCglobalの方が早く感じるかもしれませんが、EPCglobalの場合はデータがビット単位ですので、ICタグに保持できるデータ量はISO 18000-6 TypeBに比べて小さめです。

 もちろん経過時間については、エア・インターフェイスにおける伝送速度などが大きく関係しますが、業務システム設計に与える影響としては、レスポンスの考え方やデータ処理方法が大きいのでそこに重点を置き説明をしました。

 ちなみにリーダ/ライタからICタグへの伝送速度は、ISO 18000-6 TypeBが最大で40kbps、Gen2が最大128kbps、ICタグからリーダ/ライタへの伝送速度は、前者が最大160kbps、後者が最大で640kbpsです。

2/3

Index
RFIDのソフトウェア処理を理解する
  Page1
ハードウェアの構成を理解する
ソフトウェア・シーケンスの概要を理解する
Page2
リーダ/ライタのモードとアクセスメソッド
ユーザーメモリをどのように読み取るか
  Page3
UHF帯の共用化技術対応によるインパクト


RFIDシステム導入バイブル 連載インデックス


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