電波法の改正はRFID普及の鍵となるか!?
岡崎 勝己
2008年6月26日
システムの開発工数を抑えるサービスや製品も相次ぐ
RFIDの利用に消極的な企業に対する、システムの導入を促すための代表的なアプローチの1つが、システムの開発負荷の軽減だ。日本ユニシスと三井物産が説明を行っていた「UNITRA」は、その点に着目したASP型の物流プラットフォームサービスといえよう。
従来、RFIDは特定の企業内の、いわば閉じた環境で運用されることが多かった。これに対してUNITRAは、ユーザーごとにアクセス制御を行うことで、複数企業をまたいだ形で情報を共有できるのが大きな特徴だ。インターネットを介してアクセスできるため、グローバルでの情報共有に活用を見込むことができる。
現状、UNITRAで提供されているアプリケーションは出荷や入荷、在庫情報を照会したり、回転日数を分析したりするための「RTIマネージャー」に限定されているが、APIが公開されていることから、ユーザー側でアプリケーションを個別に構築することも可能。
すでに日本の大手精密機械メーカーが海外工場における搬送器具の管理を目的に活用を進めており、数十もの取引先と数十万もの搬送器具の位置情報を共有することで、搬送器具の紛失を大幅に削減できているという。利用に当たっては日本ユニシスからリーダ/ライタの設置手法などに関するサポートサービスも提供されるという。
また、日立製作所はRFIDシステムのスターターキットの1つとして、RFIDタグの情報をデータベースで管理するためのレポーティング基盤製品「uCosminexus Ubiquitous Reporter」を参考出品。
ブースの担当者によると、ここにきてRFIDシステムの開発工数を削減したいという企業のニーズは急速な高まりを見せており、同製品では、事前にレポートを定義するとともに、GUIにより定義をカスタマイズできるようにすることで、各社の要求に合致した情報管理環境を容易に整備できるようにした。同製品は年内には提供が開始される計画とのことだが、システムの導入負荷を軽減するための製品やサービスは、今後も相次ぎ登場することが予想される。
マーケティングやセキュリティなど現実的なソリューションも
RFIDシステムがここまで広く利用されるようになったことで、そこでの成功事例を製品開発や営業活動に活用する動きも顕在化しつつあるようだ。大日本印刷ではワインごとに用意されたICカードをリーダ/ライタにかざすことで、そのワインに合うチーズや食事などをタッチパネルに表示するシステムを展示。実は同システムは、あるスーパーへの試験導入で、ワインの売上を倍増させた実績を誇るものである。
どのカードが何回かざされたかといったログ情報はサーバ側で一元管理されており、その情報を基に店舗は各種の販促策を立案することが可能。また、客はタッチパネルを自身で操作して情報を検索できるため、プッシュ型とプル型の双方の情報提供手段として活用を見込むことができる。
担当者によると同社ではワインや調味料向けなどのコンテンツをそろえ、年内にも同システムの販売を開始する計画とのことだが、「情報を適切に顧客に配信できる一方で、ログ情報を収集することで貴重なマーケティングデータを得ることもできる。これまで、当社を含めてRFIDをさまざまなかたちでマーケティングに活用する取り組みがなされてきたが、まずはユーザーにとって身近な用途を開拓することを通じ、新たな市場の開拓に向けた糸口をつかめるのでは」(大日本印刷)と今後に期待を寄せる。なお、販売に当たってはシステムのみならず画面に表示するコンテンツの作成/配信まで一貫して手掛けるという。
大日本印刷によると、ICタグを利用した情報配信システムをワインの販促活動に利用したところ売上が倍増。検索した料理のレシピなどの提供にも活用を見込むことができる |
また、医療機関ではPCのセキュリティを確保するためのツールとしてRFIDに対するニーズが高まりつつあるようだ。シチズン時計はPCに接続したリーダ/ライタがRFIDタグを認識できなくなった時点でPCをロックする「サティフゲート」を出展していたが、「院内のPCにはカルテなどの極めて機密性が高い情報が収められている。そこで、PC内の情報保護を目的に、同製品に対する問い合わせを寄せる医療機関がここにきて急速に増えている」(シチズン時計)ことを背景に、同製品を積極的にアピールしていた。
ちなみに、サティフゲートで用いているRFIDタグは300MHz帯の微弱電波方式のもの。ほんの数メートル離れるだけでPCがロックされるため、ユーザーが特に気を配らなくても情報を保護できる点が高く評価されているという。このほか、RFIDを文書管理に活用したシステムも数多く出展され、セキュリティ分野を中心にRFIDシステムの需要が着実に伸びていることがうかがえた。
サティフゲートのリーダ/ライタ(左)とRFIDタグ。RFIDタグはネームプレートとして利用する |
さらに、RFIDがわれわれの生活に着々と身近になりつつあることをうかがわせる出品もあった。日立グループが参考出品していた「インテリジェント自動調節アンテナ」もその1つだ。
液体や金属などの影響によって同調周波数がずれることで、これまで認識していたRFIDタグをリーダ/ライタが認識できなくなる現象はこれまでにもしばしば見受けられた。これに対して同アンテナは同調周波数を動的に調整することで、認識の不具合を早期改善させるもの。
こうした製品の登場などによって、リーダ/ライタを店頭の棚などに埋め込み、店頭在庫の管理に活用するといった取り組みも、いよいよこれから本格化し始めるのかもしれない。
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Index | |
電波法の改正はRFID普及の鍵となるか!? | |
Page1 ユーザーの二極化を踏まえた市場活性化のためのアプローチ 読み取り精度向上に向け電波法の改正へ |
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Page2 システムの開発工数を抑えるサービスや製品も相次ぐ マーケティングやセキュリティなど現実的なソリューションも |
Profile |
岡崎 勝己(おかざき かつみ) 通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集者を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に、主にIT分野や経済分野でジャーナリストとして活動中。フォーカスするテーマはITと業務改革/イノベーション、人材論など。他方、情報システムうんぬんは抜きに、コンテンツビジネスなど面白ければ何でもやる一面も。 著書に「図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)」などがある。 |
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