第7回
EPC ISを使った次世代アーキテクチャ
伊東 英輝
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
Fusion Middleware技術部
RFID&EDAグループ
シニアマネージャー
2007年3月8日
RFIDの技術的な理解は進んだ。これからは、RFIDを使ってどのようなシステムを構築していくべきかが問われる。RFIDシステム構築エンジニアに必要なスキルと知識を解説する(編集部)
前回「物流を可視化するEPCISを知る」では、物流業務に必要な情報を共有するための中心となるサービスであるEPCIS(EPC Information Services)の役割を紹介しました。
今回は、EPCISを使って、今後目指すべき次世代アーキテクチャについて提案します。
EPCISの配置とDiscoveryサービス
どのEPCISに問い合わせするべきかはEPCISの配置によって変わります。サプライヤは自社が製造した特定製品のEPC情報を保有できますが、物流のトレース情報をすべて収集することは困難です。代わりに物流に関与する複数企業がモノのトレース情報をEPCISに記録します。関連する企業がサプライヤのEPCISに情報を送信することもできますが、自社のEPCISに情報を格納するケースが多いと思われます。つまりモノの流れをトレースするには分散されたEPCISに問い合わせする必要があります。
EPCISに問い合わせする前に、どこに該当するEPCの情報が記録されているかを知る必要があります。ONSは、サプライヤのEPCISを通知できますが、特定EPCの情報が複数存在している場合は対応できません。どこのEPCISを参照するかを知るには別の仕組みが必要です。
EPCglobalでは特定のEPCの情報を記録しているEPCISのアドレスを通知する仕組みとしてDiscoveryサービスを紹介しており今後仕様が議論されます。参考までに想定される Discoveryサービスの機能とEPCISとの関係を図に示します。
EPCISのセキュリティ
EPCISはインターネットに公開されるため、セキュリティ対策が重要になります。EPCISが提供するキャプチャインタフェースとクエリインタフェースを使って不正なデータの格納やアクセスがあると、サービスの信頼性を損なうのでセキュリティ対策を講じる必要があります。
キャプチャインターフェイスでは認証されていないクライアントからの格納を防止しなければなりません。キャプチャインターフェイスでは HTTPが使用されます。従って、HTTPの認証機能やSSL/TLSを使ったデータ暗号を行いてセキュリティを強化します。
クエリインターフェイスでは、認証されていないクライアントからのアクセスを防止すると同時に、許可されているデータのみを参照させるアクセス制御の仕組みや、不正なアクセスが行われていないかを監査する仕組みが必要です。例えば、小売業者が提供するEPCISに複数のサプライヤ製品のイベント情報が格納される場合、誰でもイベント情報を入手できるのではなくサプライヤは自社の製品イベントしか取得できないような仕組みが必要です。
クエリインターフェイスではWebサービスが使用されます。SOAPメッセージ内の信頼性を保証するためにWS-Securityを使うことが可能です。取引企業から送られたイベントのセキュリティを保つために、クライアントの認証と認可、ロールによるアクセス制御、不正アクセス防止と社内コンプライアンスのための監査の機能が必要になります。取引先が増えることが予想される場合は、将来の運用管理コストを下げるために、認証する基盤サービスも必要になります。
EPCISとESB
複数のEPCISが同じイベントを格納することもあります。特に、入荷と出荷は、納品する側と受入する側の双方が関係するため、それぞれのEPCISにイベントを格納する場合があります。
例えば、サプライヤが小売業者に入荷する(Gate-In)イベントをサプライヤのEPCISに格納してほしい場合、小売業者は自社とサプライヤのEPCISに同じイベントを送信します。サプライヤが出荷する(Gate-Out)でも同様に同じイベントを複数のEPCISに格納するケースがあります。
図の例では2社間ですが、実社会では複数の企業が複雑に関係しています。相手先のEPCISサーバのアドレスが変更されたり、配信するXMLデータの仕様が変更されたり、新たに接続先が増えたりする場合が想定され、これらの仕様変更のために下位層である業務アプリケーションの変更を行うのは大変です。これらの課題に対応できる技術として最近注目されているのがEnterprise Service Bus(ESB)です。
ESBはイベントの送信者と受信者の中間に配置され両者のマッピングを行います。送信者である業務アプリケーションは、受信者であるサプライヤが管理するEPCISの物理アドレスを知る必要がなく、ESBが管理する論理アドレスにメッセージを送ります。ESBは受け取ったイベントをEPCISの物理アドレスにマッピングしてイベントをEPCISに格納します。
ESBは事前ルールに基づいてイベント内容を変換することや、接続先を追加することもできます。EPCISの送信メッセージ仕様が変更されてもESB側で対応することも可能です。ESBで接続先を追加することにより、同じイベントを受信したいEPCISの増加にも対応できます。ESBを配置したアーキテクチャで設計することにより将来の仕様変更に柔軟に対応することができます。
ESBは参照のためのクエリでも重要な技術です。クエリインターフェイスはプル型モデルだけでなく、プッシュ型モデルも提供しています。あらかじめ登録した条件にマッチしたイベントが格納されると、EPCISは登録されたアドレスに通知します。EPCISがESBに通知すれば、情報を必要とするクライアントアドレスが変更されたり、クライアントが増加したりした場合、あるいはメッセージ内容を変換したい場合でも、ESB 内で対応することが可能で、個々の業務アプリケーションの変更を最小限にすることができます。
【関連記事】 ESB(@IT情報マネジメント用語辞典) |
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