モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


第5回 テーブルを介したコミュニケーションデザイン


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年7月23日


 テーブルを介した「コミュニケーションデザイン」

 オフィス内のコミュニケーションは、「フォーマル」なものと「インフォーマル」なものに分類できます。前者の代表的なものには「会議」や「講演」といった、あらかじめ決まった人たちが決まった形式で行われるものが挙げられます。

 一方、後者は、休憩所や昼食の際の会話や就業後の飲み会などの、業務として予定されておらず、あらかじめ決まったテーマや会話に縛りがないものとなります。最近では「飲みニケーション」手当として、部下がいる立場にある社員に毎月手当を支給する企業が現れるなど、このインフォーマルなコミュニケーションが重要視され始めています。

 その理由は、フォーマルなコミュニケーションの場で決定されたことを社員の“意識”に浸透させたり、一般社員の抱えている課題や意識を上司が把握したりする手段として、フォーマルなコミュニケーションの「場」よりも、フラットな関係でコミュニケーションが行えるインフォーマルなコミュニケーションの「場」が重要な役割を果たすと考えられているからです。

図2 フォーマルとインフォーマルの相互作用

 インフォーマルなコミュニケーションの中でも、飲み会の席などの「マテリアル(ごはんや雑誌などのモノ)」がある場合、コミュニケーションはさらに促進されます。このことは、テーブルを介して行われるコミュニケーションの観察調査を実施し、その形態を人数や状況などによって分類し、特徴を分析した結果にも表れました。

「テーブルを介したコミュニケーション分布図」。観察調査は、専修大学ネットワーク情報学部の上平崇仁准教授と同学部の学生の協力を得て実施された

 皆さんも実感したことがあるかと思いますが、マテリアルがなく「会話自体がコンテンツ」となるコミュニケーションの形態では、お互いの立場がすでに決まっていることが多くて親密なコミュニケーションは生まれにくいでしょう。

 しかし、食事などのリラックスした場に「ごはん」というマテリアルがある場合は、それがコミュニケーションを発生させる要素となり、活発な会話が生まれてお互いの親密度がアップするのです。

 このことに着目し、TangibleTableの引き出しの中には、会話のきっかけになるようなマテリアルがたくさん入るように制作しました。そして、すべてのマテリアルにRFIDタグを付け、テーブルの天板にあるリーダにかざすと、会話のきっかけとなるマテリアルにひも付いた情報が表出されるのです。

 そして、RFID技術を、情報を閲覧するきっかけとしてだけではなく、さらに情報を引き出し、情報を操作するための技術として用いることでTangibleTableの持つコンセプトを形にしています。例えば、引き出しの中のCDケースを取り出して、テーブルに置いて音楽を流した後に、そのケースを回転させることでボリューム(音情報)を調整するといった操作です。

 バーカウンターのようなスタイリッシュなファニチャーに人が集い、テーブルの引き出しにさまざまなマテリアルを用意し、そのマテリアルを操作することで新たな情報を生み出す。TangibleTableのある空間には、その一連のプロセスがデザインされ、コミュニケーションを促進させる「場」がつくり出されているのです。

 展示品を置かないミュージアム(博物館)

 ここからは、オフィス内に設けられた企業の歴史や製品を紹介する場である「コーポレートミュージアム」で実現された、テーブルを介したコミュニケーションデザインの展開例を紹介します。

 「ミュージアム(博物館)」という言葉を聞いて、皆さんはどのような「場」を想像されるでしょうか。美術品や歴史的価値のある書、はたまた恐竜の化石などが置かれている「場」を想像されたかもしれません。学芸員の方に説明を受けるシーンを思い浮かべた方もいるかもしれません。

 しかし、どのような博物館を思い浮かべても、共通しているのは、「比較的広い場所」で「リアルなモノ」が展示された「場」であると思います。

 ところが、オフィスという限られた場所で数多くあるリアルなモノを展示するスペースを確保することはなかなか困難なものです。そして、企業側からゲストに伝えたい情報を伝え、またゲストが知りたい情報を知ることができる「場」を構築するには、もてなす側と訪れた側がコミュニケーションをすることが欠かすことのできない要素の1つとなります。

 このような制約の中で、リアルなモノを置かずに、バーチャルなコンテンツで効果的に情報を伝え、かつ、そのコンテンツに「触れる」ことでコミュニケーションを促進する「ホストとゲストの両方にとって魅力的なミュージアム」を実現するために開発されたのが「プロジェクションテーブル」というプロダクトです。

 プロジェクションテーブルは、その名の示すとおり、テーブルトップにプロジェクション機能を持ったテーブル型のファニチャーです。そして、テーブルトップに情報が投影するトリガーとして、RFIDが装着された製品フィギュア(ミニチュア模型)を封入した4.5センチ角のアクリルキューブを使用します。

 コーポレートミュージアムという特性を考えて、企業年表をグラフィカルに表現した壁の中から、アクリルキューブを取り出す形態を採用しました。ゲストは年表からキューブを取り出し、何もない水盆のようなテーブルトップに置きます。すると、それに合わせて照明が暗くなり、不思議な音とともにキューブにひも付いたコンテンツ映像がテーブル上にふわっと浮かび上がります。

 文字で表現するとたったこれだけのことですが、プロジェクションテーブルは空間デザイン、情報デザイン、コンテンツデザイン、そしてゲストとホストという人の行動をデザインし、テーブルを介してコミュニケーションを促進する「場」をデザインした1つの成功例でもあります。

2/3

Index
テーブルを介したコミュニケーションデザイン
  Page1
コミュニケーションをデザインするテーブル「TangibleTable」
コミュニケーションからクリエイションへ
Page2
テーブルを介した「コミュニケーションデザイン」
展示品を置かないミュージアム(博物館)
  Page3
「触れる」コンテンツで人とモノ、人と人のインタラクションを発生させる
コミュニケーションを生む要素を盛り込むことの重要性
ニーズを実現するための技術と、「場」を演出する仕組み

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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