第5回
テーブルを介したコミュニケーションデザイン
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年7月23日
「触れる」コンテンツで人とモノ、人と人のインタラクションを発生させる
プロジェクションテーブルの開発メンバーは、限られたスペースという制限から「バーチャルコンテンツで展示する」という仮説を立てました。そして、初期の段階で、バーチャルコンテンツの持つメリットを考え、それを最大限に生かす形を検討したのです。
開発メンバーが挙げたコンテンツの持つメリットの一例 ・リアルなスペースに影響することなくコンテンツを展示できる ・小スペースで社史の流れや製品の変遷といった「文脈」が表現できる ・展示できる実物が残っていないモノも表現できる |
バーチャルコンテンツは、実物の有無・大きさ・設置環境などの物理的障壁が一切なく、かつ見せたいものと一緒に目に入る説明を追加できるなど、展示にとって重要な「情報の一覧性」を実現しやすいという強みがあります。
また、社史などを見る場合、年表のような「大きな物語」と、歴史を作った製品やトピックといった「個々の物語」の両方を見る必要があります。バーチャルなコンテンツは、このような情報の階層化や情報間のひも付けも得意とするところです。
バーチャルコンテンツを軸にして、実物展示をしのぎ、ゲストとホストにとって魅力的なミュージアムをつくるために、プロジェクションテーブルは単にスクリーンに映像として映すのではなく、歴史上の出来事や製品のフィギュアをアクリルキューブに封入し、それを置くことで情報を表示させる形を取っています。なお、この「場」には必ずホストがいることを前提としています。
コミュニケーションを生む要素を盛り込むことの重要性
ここで着目すべきは、フィギュア、テーブル、ホスト、そしてゲストが同じ「場」に存在するということです。これらの要素がコミュニケーションを生むために相互作用し、ゲストに伝えたい情報を伝えるというホスト側の目的も、企業の知りたい情報を知るというゲスト側の目的も達成するために重要な役割を果たしているのです。
キューブを手に取って、いろんな角度から見て、テーブルに置いてみるという、ゲストとモノとのインタラクションを提供することは、ゲストが本来知りたい情報を知るきっかけを提供しているともいえます。
キューブを実際に手に取って、それをテーブルに置くという行動の間には、必ず「手に取ってもいいですか」「どこに置いてもいいですか」という会話が生まれます。また、テーブルを丸形にすることで訪れた人がテーブルを囲みやすくし、テーブルトップをのぞき込むような形で情報を提供していることも、ゲストとホストの物理的な距離だけでなく、心理的な距離を近づける大きな要因となっています。
プロジェクションテーブルは、キューブやテーブルというリアルなモノだけでなく、その「場」にいる人の行動までもデザインすることで、人とモノのインタラクションだけでなく、人と人とのコミュニケーションを生む仕組みを構築しているのです。
ニーズを実現するための技術と、「場」を演出する仕組み
プロジェクションテーブルは、RFIDタグと連動したコンテンツマネジメントシステム、独特の不思議感を表現するためのコンテンツ表示技術、アコースティック(音場)環境を作るサウンドデザインといったさまざまな技術の集積で構成されています。
しかし、最初からこのような技術を用いることを決めていたのではありません。ホストとゲストにとって魅力的なミュージアムの構築を実現するために、これらの技術が必要であったのが実態です。すなわち、TUIを使って何かしようと考えていたわけではなく、さまざまな検討を重ねていくうちに、結果としてこのような形になったということです。
「ユーザーにとって必要なものを実現するために技術を用いる」。これはUCDの思想の1つでもあります。
このようにしてつくられたプロジェクションテーブルを体験した人は驚き、そしてとてもうれしそうな表情をします。驚かせたホストは、もっとうれしそうな顔で、自社の歴史や製品を語り始めます。
そのうちに、ゲストが年表の前に行って、勝手にキューブを取り出し始めます。タンジブルなキューブと、ちょっと不思議感があるコンテンツが、プレゼンテーションの「つかみ」を容易にし、自然なインタラクションを生み出している光景を見ることができます。
真っ黒な部屋、バックライトで照らされた壁一面の年表、情報を引き出すトリガーとして採用したキューブ、その年表を映し込むことにより存在感を消している真っ黒なテーブル、そこに現れるコンテンツ。そしてホストを必ず配置するようにしたこと。
このような構成要素相互の関係を精緻にデザインしたことにより、そこにゲストとホストのコミュニケーションを生むプロジェクションテーブルのある「場」は、まさに空間デザインと情報デザインが一体となることで、ユーザーの行動をデザインした「場」と評価することができるでしょう。
今回は、テーブルを介したコミュニケーションデザインを軸にした「場づくり」について紹介しました。さまざまな事例を通して私たちの「場づくり」を紹介してきた本連載も、次回で最終回になります。最終回でも、とてもユニークなプロダクトを用いて私たちの「場づくり」の考え方を紹介する予定です。ご期待ください。
3/3 |
Index | |
テーブルを介したコミュニケーションデザイン | |
Page1 コミュニケーションをデザインするテーブル「TangibleTable」 コミュニケーションからクリエイションへ |
|
Page2 テーブルを介した「コミュニケーションデザイン」 展示品を置かないミュージアム(博物館) |
|
Page3 「触れる」コンテンツで人とモノ、人と人のインタラクションを発生させる コミュニケーションを生む要素を盛り込むことの重要性 ニーズを実現するための技術と、「場」を演出する仕組み |
Profile |
株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター UCDチーム 「ユーザー中心の場づくり」を実践するために、株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター内に設立されたチーム。社内のさまざまなプロジェクトに参画し、UCDプロセスを軸にした「ユーザー中心の場づくり」に取り組んでいる。 |
モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン |
- 人と地域を結ぶリレーションデザイン (2008/9/2)
無人駅に息づく独特の温かさ。IT技術を駆使して、ユーザーが中心となる無人駅の新たな形を模索する - パラメータを組み合わせるアクセス制御術 (2008/8/26)
富士通製RFIDシステムの特徴である「EdgeBase」。VBのサンプルコードでアクセス制御の一端に触れてみよう - テーブルを介したコミュニケーションデザイン (2008/7/23)
人々が集まる「場」の中心にある「テーブル」。それにRFID技術を組み込むとコミュニケーションに変化が現れる - “新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ (2008/7/16)
電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
|
|
- - PR -