最終回
人と地域を結ぶリレーションデザイン
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年9月2日
ITかかしの置かれた「場」
このようにして、ITかかしは実現に至りました。出来上がったITかかしは期間限定で馬来田駅に設置され、実証実験が行われました。
愛嬌(あいきょう)のあるこのかかし型のデザインは、周辺の風景に溶け込み、駅を「見守る」役割を果たしていました。運行情報の伝達は、次に到着する列車が、いま、どこにいるのかという情報を、音声とLEDを使用して簡潔に利用者に伝えるため、駅の利用者にとてもありがたがられました。
写真4 馬来田駅に設置されたITかかし |
設置期間終了後、駅の利用者から「かかしがいなくなって寂しい」などの意見が多く寄せられました。実用的な側面以外で、どこか愛着のわく魅力のあるかかし型の端末は、情報配信システムという枠を超えた評価をいただいたのです。
また、東京駅行幸地下通路で開催されたイベント「musubi,musubu――結びのデザイン」にも出展し、「中央駅と無人駅を結ぶ」「隣の駅同士を結ぶ」「駅と地域を結ぶ」という3つのコンセプトは、多くの来場者の共感を得ることができました。
写真5 「musubi,musubu―― 結びのデザイン」にITかかしを出展した様子 |
今回のプロジェクトでも、ユーザーをプロダクト開発の中心に置き、ユーザーや関係する人々を巻き込み、システムや端末単体ではなく、その「場」にある課題や問題の背景、美点などを総合的にとらえ、プロダクトをユーザーに利用される文脈に当てはめることで、そこにプロダクトを軸にした快適な「場」を作り出すことができたといえるでしょう。
これからの「場づくり」におけるRFID×UCD
本連載では、RFID技術を利用したプロダクト開発の事例を中心に、私たちの「場づくり」への取り組みをUCD的な視点から紹介してきました。
RFIDを用いた技術は、私たちが紹介したプロダクトを挙げただけでも、CD試聴や目的地案内、商品比較などさまざまな目的を達成するために用いられています。
また、利用シーンも複雑になりました。以前はユーザーがICカードをタッチした後にレスポンスがあって終了だったものが、タッチパネルで操作しつつRFIDも利用するというような、一連の流れの中での利用も多くなってきました。
流れの中でRFIDを用いるプロダクトを構築する際には、特に「ユーザーの行動を中心」に置いて、そのプロダクトを設計・開発していく必要があります。
例えば、第2回で紹介したCD試聴システムでは、ユーザーは、タッチパネルを操作しながらRFIDタグの付いたCDをリーダにかざすという行為を何度も繰り返しながら、購入するCDを検討します。
この場合、いくらタッチパネル単体の操作が分かりやすくても、そこにRFID技術を利用するためにタッチパネルを離れるときのユーザーの行動を見落とした設計をしてしまっては、ユーザーにとって優しいプロダクトにはならないでしょう。
また、「ユーザーの行動を中心」に置くことに加え、プロダクト単体を構築するのではなく、そこに「ユーザーにとって快適な場」をつくり出すことを常に念頭に置いて活動することが重要です。
プロダクトを使う人、利用されるシーン、置かれる場所、取り巻く環境など、それぞれの関係性がデザインされ、ユーザーがプロダクトを利用する文脈に当てはまった「場」をつくり出すことこそが、ユーザーが本当に使いたいと思うプロダクトを生み出すために必要なことであると考えるからです。
連載を開始してから約半年がたちましたが、この間にも利用者ニーズの多様化やサービスの複合化、IT技術がもたらす情報環境の変化によって、ユーザーが営む「場」も変化しています。このような変化に応じて、私たちのUCDを用いた「場づくり」のプロセスやメソッドをさらに発展させる必要性を感じています。
ヒト/モノ/環境/IT技術など、さまざまな要素が複合的に絡み合う空間において、利用者の活動(行動)を中心に置いて「場」をデザインすることは、決して簡単なものではありません。しかし、UCDチームは、これからも的確にユーザーのニーズをとらえ、「誰の」「何のため」に「どんな場」をつくればいいのかを模索し、ヒト/モノをつなぐこれからの「場」のデザインについて研究開発を重ねていく予定です
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Index | |
人と地域を結ぶリレーションデザイン | |
Page1 ターゲットは無人駅 鉄道を中心とした「人の温かみ」の存在 フィールド観察調査の結果から方向性を導き出す |
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Page2 馬来田駅のことをもっと知りたい コンセプトの構築 それぞれを「結ぶ」 |
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Page3 ITかかしの置かれた「場」 これからの「場づくり」におけるRFID×UCD |
Profile |
株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター UCDチーム 「ユーザー中心の場づくり」を実践するために、株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター内に設立されたチーム。社内のさまざまなプロジェクトに参画し、UCDプロセスを軸にした「ユーザー中心の場づくり」に取り組んでいる。 |
モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン |
- 人と地域を結ぶリレーションデザイン (2008/9/2)
無人駅に息づく独特の温かさ。IT技術を駆使して、ユーザーが中心となる無人駅の新たな形を模索する - パラメータを組み合わせるアクセス制御術 (2008/8/26)
富士通製RFIDシステムの特徴である「EdgeBase」。VBのサンプルコードでアクセス制御の一端に触れてみよう - テーブルを介したコミュニケーションデザイン (2008/7/23)
人々が集まる「場」の中心にある「テーブル」。それにRFID技術を組み込むとコミュニケーションに変化が現れる - “新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ (2008/7/16)
電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
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