第2回
こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年4月7日
ユビキタス空間において求められるユーザーインターフェイスの形とは何か。若手技術者と若手クリエイターが、ユーザー中心の視点に立った空間デザイン論を考える(編集部)
第1回「ユビキタス時代の『場』づくり入門」では、「場づくり」についての全体像を紹介しました。今回は、 これから組織でUCD(User-Centered Design:利用者の行動を中心に置いたデザイン) に取り組まれる方、また取り組まれている方を対象に、前半ではわれわれがUCDに取り組む意義を、後半では「場づくり」においてUCDを適用した事例の1つである「CD試聴システム」のコンセプトメイキングから実現までの流れを紹介していきたいと思います。
利用品質を満たすということ
私たちのプロダクト開発は、企画者、設計開発者、デザイナーなど、開発にかかわるすべてのスタッフがユーザー視点に立って設計・開発するために、ユーザーの求める機能を満たす「機能品質」と、安心かつ安全に運用できる「性能品質」、さらにユーザビリティの品質とも定義される「利用品質」に重点をおいた開発プロセスを用いています。
旧態のプロダクト開発プロセスでは、機能品質と性能品質が満たされていても、利用品質を満たすプロセスはあまりみられませんでした。利用品質が満たされないプロダクトは、一見するとユーザーの要求を満たしているようですが、実際のユーザーに本当に“満足して”使っていただくことができないプロダクトが生み出されてしまう場合があります。
「ユーザーのために作り上げたプロダクトなのに、ユーザーに満足して使っていただけない」。このような矛盾が生まれないようにするために、われわれはすべてのプロダクト開発において利用品質を満たすプロセスを用いて取り組んでいるのです。
ここでもう少し詳しく「利用品質を満たす」とはどういうことかについて触れてみたいと思います。
冒頭で述べたとおり、利用品質はユーザビリティの品質とも定義されます。ユーザビリティとは、「特定の利用状況において、特定のユーザーによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザーの満足度の度合い」と定義されています(ISO 9241-11)。これを満たすには、まず前半部分にある“特定”される対象を明確にする必要があります。
しかし、利用品質が低いプロダクトでは、得てして開発の初期段階で、広範囲にわたって利用シーンをカバーしようとするあまり、「このプロダクトを利用するあらゆるシーン」、「このプロダクトのすべての利用者」というように、特定すべき対象をあいまいにしています。また、たとえ個々人で明確に特定していたとしても、それが開発メンバー間で共有されていない場合が多々あります。
さらに、「クライアント」のニーズと「エンドユーザー」のニーズをまとめて「ユーザーニーズ」ととらえてしまい、本来優先すべき「エンドユーザー」のニーズの優先付けを誤っている場合もありました。
その結果、初めはユーザー視点に立っていたつもりが、いつの間にか開発者視点での開発に陥ってしまい、機能品質と性能品質は満たされても利用品質が低いプロダクトが生み出されてしまう、というわけです。
「場」には、家具や照明などのマテリアル、それらを備える柱や天井・壁などのしつらえ、「場」を制御するためのIT技術、「場」を演出するための情報コンテンツなど、さまざまな要素が複合的に絡み合ってきます。そして、その「場」を営むユーザーも多種多様です。
それ故、「場づくり」には、単一のプロダクトを構築するよりも、もっと深く、具体的なユーザー像を知る必要があります。つまり、より“ユーザーの活動を中心”に置いた設計を行い、利用品質を保証する開発プロセスが必要になってくるといえます。
UCDプロセスを理解するための3つのフェーズ
UCDは、1986年にドナルド・ノーマンが提唱した設計手法であり、その後さまざまな研究が進められ、現在、ISO 13407(人間中心設計プロセス)によってその設計開発プロセスが定義されています。
それによると、そのプロセスは、人間中心設計の必要性の特定に始まり、「I.利用の状況の把握と明示」「II. ユーザーと組織の要求事項の明示」「III. 設計による解決案の作成」「IV. 要求事項に対する設計の評価」というステップをユーザーの目的を達成するまで繰り返し実践していくもの、と定義されています。
しかし、企業や団体によってその定義は異なることが多く、利用シーンに応じて標準化された体系があるわけではありません。ましてや、“リアル(な情報)とバーチャル(な情報)が交わる「場」におけるUCDの適用”という題目に関しては、調査を進めても参考になる結果を得ることはできませんでした。
そこで、私たちは、所属する組織(次世代ソリューション開発センター)内に設置されたUCDチームのメンバーとして、「場づくり」におけるUCDプロセスの社内標準を独自に策定することにしました。最適なプロセス作りに向けて、このUCDチームが中心となって実践を重ねていくことにしたわけです。現在も、さまざまな「場づくり」におけるUCDプロセスの適用や評価は、このチームが主導しながら進めています。
UCDチームでは、ISO 13407で定義されたプロセスを、開発にかかわる誰もが理解できるように「知るフェーズ」「つくるフェーズ」「評価するフェーズ」ととらえ、その中に「場づくり」特有の要素を盛り込んだステップを定義していきました(この要素については、次章以降のUCDプロセス適用事例で順次紹介していきます)。
実際の運用に当たっては、各プロジェクトに対してUCDチームのメンバーが参画し、開発プロセスをトータルでUCDプロセスにのっとって進めるように努めています。これは、UCDプロセスを効率的に進めるだけではなく、プロジェクトにかかわるメンバーに常にUser-Centeredという考え方を意識・浸透させる目的もあります。
プロセス論を確立することも重要ですが、実際にそれを運用するメンバーが、“ユーザーを中心とした快適な「場」をつくる”という意識を持つことが、そのプロジェクトがつくり上げる「場」を成功に導く鍵となるのです。
次章からは、私たちが実際に「場づくり」においてUCDプロセスを適用して取り組んだ開発プロジェクトを1つご紹介しましょう。
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Index | |
こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ | |
Page1 利用品質を満たすということ UCDプロセスを理解するための3つのフェーズ |
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Page2 ミッション:こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ プロダクトが利用される文脈を知る |
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Page3 ターゲットの明文化「ペルソナ」 文脈に当てはまるプロダクトをつくる |
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Page4 デザインの背景にユーザーニーズを置く 出来上がった「場」は…… |
モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン |
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