自衛隊とRFID(後編)

自衛隊のRFID実験から得られた読取率向上策


明翫 正樹
アクセンチュア株式会社
マネジャー
2007年3月22日
「自衛隊の国際平和協力活動における補給業務での電子タグ利活用検討のための実証実験」の狙いとは何か。報告書をベースに、実験から得られたものを検証する(編集部)

 RFIDタグの読取率はどうだったのか

 さて、このゲート型リーダ/ライタを使用した本実証実験における、RFIDタグの読取率の結果と、その結果から推察できる読取率向上に向けた対応策について記述する。

 あくまでも本実証実験期間中、ならびに本実証実験の環境においてという条件下ではあるものの、フォークリフト積載物品のゲート型リーダ/ライタ通過時のRFIDタグ情報の読取率は、全拠点平均で以下のとおりであった。

  • フォークリフト通常スピードでゲート型リーダ/ライタを通過した場合(以下、通常運用)で30.8%
  • ゲート型リーダ/ライタのアンテナ直下でいったん停止をした場合(以下、リカバリー運用)で81.3%
全拠点平均の電子タグ読取率(画像をクリックすると拡大します)―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

 以下では、全拠点平均での読取率を低下させている2つの拠点、横須賀地区と硫黄島基地に着目したい。

 海上自衛隊横須賀地区の読取率

 国内補給処・積載港を模擬した海上自衛隊横須賀地区におけるRFIDタグ情報の読取率データにかかわる顕著な特徴は、通常運用で読取結果が100%となった割合がほかの拠点に比べて著しく小さく(5.3%)、またパレットに貼付したRFIDタグの読取漏れの率が著しく大きい(52.6%)ということである。このことは、以下のような可能性を示唆していると考える。

  • 横須賀地区においては、ゲート型リーダ/ライタのアンテナ設定がパレットタグの読取率確保に対応し切れていなかった

 後述するが、ゲート型リーダ/ライタによるRFIDタグの読取可能領域は、ゲート構成面(ゲートと地面とで構成される長方形)に均質に同じ強度で存在するわけではなく、不均質に異なる強度で存在する。従って、ゲート型リーダ/ライタのアンテナ設定は、この不均質なRFIDタグ読取可能領域を、その場での運用の特徴(ゲート内を通過する物品の荷姿・高さ、フォークリフトのつめの高さ、フォークリフトの横幅など)に合わせて最適化することで実施することになる。

 本実証実験においては、この運用の特徴を把握するため、実証実験開始までに3日程度は本番で使用する物品とフォークリフト、および実際にフォークリフトを操作する担当者の組み合わせで読取試験を行い、ゲート型リーダ/ライタのアンテナ設定を実施してきた。

 しかしながら、横須賀地区においては、このゲート型リーダ/ライタの設定が不十分であった。そのため、パレットタグの読取率が上がらず、結果としてRFIDタグの読取率が著しく小さくなったものと考えられる。

 硫黄島基地の読取率

 経由地を模擬した海上自衛隊硫黄島基地(航空自衛隊硫黄島分屯基地)におけるRFIDタグ情報の読取率データにかかわる顕著な特徴は、通常運用時の読取率が35.7%とほかの拠点と比べて著しく低いわけではないにもかかわらず、ゲート下でいったん停止を行うリカバリー運用においても9回中2回が読取結果100%に満たなかったということである。

 これらのRFIDタグ読取対象物品は、24梱包から構成される海自の補給物品であった。これは、本実証実験で使用したプラスチックパレットへの梱包積載数としては最大であったのみならず、清涼飲料水、水処理剤といったUHF電波の透過性が低い液体物質が18梱包に含まれていた。このことから、硫黄島基地における読取率の低下は、梱包数と梱包内の個品の材質が招いたものと考えられる。

読取率低下を招いた海自物品(24梱包)の積載状態―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議


 パレットタグの読取率低下と解決策

 既述の海上自衛隊横須賀地区ならびに海上自衛隊硫黄島基地/航空自衛隊硫黄島分屯基地におけるゲート型リーダ/ライタの読取率結果を踏まえ、これら課題に対する解決策を検討する。

 本実証実験で使用したゲート型リーダ/ライタでは、以下に示すようなアンテナパターンを形成している。ただし、床面・壁・天井等からの反射はないものとする。

ゲート型リーダ/ライタによるアンテナパターン概念図―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

 このアンテナパターン概念図において、3つのアンテナパターンが交わる領域がこのゲート型リーダ/ライタによる読取率の最も安定した領域となる。なぜなら、この領域に存在するRFIDタグは、3つのアンテナから放射される電波すべてを受けられる可能性があるからである。

 本実証実験において前提としたパレット−梱包−個品の3階層では、必然的にパレットタグの位置が最も低くなるため、この概念図において“パレットタグの位置”として矢印で示した領域をパレットタグが通過する可能性は、梱包タグに比べて大きくなる。

 そこで、横須賀地区以外の拠点においては、事前準備段階でフォークリフトのサイズやフォークリフト操作者の癖(フォークリフトのつめの上げ幅(高さ)など)を把握し、アンテナの角度の調整を実施した。また、操作者に対してフォークリフトのつめの上げ幅(高さ)などに関する依頼も行った。

 つまり、本実証実験で使用したゲート型リーダ/ライタは、設置場所においてチューニングの実施とフォークリフト操作者による操作上のガイドラインの順守が、読取率向上のために必要となるのである。

 上記に加え、以下のような対応を実施することで、さらなる読取率の向上が期待されると考えられる。

  • 常にRFIDタグがアンテナパターンのすべての交わり部分、もしくは個々のRFIDタグが正対する個別アンテナのパターンが一番広がった部分を通過するような運用を行う(例えば、フォークリフトのつめの上げ幅を大きくする)
  • アンテナパターンが一番広い部分がゲートの中心になるようにアンテナを設置する。これにより、アンテナパターン内でのRFIDタグの存在が長時間化されるため、RFIDタグとリーダ/ライタ間での通信回数が多くなる。結果として読取率が向上する
  • 個々のアンテナのビーム幅を広くし、上記と同様の原理により通信回数を増やす。ただし、国内の電波法によりEIRP(注)が36dBmと規定されているため通信距離は短くなる
【注】
Effective Isotropic Radiated PowerあるいはEquivalent Isotropically Radiated Powerの略。実効等方放射電力あるいは等価等方放射電力と訳される。ある一定方向に放射される電波の強さを表す指標。

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Index
自衛隊のRFID実験から得られた読取率向上策
  Page1
実証実験で利用したコード体系
実証実験で利用したタグ、リーダ/ライタ
Page2
RFIDタグの読取率はどうだったのか
海上自衛隊横須賀地区の読取率
硫黄島基地の読取率
パレットタグの読取率低下と解決策
  Page3
梱包数(タグ数)の増大に伴う読取率低下と解決策
液体物質を含む梱包による読取率低下と解決策
読取率の全般的な向上に向けた解決策

自衛隊とRFID
前編:国際平和活動における補給業務とRFID利用
後編:自衛隊のRFID実験から得られた読取率向上策

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