自衛隊とRFID(前編)

国際平和活動における補給業務とRFID利用


明翫 正樹
アクセンチュア株式会社
マネジャー
2007年3月19日
「自衛隊の国際平和協力活動における補給業務での電子タグ利活用検討のための実証実験」の狙いとは何か。報告書をベースに、実験から得られたものを検証する(編集部)

 自衛隊の補給業務におけるRFID活用の背景と目的

 自衛隊では、従来にも増して国際平和協力活動など、海外における多様な任務に有効に対処することが求められている。そのため、任務の特性に応じて、部隊に対し、迅速かつ効率的な補給を実施するシステムの早急な確立が必要となる。

 このシステムは、国際平和協力活動などの補給の特性から、

  • 極めて短期間のうちに物資の輸送計画を策定できること
  • 輸送の管理ができること
  • 荒廃した宿営施設などに集積した物資の管理を、友好国との融通やセキュリティ管理を含め、わずかな人数で効率的に実施できること
  • 事態の変化に柔軟に対応でき、かつ本国からも管理状況を把握できること

といった高度な機能を兼ね備えたものでなければならない。

 このような高度な補給システムの確立に向けて、RFIDタグの利活用の可能性を検証したのが「自衛隊の国際平和協力活動における補給業務での電子タグ利活用検討のための実証実験」の目的であった。

 実証実験は、防衛庁・自衛隊(実験当時、現在は防衛省・自衛隊)の協力を得て、輸送計画の策定に始まり、補給処に集積された物資の梱包と払出の実施、陸上・海上・航空自衛隊それぞれの手段による輸送の管理、および輸送され海外宿営施設に集積された物資の撤収に至るまで、国際平和協力活動にかかわる補給のサプライチェーンを模擬した広範囲な領域での統合的な補給業務を題材としたRFIDタグの実証実験を行った。

【関連リンク】
経済産業省、平成17年度電子タグ実証実験の成果について


 自衛隊補給業務のビジネスモデル

 前述したとおり、自衛隊においては、国際平和協力活動などの多様な任務に有効に対処するため、これまで以上に迅速で効率的な補給業務(補給システム)の確立が必要となる。本実証実験プロジェクトにおいては、この補給業務が確立された将来像として、以下がすべて満たされた状態を想定した。

  • 多様な任務への対処を実現させる機動性(必要なときに必要なものを)
  • 費用の削減も含む補給業務の効率性(必要なだけ)
  • 部隊の要求に合わせた迅速性(より早く)
  • 補給物資の随時位置把握と経路管理による確実性(より確実に)

 すなわち、「必要なときに必要なものを必要なだけ、より早くより確実に補給する業務」の実現である。この業務を実現するためには、現場が全体を把握しながら最適な意思決定を行い得る、可視化された補給業務のビジネスモデルを構築することが最適である。

 自衛隊の補給業務機能に関する詳細な説明は割愛するが、当該ビジネスモデルの構築のためには、

  • 自衛隊の補給業務を構成する類別標準化業務では、標準化・統一化されたコード体系を確立し、これを使用すること
  • 需給計画業務では、需要と供給のミスマッチを最少化した、より精度の高い需給計画を作成すること
  • 請求処理業務では、簡単、迅速かつユーザーの要求に合わせてコントロール可能な請求処理が実施できること
  • 在庫管理業務では、いつでも、どこからでもリアルタイムかつ正確な在庫状況の把握と入出庫機能を兼ね備えること
  • 輸送業務では、より早く、より正確な部隊への輸送と、リアルタイムでの輸送状況の把握が実施できること

が求められる。

 これらが陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊という組織をまたがり実現されることで、より一層の効果が期待できる。

補給業務のビジネスモデル(画像をクリックすると拡大します)―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議


 自衛隊補給業務の実験シナリオ

 本実証実験の遂行に当たり、前述した自衛隊補給業務のビジネスモデルに対する仮説の正当性を検証するための実験シナリオを構築した。下図は、前述した自衛隊補給業務のビジネスモデルを階層化して表現したものである。

実験シナリオ(画像をクリックすると拡大します)―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

 本実証実験においては、この階層構造の中で、最上層に当たる“各自衛隊をまたがる補給物資の完全な可視化”と、最下層に当たる“国内補給処および海外宿営施設における物品・在庫管理にかかわる作業効率化”を対象としたシナリオを構築することとした。これらを実現することが、前述の「必要なときに必要なものを必要なだけ、より早くより確実に補給する業務」の実現への最短距離と考えられるからである。

 実証実験シナリオの全体像、想定場所、および輸送経路を以下に記す。

実験シナリオ全体の流れ―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

想定場所 実験場所



国内 補給処 陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地(関東補給処通信電子部部品組立工場)
海上自衛隊横須賀地区(艦船補給処保管部N-1倉庫)
航空自衛隊入間基地(第3補給処保管部第2倉庫)
積載港 海上自衛隊横須賀地区(艦船補給処保管部N-1倉庫)
海外
(A国/B国)
経由地 海上自衛隊硫黄島基地/航空自衛隊硫黄島分屯基地(航空自衛隊硫黄島基地隊格納庫)
積卸空港 航空自衛隊入間基地(第3補給処保管部第2倉庫)
宿営施設 陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地(関東補給処通信電子部部品組立工場)



海外
(A国/B国)
宿営施設 陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地(関東補給処通信電子部部品組立工場)
国内 補給処 陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地(関東補給処通信電子部部品組立工場)

実験場所と輸送経路―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

 RFIDタグ(パッシブタグ)を張り付けた補給物品を、陸自トラック、海自輸送艦、空自輸送機を使用して、国際平和協力活動のサプライチェーン上の地域を模擬したいくつかの自衛隊駐屯地に輸送した。この輸送の間に、各拠点において以下の実験を実施した。

1. 輸送の可視化

 補給物品の梱包、パレットに貼付されたRFIDタグ(パッシブタグ)の情報を、ゲート型RFIDリーダ/ライタで読み取り、その情報をシステムに取り込むことで、3自衛隊横断的に補給物品の輸送状況の可視化をする実験をした。

輸送状況の可視化(左図は霞ヶ浦駐屯地出荷後、右図は入間基地入荷後、画像をクリックすると拡大します)―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

2. 出発時・到着時・撤収時の補給物品管理

 国内補給処からの出発時、海外宿営施設への到着時、および海外宿営施設からの部隊撤収時を想定し、個品、梱包、パレットにRFIDタグ(パッシブタグ)を貼付し、補給物品の管理にかかわる以下のような実験を実施した。

  • 出発時を想定し、梱包したまま個品のRFIDタグ情報をリーダで読み込み、個品と梱包の情報をひも付けたうえで自動的に輸送物品リストを作成する
  • 到着時を想定し、梱包したまま個品のRFIDタグ情報をリーダで読み込み、輸送物品リスト、およびシステムが有する情報などと照合する
出発時・到着時・撤収時の補給物品管理イメージ―出所:(財)防衛調達基盤整備協会/電子タグ実証実験プロジェクト全体連絡会議

 
1/2

Index
国際平和活動における補給業務とRFID利用
Page1
自衛隊の補給業務におけるRFID活用の背景と目的
自衛隊補給業務のビジネスモデル
自衛隊補給業務の実験シナリオ
  Page2
RFIDタグの普及促進に向けた取り組み
なぜEPCglobal準拠のコード体系なのか
EPCglobalのコード体系とは

自衛隊とRFID
前編:国際平和活動における補給業務とRFID利用
後編:自衛隊のRFID実験から得られた読取率向上策

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