ブランディング、運用、ビッグデータ分析、キュレーション
ソーシャルカンファレンス2012の最後、第3部はソーシャルビジネスの最前線で活躍する5名で「ジャパナイズ・ソーシャルメディアのこれから」と題したパネルディスカッションが行われた。モデレータは深谷歩事務所 代表取締役の深谷歩氏。パネリストは以下の通り。
- サイバー・コミュニケーションズ 代表取締役社長CEO 長澤秀行氏
- メンバーズ 執行役員(ソーシャルメディアマーケティング・コンサルティング担当) 原裕氏
- ITジャーナリスト 本田雅一氏(米国ロサンゼルスからSkypeで参加)
- comcept CEO/コンセプター 稲船敬二氏
「日本のソーシャルを良くしていきたい」という想いを強く持つ5名の討論を以下、紹介する。
パネリスト。左から長澤氏、原氏、稲船氏、主催者の大元氏 |
■ソーシャルゲームには“スター”がいない
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深谷 まずは日本のソーシャルが抱えている課題について挙げていただければと思います。ゲーム業界の立場から見て、稲船さんはどのように感じていらっしゃいますか。
稲船 先ほどのセッションで僕が話した内容とかぶるんですが、日本のソーシャルは偏りがあり過ぎる。ビジネス色が強過ぎるんです。クリエイティブが乗っかることができない状態にある。ビジネスの人は、もっとクリエイティブを取り込む努力をしてほしいと切に感じます。
原 ソーシャルというと一般ユーザーへのリーチが強調されることが多いんですが、それだけではなくエンゲージメント、つまり発信側と受信側の間に確とした“つながり”を生み出すことが求められる。ソーシャルの伝播力は強力で速い。クリエーターが作ったコンテンツをビジネスはどう発信していくのか、その対応を間違えると大変なことになります。
長澤 長年レガシーの広告業界にいた人間から見ても、ソーシャルはメディアとして非常に魅力的です。しかし普及が進み、社会的なインフラになり、影響力が強くなれば、それなりの責任が生じます。クライアントはコンプガチャのような問題を起こすメディアには決して広告を出さない。そういう意味でコンプガチャはメディアの人間としては非常に残念な出来事でした。プラットフォームとしての基本的な設計を再考し、もう一度、仕切り直してほしいと思います。
稲船 ソーシャルゲームは僕らが親しんできたコンソールゲームと何が違うかというと、スターがいないんです。「あのクリエーターが作ったゲームだからやりたい!」とユーザーを動かせるスターがいない。あるのは仕組みだけ。だからその仕組みが崩壊したら、あっという間に終わる。コンプガチャ問題は、その典型です。仕組みが壊れたら別の会社で別の仕組みを作ればいいという考えが強いが、それは違う。ゲームはエンターテインメントなんだから、やはりスターがいないと、ユーザーを惹き付けられないんです。
大元 スターをどう露出させるかというのもソーシャルでは難しいですよね。クリエイティブとブランディングの問題はソーシャルでは課題だと思います。
本田 僕はソーシャルゲームの世界をけっこう面白いと思っていて、例えばアイテム課金なんかはモチベーションを引き出すための施策としてかなりユニークなのでは。ただ、これで成功している大きなメーカーってコナミだけかもしれない。
稲船 コナミが成功したのはいろいろ要因があるんですが、その1つはソーシャル部門にいきなり600名の人材を投下した決断力です。他社は多くてせいぜい100名程度。未来への投資として、そこまで踏み切れたのは本当にすごい。
深谷 企業がソーシャルを扱う場合、ビジネスとして利益を上げることも考えていかなければならないわけですが、ソーシャルゲームはビジネスとしてはかなり成功してきたのでは。
稲船 コンソールゲームの人間は、ゲームを作っているときにマーケティングや広告のことを気にすることは、ほとんどない。ゲームを作り終えるまでクリエイティブと広告が融合することがなかったのが、これまでの日本のゲーム業界です。でもソーシャルゲームはそれではダメで、ゲームを作っているときからマーケターがどんどん入り込んでくる。最初からビジネスありきで開発が進むんです。
■ソーシャルは「運用」が重要
大元 開発に「運用」というフェイズが入り込んでいる感じですね。「運用」がかかわると、さまざまなことが変わりますから。
原 「運用」は重要です。いま、ソーシャルを含めIT周りは運用にかかわるパラダイムシフトが起こっている状態だと言えます。
長澤 広告の世界も同じです。これまでテレビの広告は“効率良く、手離れ良く”が当たり前だった。ところが、最近はクライアントが広告代理店に「運用」を望むようになってきている。つまり、「“中の人”になって運用を手伝ってほしい」というニーズに変化しているんです。これはレガシーのエージェンシーには、かなり難易度が高く、体質改善を迫られていると言っていい。個人的には、これをおろそかにしているエージェンシーは時代に取り残されるという強い危機感を抱いています。
稲船 正直、クリエーターから見ると「運用? 何それ?」「開発がやるの? サポートがやるの? 営業がやるの?」というイメージだった。で、「よく分からないから外注してしまえ」となる。そうなると、内部にノウハウが蓄積されないんですね。実は「運用」ってすごく大事なのに、社内には誰も分かる人間がいない。これは大企業のトップは強く認識してほしい。
原 どんなビジネスにもいえることですが、中のことは中の人がかかわらないとダメなんですね。例えば、コールセンタなんかもそうで、内製化しているところとアウトソースしているところがあるけれど、どちらにしろ中の人がノータッチということはあり得ない。
稲船 ゲームの世界では「バグチェッカー」という仕事があって、いまは専用の会社もありますが、昔はバイトの仕事だった。当然ですが、かなりイイカゲンなわけです。これって、いまの運用の話と似ている部分があるような気がします。本来、内部の人間がやるべきことを外部に任せてしまうと、違う結果が出てしまう。社内と社外では同じ仕事をしていても、上がってくる内容が違ってくることを認識しておかないと。
深谷 ソーシャルの運用においても企業の姿勢が問われる、ということですね。
■ソーシャルは隠れていた“人格”を浮かび上がらせる存在
長澤 ソーシャルでは、企業も人も同じ人格として扱われることになります。特に企業は、その会社の本質や哲学がソーシャルを通して見透かされる時代になったことを意識すべきです。マーケティングの上手/下手という問題ではありません。“企業人格”みたいなものがさらされたとき、それに耐えられる企業じゃないと今後は淘汰されていくといえるでしょう。
昨日、サッカーのワールドカップ予選をテレビで見ながらCMをチェックしていましたが、その中で1つだけ、心に響くCMがありました。トヨタ自動車の「ReBORN」というCMです。北野武が震災の被害に遭った石巻市を訪れ、海に向かって「バカヤロー!」と叫ぶシーン、ここであえて「バカヤロー!」という(CMではあまり使われないネガティブな)言葉をあえて使ったトヨタ自動車の姿勢に深く感銘を受けました。企業人格とはそういうところに現れます。企業が社会とどう向き合っているか、ソーシャルの時代ではより問われることになる。
原 そういう意味で企業は、もっとオープンな姿勢を求められてきていると言えますね。
稲船 ソーシャルは企業とユーザーとの間にある距離を近くします。ところが、その近くなった距離感が分からず、うまく使いこなせない企業もある。そうすると、社員のTwitter禁止とかFacebook禁止とか時代に合わない規制をやってしまう。もっと“近い”ことをうまく使ったマーケティングをやればいいのにとつくづく思います。
僕はカプコン時代、900名の部下がいました。もちろん全員の顔なんて覚えられないし、部下も「稲船さんの発言はファミ通で読みました」とか、直接のコミュニケーションがほとんど取れない。僕、会社では「イナフキン」と呼ばれてましたから(笑)。それくらい社員からも遠い存在だったんです。でも、いまは20名くらいの部下で、すごくやりやすい。それだけではなく、Facebookやブログでユーザーとの距離がすごく近くなった。近いってことはとても心地良くうれしいことだと実感しています。
■「ビッグデータ分析」「キュレーション」も課題
深谷 距離の近さを意識したマーケティングがソーシャルでは重要になると。
長澤 ソーシャル時代のマーケティングといえば、ビッグデータの話が出てくることが多いですね。先日も「AKB48総選挙の予想をビッグデータ分析で的中させた」というニュースがありましたが、私から言わせれば、あれはビッグデータでもなんでもありません。ビッグデータを単なるマーケティングリサーチの手法としてとらえる向きがありますが、まったく違う。特にソーシャルにおいて、ビッグデータ分析で一番重要なのは、膨大なフローのデータから何ををすくい上げるのかです。いままでのマーケティングとは、まったく異なる点に注意すべきです。
深谷 膨大な情報がソーシャルに流れているからこそ、キュレーションの重要性も叫ばれることが増えていますね。
長澤 個人的にはソーシャルにおいては、ある程度マスメディアが率先する必要性を感じています。ソーシャルはメディアとしては未熟で、成熟するまでには時間がかかる。そういう状態では、どうしても原理主義的な発言に目が行きがちです。公平性を保つには、既存のメディアやジャーナリズムの役割が重要です。
本田 キュレーションというと誰もができるように思われているけど、最近はやりの「まとめサイト」、あれは発信者、つまり一次情報に触れている人が作るべきだと思う。公平性を保つという意味でも。
大元 個人のキュレーションはモラルハザードを起こしやすいですね。例えば、最近話題の「ノマド」なんかもそう。話題が独り歩きして、本質とは関係ないところで議論になる。
長澤 ソーシャルは、どうしても個人として発言力が強い人、声の大きい人が前に出がちです。その状況を嫌う人も少なくない。広告クライアントもソーシャルには魅力を感じているけれど、その成熟していない部分に躊躇している向きはあります。可能性は大きいけれど、未熟さゆえの課題も多い、それがいまのソーシャルの現状ではないでしょうか。
われわれの「ソーシャル」はまだ始まったばかりだ!
国内のソーシャルをめぐる7つのトピックを扱った「ソーシャルメディアカンファレンス2012」。「課題は多いが、ソーシャルへの流れはもう止まることはない」という現実を、あらためて実感したカンファレンスだった。
個人も企業も、ソーシャルによりつながりが拡がっていく一方で、その発言やアクションの1つ1つに責任が付帯するようになる。現在は、そのバランス感覚があやふやで、誰も確としたラインを見つけられていない。だからソーシャル上では炎上が起きやすいのだろう。
特に日本企業は、ソーシャルの炎上への恐怖感が強いのか、あるいは上層部にソーシャルへの理解が足りないのか、いずれにしろソーシャルの活用に対しては二の足を踏む傾向にある。
それでもわれわれは、もはやソーシャルから離れて生きることは難しい。本カンファレンスで浮き彫りになった課題を見つめつつ、未成熟な状態にあるソーシャルをいかに心地良い空間に変えていくことができるのか。トライ&エラーを繰り返しつつ、ソーシャルと寄り添っていく動きが、さらに加速していくことを期待したい。
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ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート いまの日本は「ソーシャル」が何か分かっていない |
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Page1 コンプガチャ、炎上など問題点が多い「ソーシャル」 コンシューマライゼーションが生み出す“うねり” |
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Page3 コンプガチャはクリエイティブじゃない 企業は“コミュニティ”で消費者と社会をつなげ |
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Page4 ソーシャルで変わっていくテレビの役割 |
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