マンスリー・レポート不景気が業界再編を加速する?(2002年5月号)デジタルアドバンテージ |
この「マンスリー・レポート」では、IT業界などのここ1カ月間の動向をまとめて毎月初頭にお送りする。過去1カ月間の動向を手早くチェックするのにお役立ていただきたい。 |
今回は、新年度がスタートした2002年4月の1カ月間を振り返ってみよう。4月下旬は決算発表が集中するときでもあり、景気回復の動向が気になるところ。IT業界に限らず、いまや米国株式市場全体にも影響を及ぼすIntelが、先陣を切って2002年第1四半期の決算を発表した。売上高は68億ドルと、前年同期比からは2%の増加と予想範囲内の順調な滑り出しとなった。しかし、前年同期がドットコム・バブル崩壊の影響を受けて、大幅に落ち込んでいたことを考えると、2%増加では景気が回復基調にあるとはいえない。実際、そのあとに続いたAMDやIBM、Compaqは、それぞれ前年同期比で24%、12%、16%の売上減と、業界全体としては未だに厳しい状態にある。日本国内の大手コンピュータ・メーカーの決算発表も行われたが、連結決算の結果は以下のとおり各社とも大きな損失をこうむっている。
企業名 | 売上高 | 純損失 |
日立製作所 | 7兆9937億円 | 4838億円 |
東芝 | 5兆3940億円 | 2540億円 |
日本電気 | 5兆1010億円 | 3120億円 |
富士通 | 5兆69億円 | 3825億円 |
主な大手コンピュータ・メーカーの2001年度(2001年4月〜2002年3月)決算 |
業界再編の動き
このように各社の業績が芳しくないのは、日本国内の景気低迷に加え、米国のドットコム・バブル崩壊や2001年9月11日のテロが大きく影響した結果だろう。このような景気の動向を反映してか、世界的に事業の再編や提携が進んでいるのが目に付く。最も大きな再編は、Hewlett-Packard(以下、HP)とCompaq Computer(以下、Compaq)の合併だろう。4月17日には、HPの臨時株主総会(3月19日開催)の最終結果として、賛成8379万票、反対7926万票でHPとCompaqの合併が承認されたという発表があった。その後、HPの創業者一族で取締役でもあったウォルター・ヒューレット(Walter Hewlett)氏が合併を決議した臨時株主総会の無効を訴えていたが、4月30日にデラウエア州の裁判所がその訴えを棄却した。これにより、予定どおり5月7日に両社が合併し、新生HPが誕生することになる。
Hynix Semiconductorのメモリ事業の売却もこの4月に一応の解決(?)を見た。売却先として、当初からMicron Technologyの名前が挙がっていたものの、なかなか最終合意に至らずにいた。やっと4月22日になり、Micron Technologyへの売却の覚書を調印したものの、4月30日にはHynix Semiconductorの取締役会で売却提案が否決され、一転、白紙に戻ってしまった。売却提案が否決された場合は、「自力での再建を目指す」としていたことから、今後はリストラなどを軸とした再建策が練られることになるだろう。同社の動向は、メモリ業界再編のカギと見られていただけに、今後の動きが気になるところだ。場合によっては、値上がり基調にあったメモリ価格が、再び下げに転じる可能性もある。
このほか、日立製作所とIBMのハードディスク事業の統合も大きな再編の流れといえるだろう。合弁で設立する新会社は、日立製作所が70%、IBMが30%の出資比率となることから、事実上の日立製作所によるIBMのハードディスク事業買収といえそうだ。ハードディスクはコンピュータ・システムだけではなく、デジタル家電やカーナビゲーション・システムなどに搭載されるなど、市場は拡大基調にあるが、一方で大容量化や小型化などの技術革新が激しく、莫大な開発費が必要とされる分野になっている(この点はメモリと似ている)。2001年4月2日にMaxtorがQuantumのハードディスク事業を買収したのに続き、日立製作所とIBMのハードディスク事業統合で、ハードディスク分野の寡占化は一層進むことになる。Seagete TechnologyやWestern Digitalといったマーケットシェア上位のベンダの動きが気になるところだ。
AMDとIntelが新しいプロセッサ・ブランドを発表
AMDとIntelからそれぞれ新しいプロセッサのブランド名が発表された。AMDは、これまで開発コード名「SledgeHammer(スレッジハマー)」で呼ばれていたサーバ/ワークステーション向け64bitプロセッサのブランドを「AMD Opteron(オプティオン)」とすると発表があった。また、Intelは開発コード名「McKinley(マッキンリー)」で呼ばれていた次期Itaniumを「Itanium 2」にすると発表した。製品出荷の予定は、AMD Opteronが2003年上半期、Itanium 2が2002年半ば(夏ごろ)とまだ若干時間があるが、両社とも戦略上、非常に重要な次期サーバ向けプロセッサということで早めにブランド・イメージを固めたいのだろう。
IDF Japan 2002 Springで新無線技術「UWB」を公開 キーノート・スピーチでは、Intelの副社長 兼 最高技術責任者(CTO)のパトリック・P・ゲルシンガー(Patrick P. Gelsinger)氏がUWB(Ultra-Wideband)技術のデモを行った。UWB技術は、FCC(米国連邦通信委員会)が2月14日に承認を行った無線技術で、数GHzという幅広い帯域に対して短いパルス信号を小出力で送信することでデータ通信を行おうというもの。UWB技術の出力レベルは、PCや冷蔵庫などから漏れる電磁波ノイズと同程度である。このように小出力であるため消費電力が小さいうえ、広い帯域を使うことで数百Mbits/sのデータ通信が可能である。ゲルシンガー氏は、現在は5mの範囲で100Mbits/sであるが、将来的には10mで500Mbits/sのデータ通信が可能になると述べた。日本では電波法でUWB技術の使用が許可されていないため、デモはシールドされたケース内で行われたが、短距離間のデータ通信技術としては有力なものと感じた。なお、UWB技術は法規制に加えて、広帯域を利用するためアンテナが大きくなるという問題もあるが、IntelとしてはMEMS(Micro-Electro Mechanical System:半導体技術を応用した微細加工技術)などにより、小型のアンテナが実現可能であるという見通しを持っているようだ。 また、ゲルシンガー氏はムーアの法則について、「私が退職する25年先まで守られる」と、Intelの半導体技術に対して自信を見せた。ムーアの法則については、Intelの研究機関であるIntel Labsのマーケティング・ディレクターのデビット・ライアン(David P. Ryan)氏にインタビューした際にも確認したが、同氏も「現在、シリコン技術については、これまでになく先が見通せる状態にあり、技術者は25年以上もムーアの法則が続くように新しい技術を開発するだろう」と述べている。 このほか、IDF Japan 2002 Springで次世代のノートPC向けプロセッサ「Banias(開発コード名:バニアス)」が初公開されるなど、充実した内容であった。次回の米国で開催されるIDF Fall 2002は、9月9日から12日までカリフォルニア州サンノゼで予定されており、ここでBaniasの詳細なアーキテクチャなどが公開されるはずだ。また、PCI Express(3GIO)や無線LAN技術などについても新しい情報の公開が期待される。 |
Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント |
PCI-X アーキテクチャの概要(コンパックコンピュータ 2001/08) PCI-Xは、2002年からIAサーバ分野で急速に普及すると見られる新しい拡張バス規格。その概要や登場の背景、PCIに対する特長などがプレゼンテーション形式で簡潔にまとめられている。 |
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ニュースリリース
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AMD、次世代サーバ/ワークステーション向けプロセッサを「AMD Opteron」と命名 |
エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002 |
関連リンク | |
UWB技術の承認について |
「System Insiderの連載」 |
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