特集 1. IAサーバとは何か? |
IAサーバは「PCサーバ」と呼ばれることもある。この呼称だと、デスクトップPCのようなIBM PC/AT互換機が連想されるため、「PCサーバ=大きなデスクトップPC」というイメージにつながりがちだ。しかし、出自はIBM PC/AT互換機でも、現在のIAサーバはさまざまな点でデスクトップPCとは大きく異なっている。まずは、IAサーバとはどんなコンピュータ・システムなのか、どのような種類のIAサーバがあるのか、といった点から解説しよう。
IAサーバの成り立ち
IAサーバの「IA」はIntel Architectureの頭文字を表す言葉だ。Intelが開発したアーキテクチャあるいはプロセッサを連想させるが、実際のところIAサーバといえば、
- x86プロセッサおよびその互換プロセッサを搭載したサーバ
- Itanium搭載サーバ
という2種類のサーバを指す。このうち前者は、IBM PC/AT互換機をベースに誕生したサーバであり、登場当初からしばらくは「PCサーバ」と呼ばれていた。それが「IAサーバ」という呼称に変わっていったのは、PCサーバが発展していく過程で、「PC」という呼称で想像されるデスクトップPCとはハードウェア的にもマーケティング的にも乖離していったからだ。
下表は、現在の各種アーキテクチャのサーバ・マシンを大まかに分類したものだ。
名称 | 概要・特徴 | |
IAサーバ | x86プロセッサ搭載サーバ | Intelのx86プロセッサおよびその互換プロセッサを搭載するサーバ。IBM PC/AT互換機をベースとしている。開発体制は水平分業型。価格が安く、小規模のシステムでは高いシェアを誇る |
Itanium搭載サーバ | IntelのItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)を搭載するサーバ。登場して間もないため、まだ普及には至っていない | |
RISC/UNIXサーバ | 各社が独自に開発するRISCプロセッサとUNIX系OSを採用するサーバ。開発体制は垂直統合型で、基本的にメーカーが異なると互換性はない。IAサーバより高価だが、中規模〜大規模なシステムに強い | |
メインフレーム | 古くから企業の基幹業務など大規模システムで利用されてきた大型コンピュータ。新規の開発はほとんど途絶えており、RISC/UNIXサーバでの代替が増えている | |
各種アーキテクチャのサーバ・マシンの分類 | ||
現状では、最も古い歴史を持つメインフレームの市場をRISC/UNIXサーバが攻略しようとしているのと同様に、IAサーバもまたRISC/UNIXサーバが押さえている市場を狙っている。 |
IBM PC/AT互換機をベースに開発された「PCサーバ」は、1990年代前半、当時のネットワークOS(NetWareやWindows NTなど)と組み合わせて小規模システムの構築によく利用され、LANとともに次第に普及していった。当時のPCサーバには、サーバ独自の技術も用いられていたが、デスクトップPCと同じハードウェア・コンポーネントも比較的多く使われていた。また、PCサーバが対象としていたのも小規模なネットワークが多く、RISC/UNIXサーバとは大きく競合していなかった。
しかし、次第にPCサーバの市場が拡大して業務におけるPCサーバの重要性が増すと、必然的により高いレベルの性能や機能、信頼性などが要求されるようになった。そこでIntelや各サーバ・メーカーは、さらに多くのPCサーバ専用の技術を開発・投入してきた。当然、ハードウェア的にはPCサーバとデスクトップPCの共通性は次第に下がっていった。
そして次第にPCサーバの性能や機能などが高まるにつれて、Intelや各PCサーバのメーカーは、RISC/UNIXサーバやメインフレームが確保している中規模〜大規模システムの市場にも、PCサーバを食い込ませることを狙い始めた。それには、一般的に「PC」という単語がもたらす「安いけど信頼性などに欠ける」というイメージはマイナスに働く。つまり、マーケティング上では「PCサーバ」という名称は不利になる、という判断だ。
こうした理由から、メーカー側はPCサーバではなく「IAサーバ」と呼ぶようになってきている。実際、IBM PC/AT互換機ではないItaniumサーバまで含めると、「IAサーバ」という呼称の方が現状に適しているだろう。
デスクトップPCと何が違うのか?
では現在のIAサーバと普通のデスクトップPCでは何が異なるのだろうか? ルーツはいずれもIBM PC/AT互換機であり、ソフトウェアの互換性はある(基本的に同じOSが動作する)。異なるのは、ハードウェアの設計上で重視するポイントである(下表)。
項目 | 内容 |
性能 | 多数のユーザーからのサービス要求にこたえるために必要。特にI/O性能が重視される。ただし、グラフィックス性能については、あまり問われない |
拡張性/スケーラビリティ | サーバはデスクトップPCなどより長く使い続けるので、業務が拡大して負荷が増大したり、用途が増えて標準でない機能が要求されたりすることがある。そのため、サーバ全体を置き換えずにハードウェアを追加することで、性能を高めたり機能を増やしたりできる必要がある |
耐障害性 | 重要な業務サービスを担うサーバは、例えばハードウェアの障害で簡単にサービスを停止するのは望ましくない。ハードウェアの二重化などにより、障害が発生してもサービスを継続して提供できるような設計が要求される |
信頼性 | 障害対策だけではなく、そもそも故障しにくい信頼性の高いハードウェアが要求される |
保守・管理 | サーバの動作をリモート環境から監視したり、すばやくハードウェアの故障を検出して管理者に知らせたり、といった機能が必要 |
デスクトップPCに比べてIAサーバのハードウェアで重視されるポイント | |
サーバの規模が大きくなるほど上記の各項目が重要になり、サーバとしてより強力なハードウェアが要求される。 |
例えばハードディスクの耐障害性を確保するには、RAIDなどの仕組みが必要になる。デスクトップPCではコスト優先でRAIDまで導入できない場合が多いが、サーバでは一般的な装備だ。また拡張性/スケーラビリティでも、例えばデスクトップPCのプロセッサはたいてい1基まで、ハイエンドでも2基までだが、サーバでは4〜32基まで装備できる製品もある。当然、こうしたIAサーバのハードウェア構成はデスクトップPCと大きく異なる。さらに具体的な違いについては、次ページから解説していく。
IAサーバの分類について
次にIAサーバの「分類」について確認しよう。デスクトップPCにもハイエンドとエントリ・クラスが存在するように、IAサーバにもその規模に応じた分類がある。以下は、旧来からあるIAサーバの分類方法だ。
セグメント名称 | 内容 |
エンタープライズ(ハイエンド) | 企業全体のネットワークをカバーする大規模システム |
ミッドレンジ | 企業内の1部門クラスのネットワーク向け(中規模システム) |
ワークグループ | 企業内の1部署クラスのネットワーク向け(小規模システム) |
エントリ・クラス | 営業所やSOHOなど、ごく小規模のネットワーク向け |
旧来からあるIAサーバの分類 | |
これは企業内LANにIAサーバを設置して運用することを想定した分類方法である。いまでも、サーバによる製品ラインアップでよく見かける。 |
注意が必要なのは、メーカーによって各セグメントの定義が異なることだ。ほとんど同じ仕様のサーバでも、メーカーが異なると一方はミッドレンジで他方はエンタープライズ、と食い違ってしまうことがある。また、サーバの用途は特定されていないので、少々乱暴な分類といえなくもない(例えばファイル・サーバとアプリケーション・サーバでは、ネットワークの規模やユーザー数が同じで分類上も同一セグメントだとしても、ハードウェアの要件はまったく異なる)。
上表のような分類に対し、インターネット向けサービスで用いられる「サーバの3階層モデル」に基づいた分類方法が、最近よく使われるようになってきている(下図)。
サーバの3階層モデル | |||||||||
各種のインターネット向けサービス(BtoCなど)を提供するシステムでは、このように特性の異なるサーバを階層的に接続する構成をとることが多い。 | |||||||||
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現状では、メーカー側でもこの2種類の分類方法が混在している状態なので、混乱しないよう注意する必要がある(例えば、ミッドレンジとミッド・ティアは似ているが同義ではない)。
このほかには、搭載可能なプロセッサ数や物理的な形状(フロア/ラックマウント/ブレード)で分類する場合もある(詳細は次ページからのプロセッサやケースの解説で述べる)。
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さて次ページからは、以下の図のように、サーバを構成する各種ハードウェア・コンポーネントにそれぞれフォーカスを当てて解説していく。
IAサーバのハイライト | |||||||||||||||||||||
IAサーバを構成する7種類のハードウェア・コンポーネントを取り上げて解説していく。 | |||||||||||||||||||||
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