特集 3. 多様なIAサーバ向けプロセッサを把握する(2) |
なぜ高性能なIAサーバ向けプロセッサは
大容量キャッシュを内蔵するのか?
マルチプロセッサと関連して、IAサーバ向けプロセッサの特徴といえるのは、大容量の内部キャッシュを搭載していることだ。
プロセッサ目 | 内部キャッシュ |
Pentium III Xeon (4プロセッサ対応) |
2次キャッシュ:1Mbytesまたは2Mbytes |
Intel Xeon MP | 2次キャッシュ:256Kbytes 3次キャッシュ:512Kbytesまたは1Mbytes |
(参考)デスクトップPC向けPentium III | 2次キャッシュ:256Kbytesまたは512Kbytes |
(参考)デスクトップPC向けPentium 4 | 2次キャッシュ:256Kbytesまたは512Kbytes |
IAサーバ向けプロセッサの内部キャッシュ容量 | |
Pentium III Xeon(4プロセッサ対応)もIntel Xeon MPも、ミッドレンジからエンタープライズのIAサーバ向けプロセッサである。基本アーキテクチャが同じであるデスクトップPC向けプロセッサに比べ、2〜4倍以上の容量のキャッシュ・メモリを内蔵している。 |
キャッシュ・メモリの容量が増えるほどキャッシュのヒット率は高くなり、遅いメイン・メモリへのアクセスが減る。その結果、プロセッサの性能は向上する。その点では、プロセッサが1つの場合でも、キャッシュ容量の増加は性能向上に効果がある。しかし上表のプロセッサが大容量キャッシュを内蔵しているのは、マルチプロセッサ構成時に各プロセッサからメイン・メモリへのアクセス頻度を下げ、プロセッサ・バスでのアクセス競合を抑える、という目的もある。さもないと、プロセッサ数が増えてもアクセスの競合ばかり増えてしまい、システムとしての実性能の向上に結びつかないからだ。またプロセッサ数が多いシステムではメイン・メモリ容量も大きいのが自然で、それに合わせてキャッシュ容量も増やすべきだ、という理由もある。
低消費電力はサーバ向けプロセッサの新たな要件に
ここまでは、プロセッサの性能とそのスケーラビリティに注目してきたが、そのほかにも重要な要件として「低消費電力/発熱」がある。「特集:高密度サーバはどこに向かうのか?」で解説しているように、最近のIAサーバのトレンドの1つは「高密度化」であり、限られた設置面積にできる限り多くのサーバを詰め込みたいというニーズがある。そのためには、サーバ1台あたりの消費電力と発熱を低く抑えなければならない。
そのために、もともと消費電力と発熱量の小さいノートPC向けプロセッサが、IAサーバにも利用されるようになってきている。Intelは、駆動電圧の低い(=消費電力の小さい)超低電圧版Pentium IIIを高密度サーバ向けのラインアップに加えているが、これは超低電圧版モバイルPentium III(あるいはPentium III-M)をベースにしたものだ。また、ブレード・サーバの中にはTransmetaのCrusoeプロセッサを採用するものも存在している。Crusoeも低消費電力を特徴とするプロセッサで、ミニノートPCによく搭載されている。
ただ、これらのプロセッサは消費電力と引き替えにクロック周波数は低く、性能は決して高くない。もともと高密度サーバは、サーバの3階層モデルのうちフロントエンドに利用されるもので、性能の高さはそれほど要求されない。それゆえ、フロントエンドより性能を必要とする用途には転用しにくい、ということは覚えておいた方がよいだろう(ただし後述するように、このセグメントに合わせて、消費電力と発熱量を抑えつつ性能が高いプロセッサが開発中だ)。
大きく変わったIAサーバ向けプロセッサのラインアップ
最後に、実際のIAサーバ向けプロセッサのラインアップを説明しよう。ちょうど2002年はIAサーバ向けプロセッサのマイクロアーキテクチャが世代交代する時期なので、新旧プロセッサが入り交じっていて少々複雑なラインアップになっている。まずは2001年時点でのIAサーバ向けプロセッサのラインアップを確認しよう。
プロセッサ名 | 概要 | 搭載されるIAサーバの種類 |
Pentium III Xeon(4プロセッサ対応) | Pentium IIIをベースに、1M〜2Mbytesという大容量2次キャッシュを搭載したプロセッサ。4基までのSMP構成をサポートする | ミッドレンジからエンタープライズ(ハイエンド) |
Pentium III Xeon(2プロセッサ対応) | 2基までのSMP構成に対応するプロセッサ。その仕様はほとんどPentium IIIと同じであり、Pentium IIIを採用するサーバ・ベンダが多かった | ワークグループ、ミッドレンジの一部 |
Pentium III-S | Pentium IIIをベースに2次キャッシュを512Kbytesに倍増したプロセッサ。2基までのSMPに対応する | ワークグループ、ミッドレンジの一部 |
Pentium III | デスクトップPC用のPentium IIIとほぼ同じもの。2基までのSMP構成が動作保証されている。次第にPentium III-Sで代替されてきている | エントリ・クラス、ワークグループ、ミッドレンジの一部 |
Celeron(Pentium IIIベース) | デスクトップPC用と同じCeleron(Pentium IIIベース) | エントリ・クラスの一部 |
超低電圧版Pentium III(超低電圧版モバイルPentium III-M) | 低消費電力で発熱量の小さい高密度サーバ向けのPentium IIIベースのプロセッサ。ノートPC向けに開発されたプロセッサをほぼそのまま流用している | 低価格な1Uラックマウント・サーバやブレード・サーバなど高密度サーバ |
Itanium | IA-64対応の初代プロセッサ。x86プロセッサとはまったく異なるアーキテクチャを採用している。4基までのSMP構成に対応 | エンタープライズ(ハイエンド) |
2001年のIAサーバ向けプロセッサのラインアップ | ||
Itaniumを除けば、すべてPentium IIIベースのx86プロセッサである。このうちPentium III Xeonは上記のように同一名称でSMP対応プロセッサ数の異なる2種類の製品があるので注意が必要だ。またPentium III-Sはスペック表で単に「Pentium III」と表記されている場合が多いが、デスクトップPC向けのPentium IIIとは2次キャッシュの容量が異なる。 |
これが2002年では、次のようなラインアップに変わっていく予定だ。
プロセッサ名 | 概要 | 搭載されるIAサーバの種類 |
Intel Xeon MP | Intel Xeonをベースに、512K/1Mbytesという大容量3次キャッシュを搭載したプロセッサ。4基までのSMP構成をサポートする | ミッドレンジからエンタープライズ(ハイエンド) |
Intel Xeon | Pentium 4ベースのIAサーバ向けプロセッサ。その仕様はPentium 4とほとんど同じだが、2基までのSMP構成をサポートする点が異なる | ワークグループ、ミッドレンジの一部 |
Pentium 4 | デスクトップPC用のPentium 4。SMPには非対応である | エントリ・クラス |
Celeron(Pentium 4ベース) | 2002年中に登場予定のPentium 4ベースのCeleron。デスクトップPC向けだが、サーバ・メーカーが独自にエントリ・クラスのIAサーバに搭載する可能性がある。SMPには非対応 | エントリ・クラスの一部 |
超低電圧版Pentium III(超低電圧版モバイルPentium III-M) | 低消費電力で発熱量の小さい高密度サーバ向けのPentium IIIベースのプロセッサ。ノートPC向けに開発されたプロセッサをほぼそのまま流用している | 低価格な1Uラックマウント・サーバやブレード・サーバなど高密度サーバ |
McKinley(開発コード名) | 第2世代のIA-64プロセッサ。初代Itaniumに比べてクロック周波数の向上やアーキテクチャの変更により、性能を高めている | エンタープライズ(ハイエンド) |
2002年のIAサーバ向けプロセッサのラインアップ | ||
2001年と比べると、Pentium IIIベースのプロセッサの多くはPentium 4ベースに変わっているのが分かる。Pentium III XeonはIntel Xeon/Xeon MPで、またPentium III-SやPentium IIIはPentium 4やIntel Xeonでそれぞれ代替されていく予定だ。 |
ポイントの1つは、IAサーバ向けx86プロセッサはPentium IIIのP6アーキテクチャから、Pentium 4のNetBurstアーキテクチャに変わっていく、という点だ。当初のIntelのロードマップでは、2001年内からPentium 4ベースへの移行が始まる予定だったが、対応チップセットの開発遅延などにより、ようやくリリースが始まったというのが現状である。もちろん、2001年までのラインアップに比べて各プロセッサの性能は高まっている。Itaniumファミリについても、開発コード名「McKinley」という第2世代のプロセッサに世代交代する。
Intel Xeon MP |
ミッドレンジとエンタープライズの一部を担うIntelの新しいIAサーバ向けプロセッサ。2002年4月時点でクロック周波数は1.40G〜1.60GHzまでで、Pentium 4に比べると低めだが、内部キャッシュ容量は2倍以上あるため、特にサーバ用途での性能は高い。 |
例外的に変わらないのは、高密度サーバ向けの超低電圧版Pentium IIIである。Intel XeonやPentium 4など現時点のNetBurstアーキテクチャではクロック周波数が高い分、消費電力や発熱量が大きく高密度サーバには不向きだからだ。実際、後述するロードマップのように超低電圧版Pentium IIIの後継には、NetBurstアーキテクチャは採用されず、低消費電力を重視して新規開発中のプロセッサ「Banias(開発コード名)」が登場予定だ。
こうしたプロセッサの世代交代によるIAサーバの新旧製品の交代は、デスクトップPCより比較的ゆっくりとしたペースで行われるはずだ。その理由の1つには、プロセッサに限らず、新たに登場したコンポーネントが設計どおりに正しく動作するか確認する検証作業を、IAサーバではデスクトップPCよりじっくり詳細に行うからだ。もちろん、デスクトップPCよりはるかに複雑な構成のミッドレンジ/エンタープライズ・サーバだと、開発そのものにも時間がかかる、という理由もあるし、導入までに時間がかかるサーバの場合、コロコロとモデルチェンジされてしまってはシステム・ベンダもユーザーも困るという事情もある。そのため、Pentium III Xeon(4プロセッサ対応)搭載サーバがIntel Xeon MPサーバですべて代替されるには、しばらく時間がかかるだろう。
■プロセッサの世代交代はいつまで続く?
プロセッサの世代交代は2003年に向かってまだ続く予定である。IAサーバを購入した直後に予期していなかった新プロセッサ搭載製品が登場、といったことがないよう、今後のIAサーバ向けプロセッサのロードマップをチェックしておこう。
2002〜2003年のIAサーバ向けプロセッサのロードマップ |
これはIntelが2002年春のIDFで発表したものだ。青字のプロセッサ名はすべて開発コード名である。「パフォーマンス/ボリューム」セグメントは、ミッドレンジの一部やワークグループ、エントリ・クラスのセグメントに相当する。これを見ると、2002年後半から2003年にかけて、全セグメントが新しいプロセッサに切り替わる予定なのが分かる。 |
このように、2002年後半から2003年に向けて、さらに新しいプロセッサに切り替わっていくことが分かる。その中でも注目の1つはIPF(Itanium Processor Family)の拡大で、2003年には低価格なIA-64プロセッサ「Deerfield(開発コード名)」がワークグループ・セグメントに投入される予定だ。その上位には、製造プロセスを微細化してキャッシュ容量を増やす、開発コード名「Madison」が登場する。さらに詳細は「元麻布春男の視点:攻撃的なIntelのサーバ向けプロセッサ・ロードマップ」を参照していただきたい。
また高密度サーバのセグメントで2003年早々に登場する予定の開発コード名「Banias」は、消費電力と発熱量を抑えつつ性能を発揮させるという目標で開発中のプロセッサである(ノートPCと高密度サーバの両方に製品が展開される予定)。現状のPentium IIIと比べて性能は高くなるため、ブレード・サーバの性能向上も期待できる。
これまでIAサーバ市場では奮わなかったAMDも、新アーキテクチャのサーバ/ワークステーション向けプロセッサ「SledgeHammer(開発コード名)」を2003年に出荷予定としている。従来はチップセットで外付けだったメモリ・コントローラをプロセッサに内蔵し、HyperTransportと呼ばれる高速I/Oでプロセッサ間を接続してマルチプロセッサ・システムを構築するなど、SledgeHammerは従来のIAサーバ向けプロセッサと設計思想が大きく異なる製品のようだ。
このようにIAサーバ向けプロセッサは、2002年のマイクロアーキテクチャの世代交代(Pentium IIIベース→Pentium 4ベース)だけにとどまらず、2003年にかけても変更が予定されている。IAサーバの購入を予定しているなら、しばらくはその動向に注目していく必要があるだろう。
次のページからは、メモリ・サブシステムについて解説していく。
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